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春のうたかた  作者: 四季
29/39

**伝承、都々逸




天青が出かけて二刻が過ぎた。既に諸用は済ませ、後は茶を飲んで待つばかりである。


「しかし、まったく珍しいものだよなあ」

「なにがだ」

「お前がだよ」

「師範に拾われたお前が、誰かを拾って世話してるのが面白くてな」

「はじめは警戒したぞ。まだ北の氏が僕の事を殺そうとしているのかと」

「さっき、死にかけのを拾ったと言ったではないか」

「ふりかもしれない。そのわりに、起きてからはすぐに動けたのが怪しくてならなかった」

「ほう」

「・・・だがな。そんな警戒も直ぐに消えうせたよ」

「それはまた何故」

「こう言っては悪いが。・・・無能すぎる」

「は?」

「いや、観察方としてはという意味だ。あれには何もできんと判断した」


清秋はぼんやりと春隆を眺めた。


「なるほどなあ。それで?今度は情がうつったか」

「だから、それは何の話だ」

「あの子、佐奈に似てるなあ」

「なっ・・・」


焦ったような春隆に、清秋はにやりと笑って続けた。佐奈とは、いわずもがな春隆の修行時代のの想い人である。


「お前の好い人、か」

「だから違っ」

「まあまあ。お前は感情に疎いからなあ。師範にも頼まれたんだ」

「・・・師範に?」

「そうだ。天青石の数珠、持ってるんだろう。名前にしてるくらいだからな」

「・・・ああ」

「聞いて直ぐにわかったさ。先生ははじめ、諸国で人を探していたんだったな」

「・・・やはり、覚えていたか」


春隆は静かに笑って清秋を見た。修業時代、幾度も師範に 聞かされた話がある。まだ幼かった二人は、喜んで聞き入っていたものだ清秋も覚えていたなら、春隆の今日一番の目的は、師範の話の記憶をつなぎ合わせることだった。


「あれがあればすぐにその人とわかるんだと、言っていなかったか。氷蔵なら会える気がすると、嬉しそうに言っていた」

「・・・あの娘がそうだというのか」

「目の色からして、そうとしか思えない」

「確かにな。最初はそうも思ったさ。あの色は、この国にはないから」

「じゃあ何故」

「どうしても合わない特徴がある・・・」

「ん?」

「師範の話では、そう歳の違わない娘さんだったという事だ」

「それの何がいけない?」

「先生がまだ幼かった頃の話だから、あの娘であるなら、もっと歳を とっていないとつじつまが合わない」

「・・・たしかに。だが・・・・」

「ヒトにはできんことをしでかすのが天青だからな」

「さっき聞いた話では、少なくとも普通とは思えなかったな」

「だろう?」


花さかじいさんの桜のようだと清秋は笑った。それなら彼女は鶴というところだろうか。


「あやかしの存在は師範からさんざん聞かされていたし。驚きは少ないなあ」

「師範は、季節にあった!などと言っていたからな」

「師範のことを何も知らなければ、ただの頭のオカシイ人だった」

「はは、間違いない」


師を思い出して笑う。


「あれでも賢者だったんだ」


暫く静寂を楽しんだ後、二人は真面目な顔になって向き合った。


「なあ春隆」

「何だ」

「先生の季節の話が、本当だったならば」

「ん?」

「あの娘は、どこかへ行かなければならないはずだな」

「・・・・そうだ。そして、その時も近いのかもしれない」

「あの伝承通りならば、な」

「弾くか?」


清秋は壁際の楽器を掲げて春隆に差し出した。


「・・・たまには、悪くない」


弦を合わせ、静かな夕暮れにべんべんと三弦を響かせる。静かな声は、もっと静かな夕暮れの空に小さく吸い込まれていった。





家族を見守り

旅する夏の

そこのしれない

あたたかさ


赤き野山に

終わりを告げて

父の背中を

秋は追う


冷たい中にも

優しさ含む

冬を溶かすに

春を呼べ


命を呼ぶ声

涙を誘い

可憐な娘は

春のうたかた

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