三角関係みたいになりました。
カラオケの日から、真城遼一の様子がおかしい。
まず、カラオケの時に、ノリと流れで真城遼一と携帯のメールアドレス交換した。
知るはずのなかった真城遼一のアドレスを知ってしまっただけでなく、彼からたくさん絵文字の入ったメールまで来た。
まあ、内容は今日のカラオケは楽しかったとか、当たり障りないものだったから、まだ良いけど。
本当は良くないけど。
それより問題なのは、そのメールの追伸だ。
メールが続いているようだったので、スクロールしていくと、
〔追伸 またカラオケ行こう。今度は二人っきりで〕
だなんて、書いてあったのだ。
にぎやかなメールから一転して、絵文字一切なしの文字だけで。
しかも、この追伸は、亜美には送られてないらしい。
真城遼一と二人っきりで行きたいから嘘をついている様子もなく、ただきょとんとしていたので、間違いないと思う。
全く真城遼一は何を考えているんだーって、内心頭抱えるほど悩んだ。
それからというもの、真城遼一はやたらと私にかまってくる。
しかも、亜美と一緒にいる時はあまり話しかけないくせに、私が一人になると話しかけてくるのだ。
しかも、なんか意味深な態度だし。
自然と私と亜美と海斗君、真城遼一の四人組になったが、亜美がいる時は全くと言っていいほど話しかけてこないので、私は海斗君と話すようになり、なんだか仲良くなってしまった。
まあ、別に海斗君は一途に亜美のことを想ってる人だから、友人としては良い。
機会があれば海斗の恋を応援してあげようじゃないか。
ただし、今のところ、亜美は真城遼一を選んでいるようなので無理だから、早く別の人を見つけなさいね。
それが簡単にできたら、彼も苦労しないんだろうけど。
「葵ちゃん」
油断すると、こうやって私が一人になったところを狙って、真城遼一は話しかけてくる。
はっきり言って迷惑だ。
「何?」
「相変わらずつれないな」
真城遼一はニコニコと人懐っこい笑顔を崩さない。
「ほっといて」
「断る。とりあえず来て」
真城遼一は私の手を引っ張った。
「やだ。私はもう帰るの」
私が真城遼一の手を振り払おうとすると、彼は更に強く握った。
「すぐ終わるから」
なんだかんだ言っても男のコイツの力には勝てないので、大人しく付いていくことにした。
たどり着いたのは誰もいない屋上だった。
「まあ、此処ならいいかな」
真城遼一はそうつぶやいて、私の手を離した。
「いきなり何なの」
「何だと思う?」
真城遼一はあのカラオケの時に見せた人をからかっているような表情で私を見た。
「訳分かんない。私をかまって、何が楽しいの? しかも、私一人の時を狙って」
「楽しいさ。だって、あんた面白いし。あんたが一人の時じゃないと、俺も楽に話せないし」
真城遼一はニヤニヤと言った。
「色々面倒なんだぜ?」
言葉通り彼は大儀そうにため息をついた。
そんなこと言われても知らないし。
やっぱり、というか余計訳分かんない。
「じゃあ、私に話しかけなきゃ良いじゃない」
「馬鹿。それだとダメなんだよ。ここまで苦労した意味がない。というかもう我慢の限界だ」
何故か真城遼一に睨まれた。
「何で、あんたにいきなり馬鹿呼ばわりされなきゃいけないの」
私が睨み返すと、彼は面白そうに笑った。
「やっぱりあんた面白いよ」
「意味分かんない。用がそれだけなら私帰る」
私が踵を返すと、真城遼一はまた私の手を掴んで引き留めた。
「待てよ。本題はここからだ」
「じゃあ、サッサとして」
いきなり真城遼一の口調とか表情とかが豹変してるけど、もう突っ込まないことにする。
とにかく早く帰りたい。
「本当はもう少し口説いてからにしようと思ってたけど、我慢の限界だから。あんた、俺と付き合わない?」
「は?」
思ってみない言葉に思わず固まる。
「もちろん、俺が付き合いたいのは、水原葵、あんただからな。あんたの友人、亜美じゃないから」
「何で?」
「俺にも色々事情があるんだよ。あ、知りたい? あんただったら教えてあげるよ?」
真城遼一はニヤニヤと笑った。
「いえ、結構です。ごめんなさい」
私は我に帰って、キッパリと否定した。
何故私が告白されてるのか知らないけど――というかこれ告白と言えるのか?
とにかく相手を間違っている。
亜美でしょ!?
相手は私じゃなくて、亜美でしょ!!
「告白相手を間違ってるから。じゃあ、私はこれで」
私は端的にそれだけ言うと、無理やり手を振り払って、走り出した。
「でも、俺もう我慢しないから。覚悟しといてね」
後ろから追いかけてきた真城遼一の言葉も無視して、私は教室に戻った。