乙女ゲームの主人公なんて面倒くさいです
例えば、イケメンに囲まれて、チヤホヤされて、甘い言葉の一つや二つかけられたとしたら、どうする?
更には恋愛関係になったとしたら?
もう端的に言おう。
俗に言う乙女ゲームの主人公になったとしたら、普通の女の子なら喜ぶだろうか。
私は今、その状況に陥っている。
正直言って面倒くさいと思う私は、普通の女の子ではないかもしれない。
「ちょっと状況を整理させて」
白い、ただ真っ白な空間が広がる場所で、私は同じく白い服を来た金髪碧眼の少女と向かい合っていた。
見た目13歳の女の子にしては、大人びた表情で彼女は頷いた。
ま、彼女曰く、普通の女の子ではないようだけど。
「あなたは乙女ゲームの世界の神様で、あなたに関わったせいで、私は巻き込まれるはずがなかった電車脱線事故に巻き込まれて死んじゃったのね」
「そうそう。私は別の世界の存在……」
「口挟まないで」
私の言葉に少し不満そうにしながらも、彼女は口を閉じた。
神様にしては、人間らしい反応だ。
「で、私が死んだお詫びとして、あなたの世界で生き返らせてくれる訳ね。私の世界で生き返らせることができないから」
「うん。あくまで、私はこっちの世界の神様だから。向こうの世界の神様に頼み込んだんだよ?元々世界が違う存在、更には神が、人間の生死に関わると大変なことになるんだけど……」
「だから、ややこしいから、口挟まないでってば」
私が言うと、また彼女は黙った。
だけど、もう不満そうではなく、悪びれた様子もない。
これは、また口を挟んでくる気だなと、思った私は手っ取り早く、まとめることにした。
「つまり、私は乙女ゲームの主人公として、生き直すってことね」
「そうそう。あなたがこういうゲームを好きなのは知ってたし。あなたが好きな円城寺君だっているよ」
しれっと神様は言い放った。
「誤解だわ。別に乙女ゲームは小説を読む延長上の行為だし。円城寺君を特別好きな訳じゃない。所詮はゲームキャラよ」
本当はRPGゲームストーリーが良かったけど、ゲームするためのストーリーって感じで、物語性はあまり表に出てこない。
その点、恋愛ゲームはストーリーを読むためのゲームなので、ゲームが苦手な私でも、頑張れる。
飽きると、新しいゲームに手を出し、今では増えてしまったけれど、元々はストーリーを楽しみにしているのだ。
「えー、でも、大体円城寺君のような俺様キャラ?って言うんだよね、そっちの世界では。いつも選んでるよね?」
確かに引っ張っていく人がタイプなのは否定しないけど、俺様キャラが好きな訳ではない。
「ゲームや物語として、俺様キャラは面白いからよく選ぶけど。実際に自分の恋人がそうだとなると面倒くさいでしょ」
「そういうもんなの?」
「そういうもんなの!」
「ふうん、よく分かんない」
首を傾げる様子は少し可愛らしいけど、やっぱり神様だなって思う。
ゲームと現実は違うと分からないのだろうな。
彼女なりに、良いこと教えてあげようと思ったのかもしれないけど。
“円城寺君”ってことは私が前までやってたあのゲームだな。
名前は確か――、何だったっけ?
「まぁ、いいや。とにかくこの世界の主人公として頑張って!選り取り見取りだし」
「待って!このゲームの名前って何だったっけ?」
「何でもいいじゃん。ほら。みんな待ってるよ?」
何故か神様は焦ったように、促した。
「教えてくれないの?」
私の言葉にも答えない。
……なんか怪しい。
まぁ、いいや。
その代わり、私の願いを叶えてもらおう。
「じゃあ、その代わり、私の願いを一つ叶えて」
「いいよ!ただし、元の世界で生き返らせてという願い以外で」
「大丈夫。そんなんじゃなくて。私を主人公じゃなくて、脇役にしてほしいの。誰でもいい」
「えー。でも、名前も体もないキャラには、魂は入らないよ?壊れちゃうから。主人公以外に名前と体がある女の子なんていたかなぁ?」
私の願いも叶えたくなさそうだ。
どうしても、主人公になってほしいらしい。
でも、私には秘策があった。
主人公以外の名前も体もあるちゃんとした女の子キャラを、私は知っているのだ。
私が知っていて、この世界の神様が知らないはずがない。
「いるでしょ。主人公の親友の桜庭亜美というキャラが。彼女なら主人公の親友という設定もある人間だし」
「……でも、主人公がいなくちゃ、ゲームは始まらないし」
「親友だった桜庭亜美を主人公にしちゃえばいいじゃん。私と交換して、彼女が主人公になる。神様なんだから、それくらいの設定を書き換えることくらいできるよね?」
神様の立場を逆手に取った私の提案にあきらめたように、彼女は頷いた。
「仕方ないなぁ。じゃあ桜庭亜美が主人公で、あなたは主人公の親友ね。設定書き換えておくよ」
「やったー!」
私はガッツポーズを出した。
女の子らしくないなんて知らない。
「あっ、名前はどうする?あなたの名前。変えることもできるけど」
「変えない!水原葵のままで!」
「はい。じゃあ、設定完了!行ってらっしゃーい」
神様にずいぶん軽く送り出された。
でも、これで、私の新しい人生が始まるんだな。
よーし!頑張るぞー!