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01

 返答には時間が掛かった。

 なんかとんでもない格好のまま放置された僕は、いたたまれない気持ちで膝を抱えて顔を伏せている。あぁ、恥ずかしくて死んでしまいそう。


 友達と一緒に来たのにこんな格好見られたらますます誤解されるよ! 男同士の熱い友情を結びたかったのに時折向けられる熱っぽい視線がたまらなく怖い! 何度も何度も言い聞かせて二人で水族館へ遊びに来た今日こそ、彼と親友になるんだ僕は!


『……スキャン完了しました』

「ね? ね!?」

『貴女がホモ・サピエンスで言う女ではないことを確認』


 良かった。なんだか最初から女扱いされていたけど、ちゃんと調べれば僕は男だって分かるんだ。


『しかし、男としても認識されませんでした』

「はいぃ!?」

『なんなんですか貴女は』

「アナタこそなんなんですか」

『……しかし、本来魔法少女システムは純潔の女性にしか適合しない筈。それに適合した貴女はやはり女であるとしか』

「僕は男です」

『男性の特徴に該当する部分も確認されましたが、確定は出来ません』

「して下さい。僕は男なんです」

『しかし純潔であると』

「……わかりましたもういいです」


 これ以上続けているといつか自分で認めてしまいそうで話を打ち切った。

 転がしていた黒剣を取り、戦場を見据える。着ているドレスさえ無視すれば、剣を持って戦うなんて男の子の役割じゃないか。このまま颯爽と敵を倒して傷付いた女の子を救えば、まさしく僕は王子様だ!


『ふふふ、ようやくイム・アラムールの科学力を認めたようですね。そうです、貴女は女……いえ、もしかすると男女という枠を超えた新たな性なのかもしれません。これは研究のし甲斐があります』

「やる気なくなるような事言わないで下さい」

『――気付かれました。接近数六、全て小型の雑魚です。蹴散らして下さい』

「はいっ!」


なんとか気を取り直して立ち上がる。

 黒剣を腰だめに構えて駆け出す瞬間、自分の身体が巨大化したかのような錯覚があった。この踏み出す一歩がずっと先にまで届くという感覚。拡張されたあらゆる感覚が結合していき、その結果生み出される『剣の一振りで敵を倒す』という目的に通じた。


 その通りになった。


 僕は息を吸うのも忘れて今の景色に驚愕する。

 クラゲのぬいぐるみとの距離は優に二十メートルはあった。それを数歩。滑るように翔け抜けて黒剣を振り抜いたのだ。カウンターに合わせて身を捩り、軌道をズラした一閃はあっさりと胴を切り裂いた。

 昨日まで武道の武の字も知らなかった僕が、まるで特撮のヒーローみたいに敵を倒してみせた。


『ドレスの装着により、蓄積された戦闘データが貴女自身へ反映されます。つまり今の動きは、貴女の先任者たちが生み出してきたもの。とはいえ、それを使いこなすのは当人次第。貴女の適合率は見事なもの――後ろです』


 言われた瞬間、呆然としていた身体に力が満ちて、左足を軸に反転し、相手も見ずに切り上げた。そこに居る、という経験則が今の僕にはあった。

 両断された敵の向こう、味方を盾に突進してきた相手を宙返りで躱した。両手を付ける必要はない。二メートルもの相手を飛び越える高さから、剣を振るって肩口を裂く。その時、人間で言えば心臓のある場所に宝石のようなものが見えた。


『アレがコアです。アレを破壊しない限り、何度でも復活してきます』

「――っせい!」


 言われるまでもなく、着地と同時に突きを放ち、コアを粉砕する。


『因みに現在使用しているのは、ドレスを介した高速言語です。個人差はありますが、およそ一秒間に三百文字程度の応答が可能となっております』

「へえっ、道理でさっきから話してると時間の感覚がおかしいと思ってた」

『この国の言語に合わせて私が開発しました。えっへん』


 どうやらこの声の主は、科学というものに対して並々ならぬ誇りがあるらしい。でもそれならなんで魔法少女なんだろう。科学少女じゃダメか。ダメですね。


 一度戦い方に意識が馴染むと、後は簡単だった。最初の六体と、遅れて援護に来た三体を即座に撃破し、後続を振りきって味方の所へ駆けつける。


「くそっ! コノォ!」


 遠目にも彼女が苦戦しているのが分かった。

 鮮烈な印象を受ける赤い髪。身長は僕と同じくらいで、女性にしては長身の部類だ。真紅に燃える装束は、ドレスと言うには小ざっぱりしていて、僕の着ているものには無い胸当てや肩当てがある。それも片側だけに偏ったもので、右腕はほぼ地肌を晒している。けど、それを補って余りある彼女の武器に、僕は目を奪われた。


「おっきな、盾?」

『彼女のドレスが冠するのは、赤ひげの名を持つ雷神トール。トールハンマーから抽出されたあの武装を、一般的な名称に当てはめるならば、パイルバンカー。そこに巨大な盾を装着していますから、シールドバンカーと読んでも差し支えないでしょう』

「魔法はどこいったんですか」

『魔法です』


 ソウナンダー、と僕は納得しておいた。この会話は不毛だ。


『お分かりでしょうが、あの武装が持つ最大の特徴はやはり、パイルバンカーによる一撃必殺。ですが、コアを破壊しなければ排除出来ない敵と、巨大タコの触手など、相手の手数が多すぎます。普段はバンカーを使わず殴打するなどで対処していますが、あの軟体を相手には』

「相性最悪なんですね」

『はい。そして切断に秀でた貴女の武装なら』

「楽勝ですか?」

『証明を』

「してみせますっ」


 イルカショーに使われていただろう水槽で暴れるタコの化け物目掛け、僕は落下するように駆け抜けた。上手く対処出来ていない赤髪の女の子へ、タコの足が殺到する。彼女に対処は不可能だ。負傷があると聞いていた。遠目から分かるほどの出血と、右足を庇った姿勢では、あの攻撃で詰みだ。


 させない!


 拡張されていた意識が、更なる可能性を掴みとった。

 振り被った黒剣が加速し、瞬く間に三本の足を切り落とす。半歩踏み込み、脇を抜けた残りの一本へ横から黒剣を突き立てて、本体へ向けて振り抜く。

 それだけで、巨大タコは背にしていたステージごと切り裂かれた。

 けど、


『まだです!』

「援護します。トドメを!」

「え? あの」

「あの巨大なコアは僕の剣では破壊しきれません。でも、アナタなら!」

「っ……分かった。任せて!」


 担ぎ上げるようにしてパイルバンカーを構えた彼女の前で、僕は襲い来るタコ足を斬って捨てる。ダン――と飛び上がる力は地面を揺らした。

 大きく跳躍する彼女を狙って、当然ながら巨大タコは残る全ての足を伸ばす。


 駆けた。


 伸びた足の下を潜り、より深く接近した僕は、残る足を根本から切り裂いた。力を無くした足がイルカショーのプールへ落下して大きな波を立てる。


「捕まえた」


 死刑宣告が聞こえた。

 僕の切り裂いた部位から見えていた巨大なコア。そこへ向けて伸ばした手が、パイルバンカーを持たない左手を保護していたかに思えた防具が解け、巨大な手となって敵を掴みとる。

 重ねるように右手を合わせ、


「ぶち抜けェエエエッ!」


 大気を震わす一打がコアを粉砕し、巨大なタコは活動を停止した。

 射出と同時にパイルバンカーの後部から八本の鉄杭が傘状に展開され、それは元の位置に収まったバンカーとは違い、そのまま蒸気を発しながら留まっている。コアを破壊されたタコが生物としての特性を失い、元の無機物へ戻っていった。彼女がため息をついて振り返った頃、ようやく一本目が元の位置に戻る。なるほど、次弾装填まで時間が掛かるらしい。


「ありがとう。助かったよ」

「いえ……」


 戦いが終わった安堵からつい油断しそうになったが、今自分が女の格好をしているのを思い出して僕は全身が強張るのを感じた。やばい、つい近寄りすぎた。バレた……よね? あぁ、なんてことだ。昔から変な風に言われてきたけど、やっぱり女の子の格好なんてしていれば気持ち悪いに決まってる。

 僕はせめて顔を隠したくて片手で面をしたが、近寄ってきた赤髪の子にあっさり剥がされ、顔を凝視された。か、確認ですか! ひゃー!


「戦ってる時も思ったけど、すっごい美少女ね」

「………………ぇー」


 そんなことありませんよーオトコノコですよー。

 いやこの場合バレなかったことを喜ぶべきか。でもそうなると僕のアンデンティティーがアッティッティーな事に。つまり崩壊!


「アタシ、火野アズサ。魔法少女始めて三ヶ月くらいのヒヨッ子だけど、よろしくね」


「よろしくおねがいします。僕は……ぁ、ぁのっ」

「ん?」

「いえアズサさんではなくて!」

『お呼びですか?』


 そうアナタ!


「あ、ミュウ。アナタが呼んでくれたんだね、この子」

『はい。中々の逸材ですよ、彼女は』

「うんうん。ステージまるごとぶった切った時にはおったまげたもんっ。剣捌きも凄かったし、もしかして大先輩だったりする?」

「いえ、僕なんて生まれたばかりのヒヨコです!」

「そうなんだ! じゃあ後輩だね。へへん、先輩になるのって初めて。嬉しいなぁ」


 あぁ……名前、どうしよう。咄嗟に偽名を名乗るべきかどうか迷って助言を求めたんだけど、声の人は助ける気が無さそうだ。そういえばミュウって呼ばれてた。変わった名前。というか、さっきさり気に『彼女』呼びされてた。どうあっても僕を男と認めないつもりなのか! じゃなくて今は名前だ。本名はやっぱり危ないよなぁ。ここって結構地元だし、どこかで聞きつけられたらあっという間に女装趣味の変態として人生が終わりかねない。折角話が逸れていってるし、ここは脱線したまま有耶無耶にして……


『因みに彼女の名前は御影ツバサ。ドレスは豊穣神フレイヤより抽出されました』


 いーやー!


『ツバサはシャイな子ですから、私が代わりに名乗ってあげました。ふふん』


 僕を絶望の底へ叩き落とした声には一切の邪気が無かった。世話を焼いてあげましたよ、褒めて下さい褒めて下さい。そんな気持ちがよく分かる声だ。小難しい言葉をよく使うから隠れてるけど、この人結構無邪気だ。

 今度二人で話したら、ありがた迷惑って言葉を小一時間掛けて教え込もう。


「ふ~む、ツバサちゃん……ってのはちょっと違うなぁ。やっぱツバサさん?」

『私は呼び捨てにしました』

「悪くないよねぇ、ツバサって呼ぶのも。ねね、呼び捨てでいい?」

「ぁー、はい、どうぞ」

「それにしてもフレイヤかぁ……。ツバサ知ってる? フレイヤって最も美しいって言われてる女神様なんだよ。だけど、貞淑っていうよりエッロいことしまくりで浮気万歳な神様でもあるんだよねぇ」

「セセセセクハラです!」

「ははっ! この程度は笑って流そうよ! 女同士なんだしさ!」


 どうやらアズサさんの中で僕の性別は女とされてしまったらしい。顔も名前も覚えられたし、明日から不安だなぁ。

 あれ、そういえば。


「アズサさん、怪我はもう大丈夫なんですか?」


 駆け付けた時は出血もしていた筈だ。

 戦いに勝った安堵と興奮で、いつの間にか痛がる様子が無くなっていたことにも意識が及ばなかった。


「あぁ、平気平気。ミュウ、折角だからドレスも脱がせて治癒を優先させて」

『分かりました』


 火の粉が散るように、アズサさんの纏っていたドレスが掻き消えて、Tシャツにパンツ姿というラフな格好の普段着が現れる。それと同じくして燃え盛る炎のようだった赤い髪も、ごく普通の黒髪へ戻った。

 いくらか落ち着いた印象のアズサさんは、人好きのする笑顔で言った。


「ドレスにも色んな機能があってさ、傷の治療も出来るんだ。けど、戦闘中は色んな所で補助機能を使ってるから治癒に回せる余裕がないんだ。治癒もかなり容量を食うから、闘いながらやろうとすればガクッと戦闘力が落ちる。それじゃあ本末転倒でしょ? まあ今も完治した訳じゃないけど、痛みは抑えられるし。だから平気」


 アズサさんは腰元のベルトを指差し、


「ドレスは普段、こういう小物に姿を変えてる。別に身に付けて無くてもいいけど、ミュウに一度転送してもらってから変身することになるから、咄嗟の状況に対応出来ないのは結構危ないね」


 先輩らしい助言に頷いていると、それが気恥ずかしかったのかアズサさんは頬を掻いた。


「あー、良かったらこの後、お茶でもしない? 仲間にも紹介したいし、折角同じ魔法少女になったんだから、これから仲良く出来たらなって」

「あ……」


 どうしよう。今は女の子の格好をしてるけど、彼女みたいに変身を解除してしまうと男の服装に戻ってしまう。それは流石にアウトだ。


「ごめんなさい。友達を探さないといけないので」

「そっか。それじゃあ仕方ないね。まっ、その内また会うだろうし、またの機会にね」

「はい。都合が付けば、また」


 できれば積極的に関わりたくない僕は玉虫色の回答で話を濁しておいた。というか僕、継続的に戦う話になってるんですか? 出来れば極力こんな格好はしたくないなー。そだ、アドレス交換なんて言われる前に退散しよーっと。


『伝言でしたら私が承りますので、いつでも呼び出して下さい』


 だから小一時間。


   ※  ※  ※


 戦いの爪痕はあっという間に消え去った。

 ミュウの話によると、イム・アラムールの科学力、もとい魔法の力を以ってすればピカーッと照らすだけで直るんだそうだ。実際空から謎の光が差し込んで全てが元通りになっていくのを僕は見た。たしかにアレは魔法だ。


 ただ、人間の記憶は別らしい。

 詳しくは聞けなかったけど、諸事情あって記憶消去にはリスクがあるとかなんとか。でも証拠さえ残って無ければ、集団ヒステリーとか集団催眠とか、そういう所で話が落ち着くものらしい。

 実際僕も今日まで知らなかったんだし、まあ大丈夫だろうと思う。


 あのドレスは今、ネックレスになっている。ドレス状態の時と形状も変わって紐状になっているから、普段着でも合わせられるかな? 

 髪を結って眼鏡を掛ければ元通りの僕だ。


「ねえ君」

「は、はいっ!?」


 急に後ろから声を掛けられて驚いた。ついさっきまで女装していた気分が残っていて、男の格好をしているのにビクビクしてしまう。


「連れとはぐれちゃってさ。君と同じくらいの身長で髪の短い、ラフな格好した女の子、知らないかな?」


 不思議な雰囲気の人だった。

 男っぽい口調だけど、女らしい艶のある声で、聞いているとなんだかドキドキする。見た目も中性的で男か女か判断が付きにくい。


「いいえ、ごめんなさい。僕も友達とはぐれちゃって探してる所です」

「そうなんだ。引き止めちゃってごめんね」

「いえ」

「ガス漏れがあったんだってね。もうじき救急車も来るみたい」

「そうなんですか。あの、人の集まってる場所を知りませんか?」

「この先をまっすぐ行った広場だね。まだ見てないなら、その中に友達が居るといいね」

「はい。ありがとうございました。アナタの友達も、早く見つかるといいですね」

「……へえ」

「どうか、しましたか?」

「いや。いい子だなって思って。今の言葉、社交辞令で言える人は多いだろうけど、本心から心配してくれる人は稀だよ。ふふ、久しぶりにいい子と会えた。やっぱり時には遠出してみるのも悪くないな」


 遠方から遊びに来ていたらしい彼? 彼女? は、不意に上着の内ポケットからケータイを取り出すと、こっちに向けて笑う。


「ケータイ、繋がるようになったみたい。友達からだ」


 表示されていた名前は『火野アズサ』。ついさっきまで一緒に戦っていた彼女の友達だったんだ! だとしたらこの人も。いや違うか。彼女も魔法少女だったなら、あそこで援護に来ていないのはおかしい。

 危うく自分から正体バラすとこだった。


「僕も連絡を取ってみます。では」

「またね」


 結局友達は電話に出てくれず、教えてもらった広場で彼を見つけた。

 広場のベンチで呆然と座りこけている姿を見た時は慌てたけど、傷らしい傷は無さそうだった。どうやら様子がおかしいから、誰かが救急車の来るここへ連れてきてくれたんだろう。


「寺本くん、大丈夫?」


 僕が覗き込むと、ようやく意識を取り戻したらしい友人が一度身を震わせ、大きく口を開いた。


「生きてたのか……」

「そりゃあ生きてるよ。ごめん、心配掛けたかな?」

「あぁ……あ、いや……すまん」

「え?」


 いつもは元気よく笑う人なのに、どこか心ここにあらずといった様子。


「途中までお前を探して回ってたんだが、その……」

「うん」

「お前、黒いドレスを着た女の子を見なかったか!?」

「…………………………ぇ?」


 いーやー! 見られてた! よりにもよって友達にあんな格好を見られた! あぁ、僕の人生が終わった。これからは女装趣味の変態男として後ろ指さされて生きていくんだな。それならいっそお祖父様とすっごい田舎に引きこもろうかな。趣味でやってる家庭菜園にもっと力を入れれば二人分の野菜くらい十分に育てられる。お肉が食べられないとお祖父様は拗ねるだろうけど、もう高齢なんだし菜食中心に切り替えてもらう時期なのかも。

 二人でひっそりと生きていければ、僕はもう十分に幸せです。


「御影……いや、ツバサ! 俺はずっと悩んでたんだ。お前のことは男だって分かってる。けど時折、どうしても抑えきれないものが沸き上がってくるんだ! だからずっと、お前の友達でいながら、本当に踏み込むことはしなかった! けどもう大丈夫だ。俺は今日から、正真正銘お前の親友だ! だからツバサって呼ぶ。お前もオレのことコースケって呼べよ」

「え……それって」

「後はお前次第だ。お前さえ認めてくれれば、俺達は親友だ!」


 突然のことに思考が追いついてこなかったけど、寺本くんの、いやコースケの親友という言葉に僕は思わず彼の手を握った。今までならここで頬を染める彼が居たけど、もうそんなことにはならない。

 だって親友なんだから!


「嬉しいよっ、コースケ! うん、僕たちは親友だよ!」

「ハハッ! 思わずで手を握っちまう辺りはお前だよな。こういう時は、こうだよ」


 互いの拳を合わせ、僕らは笑った。

 本当に嬉しい。生まれて初めて親友が出来た。今まで仲良くなっていくと、どうしてか相手の態度が余所余所しくなってしまい、いつの間にか距離が開いてばかりだった。男同士の友達が欲しかった僕は積極的に皆と関わっていたけど、親友と言ってくれたのはコースケが初めてだ。


「でさ、ツバサ。親友として、相談したいことがあるんだが」

「うんっ、なんでも聞くよ!」


 コースケは照れるように頬を赤らめて一度口ごもる。でもそれは、もう僕に向けられたものじゃないのが分かった。そっか、コースケはきっと、好きな人が出来たんだ。色んなことがあった今日だけど、親友として一番に祝ってあげたい。


「僕にできることならなんでも協力するよ。ほらほらっ、言ってよ」

「最初に言った、黒いドレスを着た女の子なんだけどさ」


 あれ?


「すっごく綺麗な黒髪でさ……なんか、きらきらして見えたんだ。顔はちょっと幼かったかな? でもキリッとした表情でいるからすげえ大人っぽく見えた。なんかもう、ガキの頃読んだ童話のお姫様が飛び出してきたみたいでびっくりしたよ」

「へ、へぇ……」

「職員の人はガス中毒がとか言ってたんだけどさ。その子が剣持って次々化け物退治していったんだ。うん…………綺麗だった」


 つまり僕の親友は……。


「はは、一目惚れって……あるんだなっ!」


 それから数日ほど、僕は自室に引き篭もった。





雷神トールの持つトールハンマーは自在に槌の部分の大きさを変えられたそうですが、ロキのせいで柄が短くなっていて扱いにくかったという話があります。

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