ゲームの物語が進み始めました①
次の日。
今日は午前中に内科検診と身体検査をし、私が主人公と友達になる日だ。
午後は教科書などを買い揃える。
「おはよう。出席番号順座ってない奴は、欠席にするからなー」
今日もやる気なさそうな声で、先生は入ってきた。
先生の言葉に、友人達と楽しそうに話していた皆は、バタバタと自分の席に戻った。
「欠席はなしと。まぁ、当たり前か。今日は内科検診と身体検査を午前中にする。今から配る検診票に、組と出席番号と名前を書け」
先生は面倒くさそうにやるのかと思いきや、手早く、配った。
やる気なさそうな姿に反して、仕事は素早いのね。
「で、書けたら、それを持って、このプリントに従って検診に行ってこい」
先生が配った2枚目のプリントは、クラスごとに身体検査を回る順番が書いてあった。
男女別で回るらしい。
「出席番号順に並んで行けよー」
「先生ー、視聴覚室ってどこー?」
女子の一人が、先生に最初の検診場所を尋ねた。
「三階だ。後はそこら辺に立ってる生徒会員か、先生に聞け」
「先生、音楽室はー?」
今度は男子が尋ねた。
「四階だ。これもそこら辺にいる奴らに聞け」
だんだん先生の応答が面倒くさそうになってきた。
「出席番号順って分からないー」
「今の順番のまま、一人ずつ教室出ていけばいいだろ」
「先生は行かないのー?」
「俺は留守番だ。さっさと行ってこい!」
とうとう女子の相手が面倒になったのか、先生が怒鳴った。
「もう、先生は怒鳴らなくたっていいじゃん」
ケラケラと笑いながら、先生と話していた彼女達は出て行った。
私もついて行きながら、あの子たち強いなーと関心してた。
ふと、振り返ると先生はうんざりしたようにため息をついていた。
お疲れ様です、先生。
三階につくと、列の先頭の女子達は階段を出たところで、戸惑ったように立ち止まった。
「視聴覚室って、どう行くんだろう?知ってる?」
「さあ?分からない」
先頭の女子達がそんな話をしていると、前から見覚えのある青年がやってきた。
「君達、新入生?聴覚検査受けにきたのかな?」
生徒会長だった。
「あ、はい!そうです」
先頭の女子が答えると、生徒会長は手招きした。
「おいで、連れて行ってあげるよ。俺は生徒会長の円城寺です。皆さん、よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
ミーハーな女子達は、嬉々として言った。
もちろん私は黙ってたけど。
生徒会長の案内で、聴覚検査をするだけにしては広い視聴覚室についた。
そして、検査を受けた後また生徒会長の案内で、次の検査の教室へと向かう。
その途中、生徒会長の携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし。……あぁ、分かった。でも、まだ別の新入生達を案内中だから、終わってから行く。……うん、よろしく」
電話を切ると、生徒会長は向き直った。
「悪いけど、また視聴覚室に新入生が来るみたいなんだ。迷うだろうから案内にいかないといけない。音楽室までは案内するから、そこからは先生達に道を教えてもらってね。ごめん」
「はい!大丈夫です!」
またも、ミーハーな女子達は元気に返事した。
そして音楽室に着き、生徒会長がいなくなると、途端に格好良かったとか騒ぎ出した。
ふと、ゲームの主人公の桜庭亜美を見た。
彼女は生徒会長が歩いていった方を少しだけ見てあとはミーハー女子達に混じるでもなく、大人しくしていた。
私の記憶だと、ゲームの主人公は周りのミーハー女子の騒ぎに、生徒会長を改めて見て、確かに格好いいかなと思う程度だったはずだ。
その後は、先生に道を教えてもらいながら、それなりに順調に進んだ。
残るは、体重測定だけになり、とうとう私が仕事をする時がやってきた。
二列になり、体重測定することで、私と桜庭亜美の差が縮まる。
そして、体重測定を終わった私の前にまるで決まっているかのように、桜庭亜美の検診票が落ちてきた。
これをきっかけに友達になるため、私は検診票を拾い上げ、彼女を呼び止めた。
「桜庭亜美さん、検診票落としたよ」
艶のある長い黒髪がなびきながら、彼女は振り返った。
「えっ!ありがとう!……でもどうして、私の名前を知ってるの?」
桜庭亜美はお礼を言って検診票を受け取り、首を傾げながら問いかけた。
「だって、検診票に書いてあるもの」
まぁ、検診票見る前から私は知ってたけど、それは秘密。
「あぁ!そっか!」
私の答えに、桜庭亜美は笑った。
可愛らしい顔が更に可愛らしくなる。
なるほど。
この笑顔に攻略対象の彼らは惚れるのね。
美人とはお世辞にも言えないけど、可愛らしい顔してるし。
艶やかな黒髪も魅力の一つかな?
「ねぇ、あなたの名前聞いてもいい?」
「えぇ、もちろん。私は水原葵です。よろしくね」
「そっか。改めまして、私は桜庭亜美です。よろしくね。葵ちゃんって呼んでいい?」
「うん。私も亜美ちゃんって呼んでいい?」
「もちろん!よろしく!」
「よろしく」
私は無事主人公の友人になることができた。
よし。第一関門突破。
後は、亜美ちゃんの恋を応援するだけだ。
それが終われば、私の本当に新しい人生が始まる!
頑張りますか。
そうして、身体検査を終わったため列を崩しながら戻るクラスメート達と共に、桜庭亜美と話しながら教室に戻った。
教室に戻ると、先生が待っていた。
どうやら男子達は一足先に教室に帰ってきていたようだった。
彼らは弁当を広げ、食べていた。
「ようやくお前らも帰ってきたか。先に昼飯食べとけー。検診票は後で集める。他のクラスに遊びに行ってもいいが、チャイム鳴ったら帰って来いよー」
先生はそれだけ言い残すと、早々に教室を出て行った。
皆はそれぞれ思い思いの場所で、昼食をとった。
私は友人となった亜美と一緒に昼食をとる。
「幼なじみの海斗も一緒でいい?」
「いいよー!」
私達は海斗の席の近くに座った。
「海斗!彼女は水原葵ちゃん。友達ができたの」
「良かったね。亜美。僕は稲垣海斗です。よろしく」
「えぇ。よろしく」
自己紹介を終え、私達は楽しく話しながら、お昼ご飯を食べ始めた。
話は身体検査で会った生徒会長のことになった。
「生徒会長、格好良かったねー」
「そうだねー」
亜美は少しだけ頬を染めて言った。
「生徒会長って、名前何だったっけ?」
「確か円城寺祐月さん」私が答えるより先に、海斗が答えた。
「そうそう!良く知ってるね!海斗」
「入学式の時に挨拶してたじゃないか」
「そういえばそうだね。それで、その円城寺さんが優しくてさ。案内してくれたし、できなくなったら謝ってくれたし」
「僕達の時も同じようにしてくれたよ」
「やっぱり優しいんだ!」
「優しいというより、それが生徒会長の仕事だと思うけど」
興奮気味の亜美に、少し不機嫌そうに海斗は答えた。
まぁ、好きな女の子が他の男のことが格好いいとか言ってたら、嫉妬するのも当たり前か。
「えぇー。葵ちゃんはどう思う?優しいと思う?」
幼なじみの同意を得られなかった亜美は、私に同意を求めてきた。
「優しいと思うけど、海斗君のそれが仕事って意見にも賛成かな」
少し海斗のフォローをすることにした。
遼一みたいに睨まれたらたまらないし。
「格好いい人も他にもいるよね。例えば、ほら、このクラスにも」
「えぇー?」
私の言葉に、亜美は辺りを見渡した。
海斗は少し緊張した面持ちだ。
しかし、彼の期待は外れてしまう。
「例えば、彼とか?」
亜美が指差した先にいたのは、真城遼一だった。
「あー、確かに」
ちょっと私は苦笑する。
どんまい、海斗君。
君の想いは届いていないみたいだけど、頑張れ。
海斗君は不機嫌そうに忠告した。
「彼は真城遼一君。片っ端から女の子に声かけてたのを見たから、女たらしじゃないかな?」
「えぇー!そうなのー!?」
いや、流石に片っ端から女の子に声をかけるほどではなかったはずだよ?
女たらしは否定しないけど。
幼なじみの言うことを素直に信じた亜美は、ショックを受けたようだった。
「女たらしなんだ……じゃあ、ダメだね……」
「そうそう。やめておいた方がいいよ」
勢い良く海斗君はうなずいた。
あはは。必死だなぁ。
「じゃあ、このクラスにはいないんじゃない?」
亜美はそう言って、またクラス中を見渡した。
海斗君の思惑はことごとく外れてしまうらしい。
「もしかしたら、すぐ近くにいるかもね」
「いたらいいけどなぁ」
私のフォローもサラッと流された。
少しだけ落ち込んだ様子の海斗君に、亜美は気付かず、他の話題を私に振ってきた。
頑張れ、海斗君。
もし、亜美が君を攻略対象として選んだなら、私ももっと手助けしてあげるよ。
まぁ、選ばれなかったその時はあきらめてね。
私にはどうにもできないし。
その後、チャイムが鳴り先生が教室に戻ってきた。
そして、検診票を集め、教科書を買うという午後の予定を言い、それに関するプリントを配った。
それが終わると、『ここで解散だ。教科書買い終わった奴から帰っていいぞー』とだけ言い残し、早々に出て行った。
私と亜美と海斗君の3人で教科書を買いに行った。自分の良い所の見せどころとばかりに、海斗君は亜美の荷物を持った。
亜美は感謝していたが、慣れているからか、それだけだった。
まぁ、そんな感じで海斗君の空回りで、今日は終わった。
長すぎるので、ここで一旦区切ります。