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アズサさんに僕の性別がバレた後、彼女と幾つかの方針を話し合った。
ずばり、このことを皆に話すかどうか、ということ。
こうして知られた以上は、素直に話すのが一番だと思った僕は、すぐにでも話をしようと持ちかけた。けど、アズサさんは難色を示した。
「ミホは……男性に耐性無いからなぁ」
川村さんのようにずっと目上の人間であれば平気らしいが、年の近い異性との関わりを持ってこなかったそうで、僕の性別をバラした途端卒倒しかねないのだとか。
確か、学校もエスカレーター式のお嬢様学校で、金持ち同士の集まりにも全く参加していなかった。建前程度の理由しか僕は知らないから、本当の所は分からないけど。
結構時間を掛けて考えた結果、折を見て話そうという所で落ち着いた。
そして、それまで過度な触れ合いは避け、誠実に友人として振る舞うことをアズサさんに誓わされた。僕としても、正直に話してしまいたい気持ちはあっても、やっぱりアズサさんに知られた時のショックが残っていたのもあって、消極的に賛成した。
ちゃんと話せたら、もっと切り込んだ話をしてみたい。
あの人はどうしてるんですか、とか、そういうことを。
※ ※ ※
ベッドをアズサさんへ明け渡し、僕は部屋にあった椅子に腰掛ける。
一騒ぎして落ち着いた今、ソファにはミホさんとシズクちゃんが座って、川村さんの用意したお茶を飲んでいる。
雨音は静かに、昼下がりのお屋敷を暗く染めている。
あれからずっと振り続けているらしい雨。
僕にもちゃんと制御し切れていないセイズと言われる呪術は、ミホさんから使用禁止を言い渡された。天候さえ操るあの力は、あまりにも規模が大きすぎる。操った結果、遠く離れた地で、異常気象が発生する可能性もあるから、慎重になるべきだと。
実際、昨日の竜巻はちょっとした騒ぎにもなっているらしい。
あれだけ大きな竜巻が観測されながら周囲に被害はないという、キセキのようなニュースは、意外と大勢の人が食い付いたんだとか。色んなことが重なったのもあって、ミホさんが手を回すより早く世間が動いてしまった。かろうじてそこで争っていた人達の話は揉み消せたらしいけど。
「改めて……ごめんなさい。私のせいで」
ベッドの上、身を起こしたアズサさんが頭を下げた。
僕はミホさんを、シズクちゃんを見て、その反応を待った。
ミホさんは紅茶に口を付け、目を閉じている。思考の間が数秒。音もなくカップが置かれた。
「申し訳ないけど、今から三人には、事が落ち着くまでこの屋敷で過ごして欲しいの」
「過ごして、って……家には?」
「まず第一に、アズサを一人にすることは出来ないわ。武装を失ったアナタは、今誰よりも無防備で、狙われやすい。単独行動をしているだけで常に大きな危険がある以上、この話を飲んでもらえなければ足手まといになる」
敢えて選んだだろう言葉は鋭く、アズサさんも辛そうに顔を俯ける。
散々ふざけていたけど、彼女の身体は僕ほどに回復してはいなかった。それも当然だ。力の大半を失っているということは、治癒に回せる力そのものが減ってしまっているんだ。
本来なら病院で安静にしていなければならないけど、そうなれば僕たちが近くに居るのが難しくなる上、余計な人を巻き込んでしまう。
失ったとはいえ、イムアラムールの力は、僕らのずっと先を行っている。今はミュウに頼むしかないんだろう。
「アズサの警護にはシズクとツバサさん、二人についてもらいたいの。ツバサさんは学校も、家のこともあるでしょうけど、どうかお願いします」
「……ミホさんはどうするつもりですか」
「私は、アズサの力を取り戻しに行くわ」
「一人で、ですか」
「えぇ」
言い切るミホさんには、有無を言わせぬ迫力があった。
彼女はいわば、僕たちの中心人物だ。僕も、アズサさんも、彼女に言われて集まった仲間。だから彼女が責任を感じるのは分かる。けど、
「僕も同行します」
「足手まといよ」
「前回の戦いで、相手の警戒は買えました。陽動くらいは出来ます」
「その結果、今度は貴女が力を奪われたら? ここの守りもシズクだけでは不安が残るわ。警戒を買えたというなら、その貴女が残るこの屋敷に、迂闊な攻撃は仕掛けてこないでしょう。今大切なのは、これ以上の被害を受けないこと」
でも、それだとミホさんは一人で敵地へ乗り込むことになってしまう。
自陣であるなら十全の力を発揮出来るということは、敵地はまさに今までの比じゃないほどの危険なんだ。
確かにミホさんは、昨日の戦いで唯一敵を撃退している。経験も長いし、戦い方さえ考えれば、最も多数を相手に出来る。
それでも、あまりに危険だ。
そもそも敢えて武装だけを奪って逃走したのは、僕らを陣地から誘い出す為のものだ。
絶対に相手は待ち構えてる。どんな罠が張られているか分かったものじゃない。
「やっぱり僕も」
「お願いですから言うことを聞いて下さいっ」
「あーもううるさいなあ」
声を荒らげたミホさんを遮るように、アズサさんが大きな声を出す。
自分の言葉に自分で傷付いたミホさんを、アズサさんは笑顔で覆ってくれた。本当に、そういう所は凄いと思います。
「怪我人の前で騒ぐくらいならあっち行った行った。私はシズクと仲良く静かに過ごしてるから、うるさい二人は余所に行ってくれないかなぁ」
「今一番暴走してるのはミホ」
「なっ!? 二人揃って何言い出すのっ」
シズクちゃんまでそれに乗ったものだから、ミホさんの一度は収まった興奮がまたぶり返してしまう。でもなんだか、慌ててるミホさんを見るのは新鮮だ。
「ツバサさんまでっ、なんで私を見て笑うんですかっ」
「ミホさんが可愛いなぁと思いまして」
おー真っ赤になった。
でも照れるというより更に怒ってる?
「私は冷静ですっ。ちゃんと勝算もあるんですから、少しは私のことを信頼して下さい!」
「だったら、私やシズクや、ツバサのことも信頼してよ」
「…………そ、それは」
笑顔のアズサさんにミホさんがしゅんとなる。
いつの間にかアズサさんの脇に控えていたシズクちゃんは、楽しそうにそんなミホさんを見ている。
結局、皆が皆を心配していて、信じて欲しいって思っていたんだ。
「私、守るだけなら最強」
「どうしてシズクまでこんなに……アズサの影響かしら」
「なんでそこで嬉しそうならともかく、娘を取られた父親みたいな顔するかなぁ」
「お父さんは大変ですね」
「お母さん、ちゃんとお父さんを見張ってあげてね」
「あれ、僕がお母さんなんですか?」
「私はドラ娘で」
「もうっ、アズサはドラ息子にしましょう。えぇ」
「うわぁ、気持ちいいくらい不機嫌だなぁ」
「私だけ性別逆転してるのは不公平ですっ」
「シズクちゃんは末の妹ですね」
「影の支配者」
「あはは、お父さんは大変だね」
結局押し切る形で、お父さんとお母さんが出張することになりました。
性別逆転してるの、二人じゃなくて三人なんですけどね。




