何故か、ターゲットが私になりました
「俺はもう我慢しないから。覚悟しといてね」
真城遼一のその言葉通り、アイツは私に標的を絞った。
亜美がいても私に話しかけるようになったし、やたらと私にかまうようになった。
おかげで海斗と亜美は仲良くなっちゃったし。
亜美には、真城君と仲良いんだね、だなんて言われちゃうし。
海斗君は嬉しいだろうが、私は困る。
というか亜美も何のんびりと言っているんだ。
仮にも好きな人じゃないのか。
私は亜美の恋路が上手くいかなければ、第二の人生楽しめないんですけど!!
真城遼一の気まぐれにかまってる場合じゃないから!
とはいえ、そんなこと誰にも言えない訳で、今日も私は不本意ながらも真城遼一のアタックを受け流しているのだった。
「葵ちゃん、今日も一緒に帰らない?」
「帰らない。というか一緒に帰った覚えはないのに、どうして、今日もって言葉が出てくるのよ」
「えー、帰ったじゃん。カラオケの時」
「さっさと別れたあの時は、一緒に帰ったとは言わない」
「まあ、そんなこと言わずに、一緒に帰ろうよ」
つれない私の言葉にあきらめることなく、真城遼一は誘い続けてくる。
その執念はすごいけど、はっきり言って迷惑なんで、とっととあきらめてください。
「相変わらず、仲良いね、二人とも。私達はもう帰るねー」
「え、ちょっと待って!」
私の言葉を無視して、亜美は笑って、去っていった。
海斗君と仲良く話しながら。
ーーああ。唯一の救いがいなくなってしまった。
いつもなら、亜美と一緒に帰るからって言って、真城遼一を放っておいて、さっさと帰るのだが。
今日は亜美がさっさと帰ってしまった。
何ですか。
私を困らせたいんですか。
そんなことして、楽しいんですか。
亜美の馬鹿ー!
私が亜美がいなくなった教室の扉を恨めしそうに見つめていると、真城遼一が嬉々として言ってきた。
「さあ、亜美ちゃんも帰っちゃったし。俺と一緒に帰ろうよ」
「一人で帰るから、別にいいよ」
私は亜美に頼ることをあきらめ、一人でなんとかすることにした。
面倒くさいなあ。
「女の子一人は危ないよ?」
「夜遅くじゃあるまいし。大丈夫よ。ほっといて」
「夕方って十分危ないよ? ほら、逢魔が時って言うし。変な人に変な場所に連れ込まれちゃうかも」
そう言う真城遼一の目は真剣で、複雑な色をしていた。
ーー確かに逢魔が時だったわね。
大学の帰りに、乙女ゲームの神様なんかに会っちゃって、そのせいでこんな世界に連れてこられちゃったし。
そうじゃなかったら、今、真城遼一に迫られて困ることなかったなあ。
そうよ、全部あの神様が悪いんだから、なんとかしなさいよ!
この状況をなんとかしなさい!
神様の馬鹿野郎ー!
『そう怒らないでよ。私は世界にあんまり干渉できないんだから』
心中で怒り狂っていると、神様の呆れたような声が聞こえた。
それでもなんとかしてよ!って、頼むと、神様のため息が返ってきた。
『みんな、わがままなんだから。人間ってこういうものなの?』
ちょっと、みんなって何ですか?
何、他にも人間っているの?
いや、亜美も、海斗君も、真城遼一も人間だけど、私みたいな別の世界の人間がいるってこと?
『分かった。じゃあ、私の代わりに、別の人に助けてもらえるようにするから』
なんか急に焦ったように、神様はそれだけ言って、声が聞こえなくなった。