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春のうたかた  作者: 四季
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***最後の猶予

「なあ、春隆。なんで桜だったんだ?」


廊下を歩きながら、清秋は春隆に尋ねた。


「師範がな、最期に見せてくれたんだ。石のおかげか、一度花びらを手妻のように呼び出して見せた事があったんだ」

「なるほどなぁ・・・。それで、きっかけか」

「確信はなかったが。師範が際に見せたのがそれなら、思い出して見たかったものがそれなら、その記憶を作った本人も、また桜で何か思い出すと考えた」

「なるほどなあ・・・・・・」

「あたってよかったよ」


はは、と空笑いする春隆を、清秋は真面目腐った顔で見つめた。


「本当に、それでよかったのか?」

「どういう意味だ、それは」

「そのままだ。お前、あの娘がそのまま居無くなっても構わないんだな?」

「・・・それが彼女の為なら。帰る場所が在るならその方がいい・・・」

「はあ・・・・・・そうかね」


以後無言ですたすたと歩く彼を追いながら、清秋は大きくため息をついた。
















「では、春は、必要な事は思い出したのだな?」


夏が春に向かって尋ねた。


「俺達が山を越えて、無事だった訳も知れたしな」

「師範が北に行った時もそうだ。この山を通れば無事ではいられまい。僕ら三人は、春に助けられていた。まったく、僕が助けている気でいたのに、助けられていたのは僕らの方だ。いくら礼を言っても足りない」



冬が言うところの“かけら”だった二人は、それぞれに記憶を合わせ、春の抜けた記憶を繋ぐのに最大限の協力をした。もう大丈夫だと言う春は、相変わらずぼんやりしたところがあるが、いつ消えるかわからない泡沫のような雰囲気は無くなっていた。


「じゃあ、そろそろいきますか」


秋が立ち上がって伸びをした。


「っと、待ってて。あの花はちょっとまずいなあ。秩序が崩れてしまう」


襖を開いて、秋は一面に咲いた桜を眺めた。


「散らせるか、秋」

「夏がやったほうが得策じゃない?」

「・・・いいや。燃えては困る」

「まだ加減は難しいか。んじゃ、ちょっとやってくるね」

「頼んだ」


すたすたと部屋を出ていく秋を、夏がひらひらと手を振って見送った。


「桜が、何故まずいんだ?少年」

「夏だ。人にものを頼むなら名前をきちんと呼び給え、清秋殿」

「・・・悪かったよ夏さん」

「・・・ふむ。あの花は、春の花だからな」


これでいいだろう、という調子で夏が言葉を区切る。


「春。あなたは前にもやった事が在るみたいだけど・・・・・・」


代わりに冬が口を開いた。


「花は、私達に呼応して咲くのに任せなければならない。不用意に呼んで、人目につくところに咲かせるのは、賢いとは言えないわ」


珍しい冬の責め口調に、春がたじろいだ。


「冬さん、あれは僕が頼んだものだから、あまり責めないでやってくれないか」

「・・・・・・」


冬がじっと春隆を見つめて止まる。


「あーー!!もう!冬はここで美味い菓子でも食っていれば良い!」


その手をひいて、夏が隣に座らせた。


「はい、ただいまー」


程よく秋が戻ってくる。


「すみません、お手数かけて」


春が小さく頭を下げた。


「いいよ、別に。春ちゃんの花はやっぱり綺麗だよねえ」

「流石秋、ずいぶんな贔屓目だ」

「仕方ないって前に言ったでしょ?仕上げに、夏に片手ほど手伝って欲しいんだけど」

「私にか」

「うん。片手を一瞬擬態をとく程度の力を借りたい。花は散らせたけど葉は出せなくて」

「なるほど。あれの葉は私の性分だからな。良いだろう・・・・・・ほら」


にっと笑った夏が片手をひと振りし、改めて春に向き合った。


「気をつけると良い。人間は、妖怪だなんだと言うくせに、異端を見つけては捕らえて切り刻む習性があるそうだからな」

「そうなんですか・・・」


俯きながら、春が春隆の刀を見る。


「む。これは、そんな事のためには使わない。安心するといい」


気が付いた春隆が刀を掲げて誓ってみせた。


「さぁてと。今度こそ、行こうかな。冬、縁は見える?」

秋の質問に、少女は小さく首を振った。


「比較的薄いけど、春が憑いてしまっている」


春隆と春の間に立って、冬が双方を見た。


「しかし、時間がないんだよな。無理矢理切ってしまうか・・・」

「いいや」


秋の言葉を夏が小さく抑止した。


「どうして」


秋には答えず、冬の手をとって夏が言う。


「春、明日の昼までに決めろ。昼に私の使いを送る。逸れまでに来なければ、良くない事を強いねばならなくない。どうだ、それでも良いか。猶予はやろう」

「良くない事とは?」

「父としての夏の権限なのだ。逆らえば、最悪生きてはいられない」


むっとしたように話す夏の頭に、秋が手を置いて付け足した。


「役目を全うしない家族は要らないんです。これでも、夏の優しさなんですよ」

「春、ここを離れれば、次にまたここに来る事があるとも限らない。その場その場で縁を作ってしまう春の性質からか、お前達は同じところを好き好んで目指す事が苦手なようにできているらしい。ここで親しくなった人間に何かしたいのであれば、それを昼までに済ませておけ。良いな」

「あ・・・・・・」


返事は一切聞かず、縁側まで行った夏は次の瞬間姿を消してしまった。いつの間にか、冬の姿もない。


「では、僕も」


そうして秋も居無くなってしまった。静寂が訪れる。春は、困り果てて春隆を見た。

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