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恋愛相談されました

 海斗君を私から引き離すことを成功したが、一週間経っても、二週間経っても真城遼一はなかなか私から離れていかなかった。

 いくら冷たくあしらおうとも、懲りずに話しかけてくるのだ。

「葵ちゃん、おはようー!」

「はいはい、おはよう」

 朝から元気に挨拶してきた真城遼一に適当に返事した。

「相変わらず冷たいねー」

「ほっとけ」

「さらに口悪くなってない? 葵ちゃん」

「そう思うんだったら、私のことは構わないで」

 しつこく私に話しかけてくる真城遼一をあしらうが、アイツはあきらめなかった。

「嫌だ。第一、稲垣を追い払ったってことは俺のこと、案外好きだよな?」

 あ、本性出した。

「いきなり本性出したね。まあ、いいけど。海斗君は追い払ったんじゃないから。私を挟んで二人が喧嘩するのが嫌だったから、海斗君を亜美のところに行かせただけ」

 友達の海斗君には厳しいこと言えないけど、真城遼一なら冷たくしても大丈夫だから。

「本性言うな。まるで俺が猫かぶってるみたいだろ。人聞き悪い」

 こっぴどく振ろうとしているのが伝わったのか、それとも別の理由か、真城遼一は不満そうに私を睨んだ。

「え? 事実でしょ」

「事実だろうと、本性って言うな。色々事情があるんだよ」

「まさか、認めるとは思わなかった」

「とにかく、言うな。特に、亜美と稲垣の前ではな」

「はいはい。今までも言わなかったんだから、今更言うわけないでしょ」

 うんざりと私が答えると、真城遼一は不思議そうにこう言った。

「そういえば、何で言ってないんだよ」

「だって、言っても信じてもらえなさそうだし。あんたは亜美達の前ではほぼ猫かぶってたでしょ。それに訊かれなかったから、言う必要なかったし」

 元々、私は真城遼一と亜美をくっつけようと思ってたんだから、変なこと言って、亜美があんたから離れたら困る。

 まあ、真城遼一の変な行動で私が何も言わないでも亜美はあんたから離れて行ったけど。

「やっぱり、あんたって面白い」

 急に真城遼一は笑いだした。

「意味分かんない」

「まあ、葵ちゃんって結構優しいし、俺のこと好きでしょって話」

「はあ?」

 真城遼一の口調が元に戻ったかと思うと、亜美と海斗君が教室に戻ってきた。

 さっそく亜美が私に話しかけてくる。

 そこで、ようやく私は真城遼一から解放されたのだった。


 昼休み。

 私と真城遼一だけになったので、屋上で食べるのをやめて、教室で食べるようにしていた。

 その日は珍しく生徒会に行かなかった亜美に、屋上に誘われた。

 しかも、何やら相談したいことがあるみたいで、二人っきりが良いと言われた。

 海斗君と真城遼一を教室に置き去りにして、私達は屋上に向かった。

「で、話って? 何の相談なの?」

 屋上に行き、弁当を広げても言いにくそうにもじもじしている亜美の代わりに私が口を開いた。

「さすが葵ちゃん。よく分かったね。私が相談したいことがあるって」

 亜美は少し驚いたようにしながら笑った。

「まあね。二人っきりで話したいだなんて相談したいことがあるとしか考えられないし」

「なるほど。えっと、あのね、えーと、その」

 納得したようにうなずいたあと、亜美は言葉にならない声を出した。

「話しにくかったら、先にお弁当を食べる?」

「えっと、うーん、いや、いいよ。ありがとう」

 気を使った私にお礼を言った亜美は、深呼吸してようやく重たい口を開いた。

「実は、あのね、私、海斗に告白されたんだ」

 亜美は顔を真っ赤にしながらそう言った。

 私としてはとうとう海斗君は告白したかって感じだけど。

 でも、思っていたより早かったな。

 もう少しかかるかと思った。

「そっか。それで?」

「それでって! 葵ちゃんは驚かないの!?」

 相変わらず顔を真っ赤にしながら、亜美は問いかけてきた。

「だって、見てたらまる分かりだったもん。海斗君は亜美のことが好きなんだなって」

「そうなんだ。私、全然気づかなかった」

「うん。だと思ってた。気づいていて、無視するほど亜美は器用じゃないと思ってたし」

 驚いたように小さな声で言う亜美に、私はあっさりと言った。

「それで? 亜美はどうしたいの?」

「ど、どうしたいって?」

 戸惑った表情でおうむ返ししてくる亜美に私は決定的な言葉を投げかけた。

「だから、海斗君の告白を受け入れて、彼と恋人になるのか。それとも他に好きな人がいるから、断るのか。亜美はどっち?」

「こ、恋人!?」

 亜美は先程より顔を真っ赤にさせてそう叫んだ。

 更に、いや、あの人と恋人になりたいとかそう思っているわけじゃとか云々、ぶつぶつとつぶやきだした亜美を見て、私は確信した。

「その様子じゃ、亜美がどうしたいかは決まってるみたいね」

「えぇ! 決まってないよ! 海斗から告白されるなんて思ってなかったから、びっくりして。どうしていいか分からなくて。だから、葵ちゃんに今相談してるんだよ!」

 動揺している亜美に、私はこう言った。

「でも、さっき、あの人と恋人になりたいわけじゃないとか言ってたじゃない」

「え! それは……っていうか聞いてたの!」

「うん。聞こえた。あの人って海斗君じゃないでしょ。海斗君なら亜美は海斗って呼ぶし。ってことは、生徒会長かな?」

「ち、ちち違う! 違うもん!」

 亜美は思いっきり否定したが、顔を真っ赤にしていたら説得力がない。

「亜美、顔を真っ赤にして否定しても、説得力ないから」

「う……」

 言葉に詰まってしまった亜美に私は笑いかけた。

「いいじゃない。別に否定しなくても。生徒会長のことが好きなんでしょ」

「でも、人使い荒いし、仕事しなきゃ怒るし、怖いし。周りには人当たりよく優しいけど、生徒会役員には厳しいんだよ?」

「あらあら。そうなの? 優しそうに見えたのは猫かぶってたのね。じゃあ、そんな人使い荒い男はやめて、優しい海斗君にしておく?」

 本当は知ってたけど、知らなかったふりをしてそう言った。

 少し白々しい感じになるし、演技っぽくなるけど、亜美が気にしてないから大丈夫のはずだ。

「あ、でもでも、時々、びっくりするほど優しいし。生徒会長の役目を責任持って真剣にやっているのは分かるし。誰より努力しているのは知ってるから、私も助けになったらいいなとは思ってるよ。ただ、それだけっていうか」

 生徒会長のことを言う亜美の表情は、頬を少し赤く染め、嬉しそうだ。

 まさしく恋する乙女な顔をしておいて、まだ気づいていないようだ。

 仕方ないので、私は亜美にとどめをさすことにした。

「ふうん。じゃあ、そんな亜美に質問です」

「え、う、うん。いきなり何?」

「もし、海斗君が亜美じゃない恋人ができたら、どう思う?」

 私の質問に、亜美はしばらく悩んだあと、こう答えた。

「うーんと、やっぱり、おめでとうって言うかな。海斗が幸せになるなら嬉しいし」

 そう言う亜美の顔はさっぱりしている。

 海斗君、残念。

 あなたが、割り込むすきまはなさそう。

 幸せなら嬉しいとは思ってくれるほど大事な存在だけど、それ以上ではないらしい。

 慰めてあげるし、新しい相手も見つける手助けもしてあげるから、私を挟んで真城遼一と喧嘩することだけはやめてね。

「それが、どうしたの?」

 亜美は不思議そうな顔をして、問いかけてきた。

「あ、まだ質問はあるから。生徒会長が恋人ができたって言ったらどう思う?」

「え? 生徒会長が?」

 そう言うと、悲しそうな切なそうな表情で亜美は考え込んだ。

 しばらくして、亜美は口を開いた。

「うーんと、まず誰なのかなって思う」

「海斗君の時は気にならなかったのに? 海斗君みたいに祝福しないの?」

 私はあえてそう言った。

「うん。なんだかおめでとうって言えない。言いたくない。なんか悲しいし、嫌な感じがする。もやもやする」

 なんだか泣きそうな顔をした亜美を見ていると、可愛く思えてきて彼女を抱きしめた。

「わっ、いきなり何? どうしたの? 葵ちゃん」

「それが答えだよ。海斗君が恋人できても悲しくないけど、生徒会長が恋人できたら悲しいと思う。それはやっぱり亜美は生徒会長のことが好きなんだよ」

「そっか。そうなんだ……」

 突然抱きつかれて亜美は驚いた様子だったけど、私の言葉に納得したようにおとなしくなった。

 ぱっと亜美から離れた私は、最後にこう言った。

「そうそう。生徒会長のことが好きだとして、海斗君の告白をどうするかは亜美次第だけどね。ただし、振るんだったら、きっぱり振ってあげた方が相手のためだよ? その方が割りきって次の恋に向かいやすいし」

「分かった! ありがとう、葵ちゃん! 葵ちゃんに相談して良かった!」

 亜美は笑顔でそう言った。

「よし! 悩みも解決したことだし。お弁当を食べようか。早く食べないと時間ないし」

「うん! あ、葵ちゃんが恋で悩んだら今度は私が相談に乗ってあげるね! そうじゃなくても頼って!」

 ニコニコと胸を張る亜美は可愛らしいんだが、少し頼りがいに欠ける。

「まあ、その内ね。もしかしたら、相談するかも」

「うん! 任せて任せて!」

 とりあえず亜美に話を合わせておいたら、彼女は嬉しそうにうなずいたので、良かったと私は笑った。

 しかし、その放課後、私はとんでもない出来事を引き起こしてしまったことに気づくのだった。


 放課後、亜美は私に再度お礼を言って、頑張ってくると張り切って、教室を出ていった。

 海斗君も一緒に生徒会室に向かったらしい。

 私は珍しく真城遼一が先生に捕まって動けない内に、私は早く帰ろうとしたが、また別の先生に捕まり、プリント運びを手伝わされたのだった。

 プリントを職員室に運び終えて帰る途中、落ち込んだ様子の海斗君に会った。

 ああ、さっそく亜美に振られたんだな。

 そう思った私は、海斗君を慰めるべく声をかけた。

「海斗君! どうしたの? 落ち込んだ様子だけど」

「ん? ああ、葵ちゃん……」

 声に反応した海斗君は、うつむいていた顔を上げて、私を見た。

 しばらく、ぼうっと私を見ていた海斗君だったが、突然顔を真っ赤にさせたかと思うと、私の腕を掴んだ。

「え、何? どうしたの?」

「いいから、来て!」

 困惑して問いかけても、海斗君は答えてくれなかった。

 普段温厚な彼とは程遠い乱暴さで、ぐいぐい腕を引っ張られていく。

 どこに行くとか何しに行くとか何も言わずにずんずん歩いていく海斗君が、いつもと違って何だか怖い。

 とりあえず、腕をほどくこともできないので、私は黙って付いていくことにした。


 たどり着いたのは屋上だった。

 放課後、屋上に誰もいるはずもなく、静かだった。

 屋上の扉を閉めて、海斗君は私に向き直った。

「葵ちゃん」

「な、何? 屋上まで来て、何の話?」

「亜美にさ、相談されたんだって?」

 うつむいたまま、海斗君はそう問いかけてきた。

「う、うん。海斗君に告白されたって相談された」

 ごまかすこともできたが、海斗君の様子がおかしかったので、正直に話すことにした。

「で、生徒会長のことが好きだって分かったから、俺とは恋人になれないって言われたんだ。それを指摘したのは葵ちゃんらしいね?」

「う、うん。ごめん。亜美は見るからに生徒会長のことが好きだって態度だったから。好きな人がいるのに、海斗君と付き合ったら? なんて勧められなくて。亜美の意思を尊重したかったし。ごめんね」

「そうなんだ」

「うん。ごめん」

 まだ海斗君はうつむいているので、表情が見えない。

 突然、海斗君は私の腕を引っ張って、屋上の奥に進んだ。

 屋上のフェンスまで来ると、突然、私をフェンスに押し付けた。

 両腕は海斗君の両手で押し付けられて、体とフェンスがぶつかり、かしゃんと音がした。

「ちょっ、いきなり何? どうしたの? 離して!」

「確か、亜美に振られたら、葵ちゃんが慰めてくれるんだよね? 新しい恋の相手も見つけてくれるって言ってたよね」

 慌てて私はもがくけど、動くことはできない。しかも、海斗君は私の質問に答えてくれない。

 ようやく顔を上げた海斗君の表情は暗い。

 目が変にギラギラした光を灯っていて、本格的に様子がおかしい。

「言ったけど。これはどういうことよ!?」

「葵ちゃん、俺が亜美に振られるのは分かっていたんじゃない?」

「分かんなかった!」

 薄々振られるのは感づいていたけど、亜美に話を聞くまで確信していたわけじゃない。

「葵ちゃん、元々、俺が亜美に振られるのを待っていたんでしょ。関先生にも協力してもらっていたんでしょ。聞いたよ。俺のことを葵ちゃんが好きだって」

「は? 何言ってんの?」

 私は突然の言葉に驚きすぎて、動きが止まった。

「ごまかしても無駄だよ。亜美に振られて落ち込んでいる俺を慰めて。あわよくば、俺を君に惚れさせようとしてたんでしょ」

「ち、違うって! 勘違いして……」

「だから、ごまかしても無駄だって。女の子って怖いね。でも、もういいや。君でもいいから慰めて」

 私が必死に反論しようとしたが、海斗君は聞きたくないかのように遮った。

 そして、そのまま顔を近づけてきた。

 本当に勘違いしてるって!

 というか、ヤケになるなよ!

 聞く耳を持たない海斗君にこれ以上何を言っても無駄だと気づいた私は、とにかく逃げ出そうともがいた。

 しかし、いくらもがいても、暴れても、フェンスがかしゃかしゃと音をたてるだけで、海斗君はびくともしなかった。

 ああ。彼も男なんだなぁと思い知ったところで、観念なんてできるはずもない。

 ちょっと、誰か助けてー!

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