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 淡雪さんとの戦いから、時間は少し戻る。

 僕とシズクちゃんとで花園を見て回った後、置き去りにされた時に受けた電話の話。

 ミホさんから電話を代わり、聞こえた声に僕は納得した。


 水樹スズカ。

 クラスメイトで、今まで敵対していたラビアンローズの魔法少女。


「停戦交渉、ですか?」

『ええ』


「ラビアンローズの現状は厳しいものと僕たちは見ています。それでも?」

『ええ』

「この話は仲間全員が同意しているんでしょうか」

『いいえ』


 胸の奥がざわつくのを感じた。

 水樹さんの独断。そして考えられるラビアンローズの苦境を前提とした停戦交渉とするなら、ほとんど敗戦処理といえるかもしれない。とするなら、何かしら仲間を、淡雪さんを抑える手を考えている筈だ。詳しく聞いておく必要はあるだろうけど、まずは確認せずに居られなかった。


「それで構わないんですか」

『今のままでは壊滅するだけですわ』


 あまりに呆気無く告げられた戦いの終わりに、虚しさよりも苛立ちが先立った。


「諦めるんですか……?」

『私たちに無謀な戦いを続け、壊滅しろと?』

「奥の手の一つや二つはあるんじゃありませんか」

『用意はしていたわね。けど、駄目よ。動かすには余力がなさすぎるのよ。その為のトールハンマー奪取だったんですけど』


 それは同時に、彼女たちも力の一部が奪われたことを告げていた。

 最悪、二人分を合わせて奥の手とやらを使うことも出来た筈。トールハンマーがアズサさんの力の締める割合は大きかったけど、二人分に勝る筈もない。そして今は、それにさえ足りない力なのかもしれない。


 勿論この停戦交渉そのものが誘いである可能性も僕は考慮していたけど。


『こちらも無条件降伏なんてするつもりはないわ。少しでも立場を強くする為に、手土産の一つくらいは用意しましょう』


 その手土産とは、


『明日、もしくは都合の良い日、私が囮となって紫陽花色の魔法少女たちを誘き寄せますわ。連中もより多くの力を求めています。疲弊した人間が歩いていれば、罠と思っても食いつくでしょうね。可能な限りこちらで戦うつもりですけど、勝つのは流石に難しいと思いますわ。けれど必ず疲弊させます。そこをアナタ達で囲い込みなさい』

「一人で、ですか」

『代わりに、仲間二人へ危害を加えない事。加えさせない事。無理に力を剥ぎ取ろうとせず、時間を掛けてでも……そうね、イムアラムールへの帰化を薦めて欲しいの。魔法少女の力は、あの二人にとって切り離せないものなのよ。終わった後で、私の力は素直に差し出しますわ』

「そんなこと……っ」


 淡雪さんの顔が浮かぶ。

 彼女が納得するはずがない。


 けれど次に電話口から聞こえた声は、とても優しく響いた。


『時間が掛かってもいいのよ。カナは……ああいう子だから唐突にこの話を振っても納得するとは思えなかったわ。駄目だと分かっていても最後まで抵抗する子よ。だから』


 あぁそうか。


「あからさまに姿を晒してまで、僕の学校に転校してきたんですね、水樹さん」

『勿論、貴女の身柄を確保、あるいは懐柔する道もありましたわ。けどそうですわね、学校でのカナを見ていたら、これが一番良い気がしてきたのよ、御影さん』


 風に乗って花の香りがやってきた。

 離れた場所に居るからか、ほんのりと香る風がとても柔らかく感じられた。


 時間も遅くなってきたからか、少しずつ人の通りが増えてきた。

 一つの集団だと思っていた人たちから、ふらりと一人が道を外れていく。前を行く人たちはそのことにさえ気づかず楽しそうに談笑していて。


『学友として、お願いします』


 あぁ、これは。


 水樹さんの話を聞きながら、僕は全く違う道を考え始めていた。

 迎える結果は同じかもしれない。けど、きっと胸に宿るエネルギーは全く違うものだ。


「ごめんなさい。提案は受け入れられません」

『……どうしてかしら』


 緊張を孕んだ声。

 読み違えたのかもしれないという不安が隠しきれず漏れだしていた。


「先約があります。今夜、淡雪さんと僕は戦う約束をしています。囮の役は僕らが引き受けますよ」

『どういうこと……?』


 似たタイミングで居なくなっていたから話が伝わっていたんだと思ったけど、どうやら偶然だったらしい。水樹さんはミホさんと接触し、淡雪さんは……。


 僕は昼休みに、淡雪さんから正体を暴いたと告げられたことを話した。

 告白云々は流石に省いたけど。

 水樹さんは悩んでいた。でも答えは決まってると思う。実体のある損得以上の何かを、彼女は重んじているんだから。


『……もし貴女が負けたら、私は容赦なく交渉の材料にしますわよ』

「そうですね。そうなったらそうなったです。ミホさん……ごめんなさい。勝手ですけど、それで構いませんか?」


『私たちは魔法少女。未熟な力の担い手よ。私だって、お利口さんになりたい訳じゃないわ』

 いつか僕がミホさんに対して言った言葉だ。

 その口調はどこか拗ねているようで、僕は思わず笑ってしまった。

 未熟。そうだ。どれだけ凄まじい力を持っていようと、僕たちは魔法『少女』。未熟な女の子としての名前がそれを証明してる。


『あらっ、どうしたのツバサさん? ケータイを落としたの? 大丈夫?』


 な、ナチュラルに女の子だとか考えちゃった!

 いけない! 僕はオトコノコ! 一人だけ魔法少年なんだから!


「……いえ、突風が吹きまして、えぇ」

『なんだか声に元気がないわ。今川村を迎えにやります、場所を教えて下さい』

「大丈夫! 大丈夫ですっ!」


 今僕は男子制服を着てる。迎えに来られたら終わりだ。


「ええと、ですね」

 なんとか気を取り直して立ち上がる。

「折角ですから、僕が勝ったら一つ……二つ? 約束してください」


 電話口は沈黙し、僕の言葉を待っている。

 緊張? 期待? どうだろうね。


「一つは、僕らの友達になってください」


 向こうからミホさんの嬉しそうな笑い声が聞こえた。


「もう一つ。良かったら、これからも同じ学校に通いましょう」


   ※  ※  ※


 淡雪さんに支えられながら階段を降りる。

 最初は身長の近い水樹さんがそうしようとしてくれてたんだけど、なんだかんだでこうなった。


 自分を好きだと言ってくれた女の子と触れ合っている。

 淡雪さんは生真面目そうな表情で僕の足元を見、少しでも楽が出来るよう工夫してくれている。彼女にとってはそれこそが最優先で、その……それ以外がとてもおざなりだった。まず密着度合いが凄まじい。戦ってお互いに汗を掻いていたのもあって、布越しに感じる肌のやわらかさが異様に緊張させる。

 やたらと体温が高く感じられるのは、さっきまで運動してたからだ。


 献身的に僕を気遣う同級生を相手に、とても不義理なことをしてる気がした。

 どうしよう。

 まだ返事も出来てない。

 でも水樹さんが居る所で答えるのも嫌だし、そもそも明確に答えが出てこない。


 以前なら考えもせずに断っていた。

 母に見せられた光景はトラウマと言ってもいい。強い嫌悪は変わらないと思っているのに、女の子と触れ合ってドキドキしている僕はなんなのか。

 考えようとは思っていても、あっさり認めてしまうのには大きな壁があった。


 そして、考え事をしている暇がないことは、踊り場から聞こえた会話から察せられた。


「奇遇だな、アズサ」

「……アオイ、なんだね」


 あぁ。

 とうとう知られてしまった。


 いや、この囮作戦が始まる前に、ミホさんから話があった筈だ。

 かつてイムアラムールに属していた魔法少女の名前について。


 遠征先で彼女の名前を聞いた僕は、咄嗟にその話をアズサさんへ黙っているように頼んだ。

 何か方策があった訳じゃない。けど彼女が傷つくと思って、だから……結局何も手を打てないまま時間切れになった。

 あまりにも幼稚な考えで、僕は詰めの手を遅らせた。

 本当ならこちらから攻め込めた筈なのに。


「さあ……子どもの時間を終わらせよう」


 アオイさんの言葉に合わせて、率いる三人が動き始めた。

 ミホさんが放ったのだろう牽制の光条に見向きもせず、フェンリルの力を持つ浅葱色の魔法少女、マコトちゃんが校庭側の壁をぶち破った。

 舞い上がった砂埃を四つの影が抜いていく。


「援護しますわ!」


 予想外の動きに硬直するアズサさんを抜けて、ドリルを手にした水樹さんが駆けて行く。回転槍は既に回り始め、どんな盾でも削り抜く攻撃力を持っている。

 だが、それを狙っていたかのように四人の消えた穴から幾条もの紐が放たれた。

 神話ではあらゆる神々が怖れたと言われる巨狼フェンリルを繋ぎ止めたグレイプニール。それが今は、主神と呼ばれたオーディンのグングニールを絡めとり、突撃を止めさせた。


「お行きなさい!」


 水樹さんは怯まない。

 もしくはそれを最初から予想していた。

 絡め取った紐の先には、マコトちゃんが居る。以前のように設置している様子も時間もなかったから、その手から放つ以外の選択肢がない。待ち伏せの効果は確かにあった。あの強力な回転を阻止しながら他に繋ぎ直すほどの余裕もないだろう。硬直はお互い様なんだ。


「ツバサっ」


 追撃へ向かう一歩の前に、アズサさんはほんのすこしだけこちらを振り返った。


「気遣ってくれて、ありがとね」

「っ――!」


 なにも、できなかったのに。

 自己満足で足踏みさせた僕へ、アズサさんは笑って礼を言った。


 手にしたパイルバンカーのシールドを前に、穴を更に広げる形でアズサさんは跳んだ。力任せの突破に上の階も一緒に破壊されて視界が広がった。アズサさんの突撃にマコトちゃんは拘束を解いたんだろう、動けるようになった水樹さんがしっかりと床を踏みながら追っていく。


 二度激しい衝突音がして、水樹さんが前へ出た瞬間、アズサさんは右腕を振り上げた。


「いっくぞぉぉぉおおおおおおお――」


 ガキン――と、パイルバンカーの一部外装が拘束を解く。

 この数日、腕を磨いていたのは僕だけじゃない。主力の武装を失ったアズサさんは、誰よりも戦い方を研究した。

 一撃必殺のトールハンマーは確かに強力だ。けど、一度放てば十二分という待機時間が生まれてしまい、その間は主力武器の強力さ故の弱体化が著しい。圧倒的な物量で攻められると、例えば無限に湧き出すエインヘリヤルを展開する桜井マリナを相手にすると、その特性は酷く脆い。また相手を拘束する左の手甲も、やはり動作が遅く捕らえるのは難しい。


 そこで彼女は考えた。


 跳び上がったアズサさんの腕に固定されたトールハンマーの体積が倍化する。


 回避されるなら、回避できる場所を無くせばいいじゃない。


「……やっぱりアズサさんはアズサさんですよね」


 校庭という広大な戦場へ飛び出した彼女に最早制限はない。

 敵が身構える間にも更に倍化。倍化。倍化。


 パイルバンカーが狙うのは校庭全域。

 冗談みたいな大きさだ。けど、僕らが扱うの星の心。神の名を語る力なら、本来この程度は出来て当然なのかもしれない。


 アオイさんたちにも動きがある。

 最後方で身を隠していた翡翠色の魔法少女が三人の前に立つ。ここから見ても大柄な彼女は両手を天に翳し、


「――ぶち抜けェェエエエッ!」


 稲妻に等しい轟音を星の表面へ向けて打ち鳴らす。

 衝撃だけで校舎が崩れるんじゃないかと思った。連動してミュウがあの修復光線で周囲を照らしていなければ、リアルタイムで大惨事だったかもしれない。冗談みたいに建造物が宙を舞い、冗談みたいに元の位置に収まって、何事も無かったみたいに静まり返った。


 わぁ……これ、人的被害出てないですよね!?


 いや何を言っているんだと思い直す。

 トールハンマーを叩き付けられた校庭を見た。

 アズサさん……アオイさんから色々話を聞きたかっただろうに、いきなりプレスだなんて。修復光線で校庭は元通りだろうけど、あれ絶対プチってなってるよね。グチャグチャだよね。


「化け物かアイツ」


 今まで散々カモにしてきた赤の魔法少女へ向けて、ラビアンローズの白の魔法少女が呆れて言った。終末の炎を再現した人の言うことじゃない。まあ僕みたいな黒剣振り回すしか出来ない弱々しい近接魔法少女的には、絶対相手をしたくないよね。最近仲間入りした淡雪さんに微笑むと、彼女は嫌そうに目を逸らした。ひどい。


 大きく舞い上がった砂埃と薄闇とで、現場はまだ確認できない。

 僕がじっと見つめていると、


『五感の共有補正を行います。調整やオンオフは申告を』


 ミュウの声と同時、視界が一気にクリアなものとなった。

 最も近くで見ているだろうアズサさん、狙撃位置に居るミホさん、そして僕との視界が合わさって、視点そのものの変更がないまま輪郭に補正が入る。ここから五十メートルはあるだろう場所の砂粒まで観察できた。

 けど、ちょっと遠近感が狂うかな?

 大気の減衰がない月面なんかじゃこうらしいけど。


 まず最初の変化は、砂埃の中から現れた幾つもの人影だった。

「あれは……」

 憤りの混じった淡雪さんの声。

「灰色のヤツが生み出している。死者の軍勢だ」

 骨だけに剣や盾を持った竜牙兵、肉があっても腐っていそうなゾンビさん……これはグロい。視覚的にキツい。校庭でパイルバンカーを元の大きさに戻したアズサさんが水樹さんに泣きつかれてる。そういえばアズサさんはお化け屋敷平気でしたよね。僕が性別バレしたあの時、随分と時間を掛けたにも係わらず襲撃が無かったのは、水樹さん個人の事情があったのかもしれないなぁ、なんて思う。

 ともかく至近で見るのはマズそうだ。


 僕が共有カットを申告しようとした時、砂埃を抜けて、死者の軍勢の中央に灰色の魔法少女が顔を出した。


「あれ、ミンチになってない?」

「お前の表現はたまにエグい」

 そんなことないよ!?

「いや、それだけじゃなくて、あれって……」


 校庭に灰色の軍勢と桃色の軍勢が広がっていく。

 桜井マリナがエインヘリヤルを展開したんだろう。


 灰色の魔法少女が腕を振るうと、背後から砂埃を割って、巨大な船が顔を出した。


『老衰や病によって死んだ者達が訪れる冷獄ヘルヘイムの主ヘル。彼女が所有する軍勢は、戦いによって勇敢に死んだ英霊ではなく、亡者の類です。あの船はその死者の爪で造ったとされるナグルファル、終末の戦いにおいて死者の軍勢を輸送するもの』


 爪って……、爪って……、


 なんだか全体的に怖い魔法少女なんだけどさ、

「灰原さん、だよね」

 クラスメイトの少女が今、灰色のドレスを纏ってそこに居た。

 いつも後ろの席で僕とコースケのやり取りを見ては笑ったりノートに何かを書いたりしていた女の子が、当然のように立っている。いや、別にコースケとのやり取りだけじゃない。彼女からの視線はそれとなく感じてはいたんだ。

 時折向けられる、こちらを観察するような目。


「監視……だった?」


 父はずっと前から僕を捕捉していた。

 だったら監視の一人や二人はつけるものだ。


 元々女の子とは関わりの少ない僕だけど、ちょっとだけ寂しい気持ちになった。

「知り合いか」

 貴女も何度か顔を合わせてるでしょうに。

 淡雪さんが真顔で問いかけてきたので僕は流すことにした。


「しかし、以前は船が未完成だった……私たちの力を転用したのか」

 悔しげに淡雪さんが言う。

 だとすれば、他にも相手の力が増強されていると考えるべきなのかもしれない。


 そんな中、巨大な船によって砂煙が振り払われ、亡者と英霊の戦いが始まった。その上を軽々と跳んで来るのはマコトちゃんだ。必殺を放ったアズサさんは素直に下がる。ミホさんもあの軍勢を差し向けられて待ちのままでは居られなかったんだろう。視界が晴れてからも光条が放たれない。


 入れ替わりに桜井マリナと水樹さんが出る。

 英霊ですらない亡者に戦乙女と主神を破るのは不可能なんだろう。容易く粉砕されていくけれど、


「このままじゃいけない」


 今のコレは、以前の再現だ。いやもっと悪い。

 ラビアンローズが打撃を受けたあの日、彼女たちは万全だった筈だ。その上で負けた。なら弱体化した今の状態で勝てる筈が無いんだ。更に言えば、灰原さんの船と同じように、未完成だった力の幾つかが完成してる可能性もある。

 今思えば、あの時僕らを襲ったのが二人だけだったのは、彼女たちとの戦いで消耗があったからかもしれない。それだけの戦いを越えて、力を奪った相手はまだ底を見せていないんだ。


 予想を証明するように、船から次々と投じられていく軍勢の物量に、エインヘリヤルが押されていく。個々の力が優っていても、これじゃああまりにも数が違いすぎる。


「あまりアイツらを舐めるな」

「え?」

「やられたまま黙っているほど、可愛げのある連中じゃない。きっと、頭の中でどうすれば勝てたか、ひたすら考えていただろうな」

 おそらく彼女自身がそうだったんだろう。


 最初に動いたのはスズカさんだ。

 回転するドリルを天へ翳し、激しい擦過音を轟かせる。

 これは……、


『オーディン、ヴァルキュリア、ヘイムダルをイムアラムールの技術へ転用完了。限定解除されます』


 旋風が巻き起こった。


「以前私たちへ大打撃を与えたのは、あのロキの策もあったんだろうが――」


 空気を呑み込むほどの回転を手に、水樹さんは校庭の地面へ向けてドリルを叩きつける。


 貫いた。


 衝撃は土砂を撒き散らし、校庭に大きな穴を開けてみせた。

 だが、その先に一人居る。暗い穴の中から姿を見せた翡翠色の魔法少女。アズサさんのトールハンマーを受け止めたのも、今こうしてグングニールの一撃さえも防いで見せたのも、彼女の仕業だ。


「世界蛇ヨルムンガンド。神話の中で唯一正面からトールハンマーに耐え抜いた、正真正銘の化け物だ」


 畏怖すら感じさせる淡雪さんの声に、こうして遠目からみている僕でさえも緊張した。

 おそらくあの四人の中でもっとも耐久力に優れ、高い戦闘力を持っているだろう翡翠色の魔法少女が穴の中から跳び上がって校庭に立った。


「え……?」


 その時淡雪さんは、仇敵を見るような顔つきで相手を睨んでいて、

 水樹さんもどこか強い緊張に身を震わせながらドリルを構え、

 桜井マリナはいつもの調子で相手を睥睨した。


 そこに立っていたのは、


「ふ、藤崎くん!?」


 丸太のような両手をフリルたっぷりな袖に包まれ、すね毛の生えそろった脚を清楚なスカートで包み込み、ヘッドドレスを装着した翡翠色の髪は癖が強いのか荒れ放題。精悍な顔つきからは歴戦の勇者みたいな貫禄があって、だけど顎元で結ばれるヘッドドレスのリボンは可愛らしくチョウチョ結び。

 彫りの深い顔つきにはただ無情の色が濃く出ている魔法少女。いや……。


 灰原さんと同じく僕のクラスメイト。

 紫陽花色の魔法少女たる、アオイさんと同じ姓を持つ、同い年の少年。

 去年レスリング界のラオウと呼ばれた男が、世界蛇の威容を纏って戦場に聳え立っていた。


 誰もが息を詰めるその場でただ一人、


「これは、きもちわるい……」


 男嫌いなアズサさんが心底不快そうに言葉を吐いた。


 ラオウは涙を流して崩れ落ちた。




 

トールハンマーは自在に大きさを変えたと言われています。

そんなトールハンマーを受けて死ななかったヨルムンガンドさんですが、一番びっくりなのはその時世界蛇を釣り上げていた釣り竿じゃないかと思います。ヨルムンガンドって世界中の海の底に横たわっていて、それでも場所が足りずに自分の尻尾を噛んでたくらい大きいんです。どうやって釣り上げたのかは全くの不明な辺りが脳筋世界で生まれた北欧神話です。


またヘルの持つ船が完成することは、ラグナロクの予兆の一つとされ、ゲルマン民族には死者の爪を切って埋葬し、少しでも終末を遅らせようという風習があったとか。

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