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春のうたかた  作者: 四季
33/39

*天青石の数珠

茶を用意した天青は、面々の前にそれを置いて春隆の隣に座った。

目の前には秋と、夏と冬が鎮座している。


「僕は武内春隆といいます。あなた方は、天青とどういう関係が?」


春隆の、静かな声が耳を掠めていく。


「簡単に言えば家族です。ただ、あなたがたの言うものとは若干異なる」


秋が代表して答えた。


「お前は私達を季節だと言ったが、名前からそう言っただけか?

「存在の季節の話をしたつもりだが・・・」

「ほう。なら、何を知っている?」

「何をと言われてもだな・・・」

「夏、そんな喧嘩腰にいかないの。ええと・・・」

「天青は、・・・春はそろそろ去らなければならない。違いますか」

「え・・・」


春隆の言葉に、秋が表情を変える。


「僕の師範があなたがたに会った事があるらしい。詳しい事は知らないが、それなりに理解しているつもりだ。ただし、これにはいろんな記憶がないぞ。僕じゃなくて彼女に説明してやったほうが・・・・・・」

「それで今日きたんですよ。ね、夏」

「うむ。彼女は何らかの理由で記憶がない。そのかけらを探しにな。冬、何かわかるか」

「貴女が何か感知できるのか」


春隆が冬に目を向けた。


「我々四季は、夏が父で冬が母であるのが基本なんです。ほら、母親って、何でもお見通しなものでしょ?」

「・・・悪いが、僕には家族が無いから」

「あー・・・、それは申し訳な」

「あった」


秋の声を遮って、冬が立ち上がった。そのまま天青の前を通りすぎ、春隆の前に立つ。


「あなたが、かけら」

「僕が?」

「そう。あなたは、北から山を越えてこちらに来た。・・・の?」


表情を変えず、淡々と尋ねる冬に、春隆がたじろぐ。


「何故知っている。君は北の使いか?」

「違う。読んでるだけ」

「冬が、春隆さんの周囲にある天青ちゃんの記憶を感じとってるんです。大きな記憶のかけらを探して彼女にはやく戻さないと、面倒な事になる」

「ほう・・・・・・」

「秋。ちょっと出ても良い?」

「周りを探す?」

「うん」

「私も行こう。秋は待っていると良い」


夏も立ち上がって、冬と共に庭へでていった。


「さて、と。じゃあ今のうちに説明をしますか」

「何のだ?」

「春の事を」


秋は姿勢を正して微笑んだ。


春隆は、天青が町で彼らにされた話のほとんどを知っていた。というより、それを伝える唄を知っていた。天青はただ、彼らの会話を黙って端で聞いていた。



「命を呼ぶ声涙を誘い可憐な娘は春のうたかた・・・か。よくできてる」

「あの・・・」

「天青。君が僕らと違う事には気が付いていた。花を呼んだり、髪の色が変わったり。もしかすると、僕は君にとって何か大事な事を知っているかもしれない。ただ、何も教えなかったのは、どうしても不可解な点があったから」

「髪の色とは?」


春隆の言葉に秋が首を傾げる。


「初めに拾った時は、月光で透けると目の色のような、しかし陽の下には白い髪をしていたんだ。ところが、今はこの通り」

「なるほど、白い・・・。となると、やはり母が・・・。天青ちゃん。山に入ったなんて記憶・・・」

「ないです」

「だよねえ。覚えてるわけないよねえ」

「すみません・・・」

「いや、いいんだけど。仮説はたった。春隆さんが、山を越えて来た事も合わせると、だ。前に冬も言ってたし」

「え?」

「彼が山を越えようとして、山に住む冬に見つかった。そこに居合わせた春ちゃんが、彼を護ろうとする。それで母様の逆鱗に触れた。今年は特に力を増大してたから、冬に巻き込まれて春ちゃんは春としての力と記憶を失った、というところか」

「いや、それはおかしい」


秋の推測に、春隆が水を差す。


「僕が来たのは秋の終りがけだ。天青を拾ったのは春先だぞ?」

「うーん、そういう事態に陥った事がないからこれも仮説だけど。僕らは人間より寿命が永くてね。外見もなかなか成長しない。だから、力を回復するにも、やはり時間がかかった・・・ん、じゃ、ないかな・・・・・・」

「秋、正解らしいぞ」

「ん?」


戻ってきたらしい夏と冬が秋に並んで座った。


「春隆さん、やっぱりあなたが、春の記憶を持ってる」


冬が告げた。


「縁かな?でないと、春が危険を冒して冬に襲われるのを防ぐ理由もない。何か心当たりはありますか」

「・・・なくもない。ただ、山越えの記憶なら、僕は瀕死だったからあんまり・・・」

「もっと、前・・・」

「なんだ?」

「今より、もっと前の記憶が、ない?」


冬が静かに尋ねる。春隆は、ちらりと天青を見た。


「少し、外しても良いか」

「そんな暇は・・・」

「ええ、どうぞ。お待ちしています」


夏を遮って秋が答えた。


「天青、良いか」

「はい・・・」


促されるままに立ち上がる。春隆に連れられて、彼女は家の裏に出た。


「君が、四季の春だとは、町で聞いたのかな」

「え?」

「彼らの話は、理解できているのか」

「なんとなく・・・・・・」


困ったように眉を下げる天青に、春隆は続ける。


「天青。・・・いや、春・・・か。僕の師範が、君に会った事があるかもしれない」

「私に?」

「そうだ。だとすると、この家に居たことが、あるのではないかな」

「私が、ここに?」

「そうだよ」


改めて、春は振り返って家を見た。確かに懐かしさは感じた事があるが、やはり何もわからないままだ。答えない春に、春隆はぽつりぽつりと師範と、師範に聞いた話を天青に話し始めた。


「・・・つまり、春望様と私が」


聞いた話は信じられないが、数々の情報と彼女は見事に一致していた。


「今まで言うつもりはなかったんだ。どうしても不可解なところがあったし、昔聞いた話だから、半信半疑だったのもある」

「それなら、どうして・・・」

「さっき、秋という青年が言ってたろう。外見が成長しない、と。師範が会ったのが君というのも、有り得るかもしれないと思ったんだ」


春隆は優しく笑った。


「すまない、僕のせいだな。君にはやく渡せば良かったよ。・・・これを」


差し出された手から、小さな何かを受け取る。


「・・・石?」

「君の目から仮名にしたんだが、天青石と言う。君が師範に遺したものでは、ないのかな」


春は受けとった石を何度か手の上で転がした。しかし、何もわからない事に変わりはない。


「ハルさん、やっぱりわたしでは・・・・・・」


伺うが、春隆は何も答えない。


そのまま立ち尽くす二人の間を何度も強い風が吹き抜けていった。

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