訪問
町に行ってもたいした情報は得られなかった。帰ってきて、なし崩しに天青を昼間は千代に預け、寝起きを共にするという生活が始まって一ヶ月が経っている。もう桜も散って、見事に葉を繁らせて風を受けては揺れていた。
天青も、すっかり生活に慣れた。掃除、洗濯、料理。風呂焚きもお手の物だ。初めがあまりに何もできなかったために、赤子が一ヶ月で歩き回り、言葉を話し出したという程感心する。
「いったい、何だったんだろうなあ・・・」
「え?」
思わず漏れた呟きに、天青が首を傾げた。
「・・・いや。今日も、千代のところに行くのか」
「はい、そのつも・・・・・・?」
「天青?」
言葉を途中できった天青に合わせて、春隆も庭を見た。
「何か・・・。・・・っ?」
『春!!』
突然大きな声がして、塀の上に小さな少年が現れた。
「あ。あなたは・・・」
「久しいな。達者だったか?」
「は、はい。皆さんもご一緒に?」
「うむ。そこにいる」
少年は少し背後に視線を落としてにこやかに頷いた。
「入れてくれるか?」
「あ、えっと、ハルさん・・・」
天青が思い出したように春隆を見る。
「知り合い、なのか」
たしか、町で一緒にいた・・・。
春隆はまじまじと少年を見た。
「あまり見るな。見せ物ではないのだぞ」
「このような辺鄙な場所まで、何用ですか」
「迎えだ。春のな」
「春?」
「あ。ええと、ハルさん・・・」
「ほう。・・・お前、はると言うのか」
塀の上で、少年が面白そうに口元を緩ませた。
「参るな。区別しづらい」
「あ、あの。夏さん、私、天青という名前をいただきました」
天青が慌てて名乗り出る。
「天青・・・?」
「は、はい」
こくこくと頷く天青に並んで、春隆は塀を見上げて告げた。
「いつまでもそこにいないで、入るといい。連れも。二人いるな?」
春隆の言葉に、少年は驚いたように目を見開いた。
「お前、私達がわかるのだな」
そのまま後ろを振り返ると、彼は二、三言葉を交わし、そのまますとんと庭に降り立った。次いで、外にいたらしい二人も玄関から庭へやってくる。
「やはり」
「む?」
「僕らが町に行ったときに茶屋で一緒にいたな?」
「おや。よくご存知で。初めて、僕は秋です。そっちが」
「影冬と夏樹だ」
「え・・・」
少年が少女の分も名乗って胸を張った。
「夏。その口調なのに仮名だから冬が困ってる」
「む?そうか?」
夏の言葉に、冬と呼ばれた少女がこくこくと頷く。
「すまない。なら夏と冬、で良い」
「それで、天青が、春。か。秋に、夏に、冬・・・・・・季節だな。やはり・・・」
「お前、何か知っているのか」
ぶつぶつとつぶやく春隆に、夏が怪訝そうな目を向けた。
「合っているならば、少し、な。・・・上がりなさい。茶くらいはだそう」
「あ、ハルさん、私もっ」
慌てて天青が後を追う。
「お菓子があるんです、待っていてくださいね」
そう言い置いて二人は縁側から姿を消した。




