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だから僕は男なんですってば!!  作者: あわき尊継
第三章

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33/59

29

 近寄る足音を聞いても、僕は何かをしようと思えなかった。

 身体の中からごっそりと気力が消え失せてる。もう動かないシズクちゃんを抱いて、指先一つ動かせずにいる。

 ここを離れたくない。

 ずっと側に居たい。

 彼女と、僕に光をくれた大好きな人と、離れたく――


「《ロック》だ」


 続けて、錠の落ちる音を聞く。

 黒のドレスが消え失せた。変身する前に着ていた制服姿となる。胸元に手をやれば、金細工の首飾りが無くなっていた。それももう、どうでもいい気がした。


 肩に置かれた大きな手に、いやいやと首を振る。


「お姉様、お願いしますッス」

 傍に膝を付いたマコトちゃんがシズクちゃんにしがみつく僕の手を丁寧に外していく。僕だけじゃなく、彼女も傷付けまいとする手つきで。


 長い時間を掛けて引き剥がされた僕は、ふらつきながらも手を引かれて立ち上がった。


「ソイツは連れて行かせない――ッ!」


 横合いから激しい叫びを聞いた。

 白の魔法少女、淡雪さんだ。肩から沢山の血を流し、それ以外にも細かい傷を身体中に受けた彼女が、モーニングスターを振り上げて突進してくる。

 最初に動いたのは藤崎くんだった。

 けど、彼が淡雪さんを迎え撃つより早く、無理矢理引き千切られたような大木が巨体を吹き飛ばした。


「ツバサとシズクに近寄るなァァァアアアアアア!」


 次々投じられてくる木、ベンチ、電柱。

 質量があるものならなんでも構わないとばかりに乱暴な攻撃はアズサさんのものだった。

 トールハンマーを再び失った彼女は、左の手甲で公園の木を三本ほど纏めて掴み、投げつける。


 死者の壁が溢れ、その道を塞いだ。

 船を召喚されている。膨大な数を吐き出し続ける死者の軍勢は、津波のように二人の前進を阻み、押し返した。

 そこへ降り注ぐ光があった。

 ミホさんだ。反対側から現れた彼女は、迫り来る死者たちを薙ぎ払うように打ち抜いていく。それが敵の増加を押し留める程度の成果ではあったが、攻撃によって生まれた隙間へ、回転槍を構えた水樹さんが突撃していった。

 ドリルの回転に加え、校庭で見せたような暴風を纏い、近づく者を片っ端から粉微塵にしていく。必死の形相で、駆り立てられるように。


 灰原さんは素直に水樹さんの突撃を受け入れ、その上で後方を塞いだ。

 ミホさんからの援護を失った所へ側面からマコトちゃんが襲い掛かる。


 また強引に淡雪さんが飛び込んでくる。

 先の戦いで見せた、鉄球の噴射に乗って自らも移動することで死者の軍勢を飛び越えてきたんだ。

 だがそこに復帰した藤崎くんが立ちはだかる。

 アズサさんの援護は無尽蔵の壁を散らすばかりで、藤崎くんへは届かない。


 状況が停滞した。


「じゃ~ぁ、貰ってくょぉ~ん?」


 投げ込まれた土管から姿を現した桜井マリナが、変化への対処が鈍る一瞬の間に僕の身を攫った。

 こちらを取り戻そうとする三人へ、アズサさんが今まで投げ込んでいた木や電柱がエインヘリヤルとなって道を阻む。


「ぁ……待って!」

 シズクちゃんへ手を伸ばし、僕は暴れた。

 離れたくない。近くに居たい。彼女は、



 戦いが遠ざかる。

 生身の僕に抵抗する手立てはなかった。

 それでも僕は衝動が抑えられず、弱々しく身をよじる。

「お願い、離して。僕はあそこに……!」

「はぁ……」

 心底鬱陶しそうに桃色の魔法少女がため息をつく。


 一瞬の浮遊感。

 跳躍の真っ最中に手放された僕は、何も出来ず落下していき、

「ちょっと頭冷やせやコラ」

 首をレンチで挟まれ池の中へ叩きこまれた。


 訳も分からずもがく。

 何の準備もなくいきなり水の中へ顔を沈められた僕は、何度も水を呑みながら全身を震わせた。頭の中が痺れていく。空気がない。起き上がれもしない。自分が今どのくらいの深さでそうしているかも分からなかった。

 意識が飛びそうなほどの苦しみの中、涙も鼻水もぐちゃぐちゃになって、そこでようやく引き上げられた。


「池の水はおいしい?」


 咳き込んで水を吐く僕へ、夕食の献立を聞くような気軽さで桜井マリナが言った。

 引き立ててから首を拘束していたレンチが外れる。ふらついた所に足元を払われてまた水の中へ。今度は自分で顔を上げた。


 大して深くもなかった池の中、腰を下ろして咳き込む僕を、桜井マリナはじっと蔑むように見ている。

 しばらくしてようやく落ち着いた。

 びしょ濡れになったまま池から上がろうとする。


「まぁだ死体の所に行こぅとするんだね」

「僕はもう変身する力も残ってない。もう、何も……」

「女々しぃんだ。男のくせに」


 手すりを越え、自然と向かい合うようになった。

 池の水でびしょびしょになったのは僕だけじゃない。巨大なレンチを肩に乗せて可愛らしく歩く桃色の魔法少女へ向けて、僕は言い返しにもなっていない言葉を投げる。


「君だって男じゃない」


「あっは☆」


 淀んだ表情が転じて満面の笑みに変わる。

 両頬に人差し指をつけ、アイドルみたいなポーズで言った。どこからどう見たって女の子。むしろテレビに出てくるような本物のアイドルと並んだって遜色ない。


「ぃっ気が付ぃたのぉ? びっくりしちゃったぁ」

「はっきり分かったのは屋敷で暮らす君を見ていた時。でも最初から違和感だけはあった。自分が男だと、思い込みも無いから気付き易いんじゃないかな」

「そっかぁ」


 可愛らしく納得して見せ、けど、張り付いたままの笑顔で僕の胸倉を掴むと仮面を外した。


「でもさぁ、自分だけは私の事が分かるなんて気持ちの悪い言い方止めてくれない? この場で殺したくなるほどムカつくんだよね」


 そしてあっさり笑顔をかぶり直すと、桜井マリナは跳び上がって池から出た。

 その正面に黒塗りの車が止まる。


 運転席のドアが開いた。出てくる人間を置き去りに桜井マリナはびしょ濡れのまま後部座席へ身を沈め、そのまま無言でドアを閉めた。

 この車を運転してきた人間は一度だけそんな彼女を見、感情の読めない吐息を漏らす。


 こうして会うのは久しぶりだ。

 心なしか白髪が増えたように見える。

 何も言わず佇む姿は、どことなくお祖父様と重なる。


「お父様……」


 御門ツカサの父、御門家現当主、御門カオルが目の前に立っていた。


 二人の間を乾いた風が吹き抜ける。

 自然と身体が強張った。刻み付けられた教育が彼を恐れさせる。相変わらず表情の読めない目で僕を見る。同い年くらいならある程度は読み取れるのに、その倍以上も生きた父には通用しない。分からない不安と、潜在的な恐怖とで僕は顔を背けた。


 電話でならまだよかった。

 それにあの時は力があったから。

 仲間が居て、何かを変えられる実感があった。


 もう僕には何もなかった。

 この世の綺麗なものへの憧れも、父の前には容易く踏みにじられる程度のものだった。同じものを見てくれた人も、もう居ない。


「ついて来い」


 嫌だと首を振る。


 まだ、未練があったから。

 アズサさんを、ミホさんを、淡雪さんを、水樹さんを、僕を助け出そうとしてくれた人を裏切りたくない。


 歩み寄る父から逃げるように下がろうとしたけど、すぐ池の手すりに止められた。

 と、そこで後部座席で座っていた桜井マリナが出てきた。


 そこら中の木々や植木が桃色の光を帯びて一斉に動き出す。

 エインヘリヤルだ。


 迎え撃つのは……マコトちゃん?


 一気に分からなくなる。

 彼女たちは父の部下じゃなかったのか?

 いや、以前話した時、父はじきに影響力を失うようなことを話していた。じゃあ今は、彼女たちとは無関係に動いてる?


「さっさと連れてって。邪魔」

「無理はするな」


 父が気遣う言葉を掛けたことに呆然とし、その間に腕を捕まれ後部座席へ放り込まれてしまう。抗議の声をあげるより早く車は動き出し、道路ですら無い公園の通路を物凄い速度で走り抜けていった。


「どうして……」

 この人にとって何の価値もない僕を、彼の手駒だった筈の桜井マリナを置き去りにしてまで。


   ※  ※  ※


 何も出来ないまま市街を車に乗って抜けていく。

 もう夜中だったけど、そこら中から人の声が聞こえてきた。


 街中はひどい有り様だった。

 暴走したミュウの放った砲だけじゃない。あの巨人や、僕が巻き起こした天変地異、今もじっと佇む巨大な樹に、街は大混乱にあった。

 父の運転に迷いはない。

 予め無事な道を把握していたのか、一度も前を塞がれることなく人の少ない通路を進んでいく。


 ひっきりなしにサイレンが聞こえた。

 自分たちが起こした戦いで、きっと大勢の人が死んだ……。


「誰もが無関係ではない」


 父の声は、僕を慰めるような色はなく、数学の計算を答えるように無機質だった。


「気が付けば、自分が大勢の命運を握る立場に居たということは、思ったよりずっと多い」


 巨大なグループを纏め、運営する中で父も同じようなことを味わったのかもしれない。

 直接的な破壊でなかったとして、支援を断ったことで幾つもの会社を潰し、大勢の経営者を自殺に追い込んだのかもしれない。あるいは海外の事業を獲得したばかりに、現地の企業が立ち行かなくなってしまい……あるいは今車を動かしているガソリンは、どこかの民族紛争に火を点け、更地となった場所に建造したパイプラインを通ってきたのかもしれない。

 詮無いことと言ってしまえば簡単で、そうすることで世の中は上手く回ってる。


 同じことを僕もして、こうして目に見える形で与えた被害を眺めてる。

 けど、ありふれているからといって赦されることじゃない。


 不意に車が止まった。

 そこは何処にでもありそうな住宅街だった。人の気配が感じられないのは、もう皆避難してしまったからか。いや、ライトの先に一人、


「大丈夫か」


 車から降りた父が、崩れた家屋の前で立ち尽くす女の子に歩み寄る。

 膝をついて何度か言葉を交わす。

 やがて戻ってきた父が後部座席のドアを開けた。


「逃げ遅れた家の者が、崩れた家に押し潰されかかっている。手伝え」

「っ――!」


 もたつきながら車を出る。

 父は車の角度を再調整し、ライトで現場を照らし直した。


「おかあさんを、たすけて……」


 五歳にも満たないかもしれない女の子が下敷きになった女性を指して言う。

 幾つもの瓦礫に埋まる母親は、まだかろうじて息があるのか、苦しそうに隙間風のような声を漏らした。


「……すみません。騒ぎが収まったから、今の内に貴重品だけでもと思っていたら」


「まずは上に乗っている細かい瓦礫を退かせ。硬いものは下手に動かすな。奥のものが一気に崩れてくる可能性があるからな」

「は、はいっ」


 ばらばらになった木片や石膏を手で払って落としていく。

 途中、焦って何度も手を切った。


「よし、下の隙間に身体を入れろ。背中でこれを持ち上げる。こちらが巻き込まれる危険もあるから慎重にだ。噛み合っていない瓦礫には気をつけろ」

「はいっ」

「出来たか」

「はい!」

「いくぞ、せーのっ!」

「っ、ぁああ!」


 男二人分の力でゆっくりと瓦礫が浮き上がる。

 行ける。そう思った。慎重さと注意はそのままに、思わず僕は隣で一緒に瓦礫を押し上げる父を見た。歯を食いしばり、必死な表情で押し上げていく父。上着を脱いたスーツ姿はもう砂まみれで、額から流れ落ちた大量の汗が首元を濡らしていた。


「よし、こっちで支えている。一度身体が動くが確認してくれ」

「はいッ!」


 慎重に力を抜き、すぐさま僕は女性の両脇へ手を回す。


「今から引き抜きます。ゆっくりやりますから、痛みがあったら言って下さい」


 絞りだすような父の声に、女性は震えながら頷いた。

 言われたまま、僕はゆっくり力を掛けて引き抜いていく。


 最初、小さな引っ掛かりを感じた。

 けど大丈夫と言われ、そのまま女性を引きずり出す。

 僕が道路まで彼女を運び、女の子を下がらせると、ようやく父は瓦礫から抜け出してきた。一緒に崩れてきた瓦礫には慌てたけど、父は躓きながらも道路へ転がり出て、そのまま脱力して胡座をかいた。

 汗を拭った額に汚れがつく。


「挟まっていた部分を確認するんだ。血は出ていないようだが、長時間圧迫されていたなら危険がある。骨折や内出血もそうだが、気付かず頭を打っている可能性もある」

「はい」


 丁寧に触診していた結果、素人目に大きな問題は見当たらなかった。幾つかの内出血や打ち身はあるみたいだけど、命に別状は無さそうだ。

 か細い声だったのはお腹を圧迫されていたからだったらしい。


 ほっと一息ついたとき、ようやく僕らは女の子の不在に気付いた。

 慌てて立ち上がろうとした時、小さなペットボトルを抱えた女の子が戻ってくる。車のライトの中に居るから直前まで気付けなかった。


「おみず、たっくんちからもらってきた」


 父の表情が険しくなる。母親も驚いて眉を逆立てた。けど身体の痛みに何も言えず、女の子が心配そうにペットボトルを渡すと、栓が外れたように泣き出した。


 貰ってきたというのは、無断でだろう。

 もし人が居たなら水だけ渡して終わりにはならない。

 自分の家が崩れて母親が巻き込まれたばかりの状況で他の家に入るなんて、女の子としても物凄く怖かった筈だ。本当はしっかり叱るべきだったけど、結局父も僕も、何も言えず母親の泣き声を聞いていた。

 水を飲んだら、頭がしびれるほどおいしかった。



 それから二人を避難場所へ送り届け、必要だろうと父が現場の人間に車のキーを渡した。

 代わりに水とあめ玉を幾つか貰って、二人して口に含みながら淡々と歩く。上着を脇に抱え、ネクタイを緩めた父の姿なんて初めて見た。いつだって僕が見る時には、完璧なまでにスーツを着込んでいて、隙らしい隙を見せなかったのに。


 道すがら、何度か似たような状況を見つけては助けに入った。

 その度に父と協力し、様々な事を教えられ、指示に従って何人かの人を助けられた。


 避難場所で父が伝えていた方法が各所に届いたんだろう。途中大きな音が街に響いたと思ったら、人を呼ぶ声や工具の音が一斉に止まり、痛いほどの静寂が街を包んだ。まだ電気の通っている場所も灯りが落とされ、救助活動をする人たちが必死になって耳をすませていた。

 ずっと呼び掛けたり、瓦礫の撤去を続けていると、生き埋めになった人たちが発する僅かな音を聞き落としてしまうかららしい。


 僕が聞きつけた微かな声を辿って瓦礫を退かしていくと、一家揃って生き埋めとなっていた人たちを発見した。父親が重症だったみたいだけど、命に関わるものじゃなく、母親や二人の子どもは無事だった。


 目的の場所に辿り着いた時、もう夜が明けて朝日が登り始めていた。

 そこは被害もなく、人も少なかったせいか、ずっと続いていた興奮状態がゆっくりと覚めていくのが分かった。


 大きく欠伸をする。

 最近寝不足だったし、何度も救助活動に混じって物凄く疲れた。その上徹夜は堪える。


 ふと隣を見れば、父も一緒に欠伸をしていた。

 大口を開けた頬や細めた目尻に濃い皺が見て取れる。


 目を逸らし、拳を握った。


 父に先導されるまま白い建物へ入っていく。

 小さなビルだと思っていたそこは、一番手前の扉を抜けると、とても大きな部屋に出た。外から見えていたビルの床面積を軽く超えてる。これは、隣り合ってるビルの一階部分を繋げてあるんだ。


「手と顔くらいは洗っておけ。ホコリまみれだ」

「シャワー、浴びたい」

「話が終わってからだ」


 仕方なく洗面所で手と顔を洗う。

 鏡で見た自分はひどい有り様だった。父以上に顔は真っ黒で、あちこちに細かい傷が出来ていた。血と砂とが交じり合っていて汚らしい。

 髪はシャワーを浴びないとどうしようもなさそうだ。救助作業の邪魔になるから纏めていたけど、一度纏わりついた埃を落としたくて解いたら紐が切れてしまった。代わりのものを探したけど、滅多に使わないんだろう洗面所にはヘアゴムなんて見当たらず、諦めた。

 淡雪さんとの戦いでなんとなしに着た学生服は父同様にかなり汚れてる。カッターシャツはもう新しいのを買うしか無さそうだ。


「はは……」


 こんな時に制服の心配だなんて、間が抜けてる。

 外から幾つかの物音が聞こえてきた。父の部下かもしれない。


 シャワーを浴びるのはまた後でとして、僕はシャツとアンダーを脱ぐ。

「はぁ……」

 鏡に映った自分を見て情けなくなる。

 ばっちし女物のスポーツブラを身に付けた自分がそこに居るからだ。


 いや、違うんです。

 以前変身して戦った時にパンツを盗撮された傷がまだ癒えてないんです。

 万が一にでもトランクス姿を撮影される訳にもいかない僕は、激しい葛藤の末に女物のパンツを選んだ。なんでブラまで身に付けたのかは説明が難しいけど、僕の中でコレとアレはワンセットなイメージがあって、中途半端にパンツだけはいてると気持ち悪くて仕方が無かったからで、どのみち男が女物の下着を身に付けてる時点で気持ち悪いんですけど、はい。

 ともあれ汗を掻いて砂まみれな今、これをつけたままというのは別の意味でも気持ち悪い。


 あれ?

 でもこれ外した後どこに置こう。

 明らかに砂と汗に汚れたブラが、息子の使った洗面所に置いてあったら父はどう思うだろうか。少なくとも子の成長を感じたりはしない。


 なんてことを考えてる間に取り敢えず脱いでおけば良かったんだ。


「早くしろ。他はもう揃っているぞ」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?


 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?


 あれえええええええええええええええええええええええええ!?


「………………」


 父無言。


 せめて何か言ってくれ。

 いや、何も言わないで。


 後ろの扉が開いた途端、僕は無意識に胸を隠して蹲っていた。けどそれじゃあ背中の部分が丸見えだ。髪は長いけど身体を丸めたせいで背中を覆うほどじゃない。

 つまりこれは……、


「ツバサさんっ!? ……あら」


 ミホさんの声だ。しかも物凄く嬉しそう。


「ツバサ! 大丈ぶっ!?」


 アズサさんは僕のブラ姿見たことありませんもんねー。


「御影っ、無事………………はぁ」


 淡雪さんは顔を真っ赤にして倒れ、涼しい顔した水樹さんに連れて行かれた。

 おそるおそる振り返ってみると、僕の表情を見たミホさんが烈火の如く怒り出して父へ詰め寄った。淫行罪とか強制わいせつ罪と言ってるけどごめんなさいその人僕の父親です! わあっ、涙目になってた!?


 なんとか皆に説明し、改めて父ですと紹介した後も、女の子たちが無遠慮な父親へ向ける言葉は辛辣だった。

 年頃の娘の着替えを覗くことは死刑らしいですよ全国のお父さん。


 一番厳しい言葉を投げかけたのはミホさんで、何故か僕の性別を知っている筈の淡雪さんも水樹さんもかなり怒っていた。まあ淡雪さんは思う所があるのか、時折僕を見ては顔を赤くしていたりして、物凄くいたたまれない。お願いだからそんなに思い出さないで下さい。

 アズサさんだけはどっちかというと僕がブラをしていたことに動揺していて、時折向けられる視線がとても痛かった。

 そんな中、僕の正真正銘の父親は、実の息子のブラ姿を見た罪を糾弾する数々の言葉を受けながら、とても複雑そうな顔つきでずっと遠くを見つめていた。


 真面目な話が始まったのは、実に一時間後の話である。



 とはいえ実際には、父を糾弾する話はすぐ終わった。

 後はほとんど皆して騒いでいて、意味のない会話ばかりだった。


 シズクちゃんも、ミュウも、もう居ない。

 あの場に残った桜井マリナも結局、姿を現さなかった。


 途中、少しだけ会話が途切れてしまった時、皆は笑顔を浮かべていたけど、引き千切れそうな沈黙があった。

 その時の皆を見る父の表情が、なんだかとても印象的だった。





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