もう先生には相談しない
真城遼一から、無理矢理モテる男故のの女性の愚痴を聞かされて、私は亜美とくっつけるのを完全に諦めた。
周りの男どもに怒られるような愚痴を散々吐き出した後、真城遼一はすっきりした感じで、一人で帰っていった。
今まで散々一緒に帰ろうと誘っておいて、今日は私と帰ろうと一言も発せず、ほったらかしにされた。
いや、いいけど。
一緒に帰ろうとか言われても断るけど。
一緒に帰りたがったのは、文句を聞いて欲しかっただけですか?
そう思ったら、これ以上真城遼一と亜美の仲をくっつけるのが、馬鹿馬鹿しくなってきた。
自分勝手な真城遼一のことは放っておいて、亜美には優しい海斗君がいいよね。
一途だし。
という訳で、海斗君の亜美告白作戦を再開することにした。
ただし、また真城遼一は懲りもせず、邪魔してくるし。
せっかく、真城遼一の妨害をすり抜けて、告白をセッティングしたというのに、今度は関先生に邪魔された。
まあ、先生は真城遼一とは違い、悪気はなかったんだろうけど。
でも、関先生には前に相談したから、大体の事情は知ってるはずじゃないですか!?
改めて、現在の状況を説明し、関先生に邪魔されないようにするため、私は誰もいない屋上に関先生を連れてきた。
「突然、どうした? 話ってなんだ? あ、言っておくが俺には好きな人いるからな」
「先生に告白する気ありませんし、誰を好きだろうが関係ありません」
変な勘違いしている関先生をバッサリ切り捨てて、私の話を聞いてもらおうと口を開く前に、先生がため息をついた。
「ひどいなー。ちょっとした冗談だぞ? もう少し優しくしてくれてもいいだろうが。それに、全く関係ない訳ではないだけどな」
「変な言動の先生が悪いんです。今も変なこと言ってますし」
「変な言動って、変なこと言ってるかもしれないが、変な行動はしてないぞ」
「変なこと言ってるのは自覚しているんですね」
自覚しているんなら、やめてください。
「まあ、水原には訳分からないことだらけだろうし」
「じゃあ、何で言うんですか?」
「まあ、そのうち」
飄々とそれだけしか言わなかったから、イライラした私は関先生を促した。
「そのうち、何ですか? 言ってくれるんですか?」
「水原次第? もしくは、アイツ次第かな?」
「相変わらず、意味不明な返答ありがとうございます」
私次第でいつか言ってくれるってことですか?
っていうか私次第って何しろと。
しかも、アイツって誰?
なんか真城遼一も同じこと言ってたし。
「ま、頑張れ、水原。俺は応援してるぞ」
「関先生はもう何もしないでください。そうです。元々それを言いたかったんです。関先生のせいで話それましたけど」
「え? 俺のせい?」
「そうです。それもこれも全部、関先生のせいです。海斗君と私を屋上に呼び出して放置するからです!」
まあ、それだけじゃないけど。
真城遼一の方が全面的に悪いけど。
「それはだな、稲垣に真城と桜井の仲を取り持つ協力者になってもらおうかと」
「じゃあ、何で、海斗君にそれを説明してないんですか! 彼、何で呼び出されたか分かってなかったんですけど!」
イライラして怒鳴り付けるように言う私に、関先生は肩をすくめた。
「いや、稲垣は桜井のことを好きらしいから、言わない方がいいかなぁと」
「じゃあ、何でやめなかったんですか! その時点であきらめてください!」
「任せろって言った手前、何もしない訳にはいかないだろ?」
「もう、何もしないでください!」
なんか疲れた。
あんまり叫ぶもんじゃない。
この疲れはそれだけじゃないけど。
「とにかく、私は亜美と海斗君をくっつけることにしたので、邪魔しないでください。ただでさえ、海斗君が亜美に告白するのを、真城遼一に邪魔されているんですから」
「あれ? 桜井と真城をくっつけるんじゃなかったのか?」
「色々あったので」
ため息つきながら私がそう言うと、関先生は苦笑した。
「おう、なんかお疲れ。まあ、後は俺に任せろ。真城に邪魔されないようにするから」
「だから、もう、何もしないでくださいって」
また変なことされたら困るし。
これ以上に面倒なことになったら、厄介だし。
「そう言うなって」
ただし、関先生は話を聞いてくれなかった。
「いや、もう、変なことしないでください」
「はいはい。じゃあ、俺、もう行くなー」
関先生は手を降りつつ軽々しい返事で、戻っていった。
あの関先生の軽さは信頼できないけど。
まあ、これ以上変なことしないよう、祈るしかないか。
数日後、昼休みにいなくなっていた亜美に、放課後、事情を聞いた。
「昼休み、どこ行ってたの?」
「生徒会室だよ。ちょうど葵ちゃんに報告しようと思ってたんだー」
亜美はニコニコと爆弾を落とした。
「私、生徒会員になって、生徒会の手伝いすることになったのー。だから、これから放課後は生徒会に行くから、葵ちゃん、先帰ってて。あ、海斗にもそう言っておいてね。よろしく! じゃあ、また明日ね!」
「あ、うん。また明日……」
なんだか嬉しそうな亜美を、私は見送ることしかできなかった。
ちょっと、関先生!
確かに、真城遼一に邪魔されないけど、私も何もできないんですけど!
海斗君とくっつけるどころか、別の人に亜美の関心が向いているんですけど!
こうなると、真城遼一も海斗君も私一人で対処しろと?
もう! 関先生に相談するんじゃなかったー!