**伝承、都々逸
天青が出かけて二刻が過ぎた。既に諸用は済ませ、後は茶を飲んで待つばかりである。
「しかし、まったく珍しいものだよなあ」
「なにがだ」
「お前がだよ」
「師範に拾われたお前が、誰かを拾って世話してるのが面白くてな」
「はじめは警戒したぞ。まだ北の氏が僕の事を殺そうとしているのかと」
「さっき、死にかけのを拾ったと言ったではないか」
「ふりかもしれない。そのわりに、起きてからはすぐに動けたのが怪しくてならなかった」
「ほう」
「・・・だがな。そんな警戒も直ぐに消えうせたよ」
「それはまた何故」
「こう言っては悪いが。・・・無能すぎる」
「は?」
「いや、観察方としてはという意味だ。あれには何もできんと判断した」
清秋はぼんやりと春隆を眺めた。
「なるほどなあ。それで?今度は情がうつったか」
「だから、それは何の話だ」
「あの子、佐奈に似てるなあ」
「なっ・・・」
焦ったような春隆に、清秋はにやりと笑って続けた。佐奈とは、いわずもがな春隆の修行時代のの想い人である。
「お前の好い人、か」
「だから違っ」
「まあまあ。お前は感情に疎いからなあ。師範にも頼まれたんだ」
「・・・師範に?」
「そうだ。天青石の数珠、持ってるんだろう。名前にしてるくらいだからな」
「・・・ああ」
「聞いて直ぐにわかったさ。先生ははじめ、諸国で人を探していたんだったな」
「・・・やはり、覚えていたか」
春隆は静かに笑って清秋を見た。修業時代、幾度も師範に 聞かされた話がある。まだ幼かった二人は、喜んで聞き入っていたものだ清秋も覚えていたなら、春隆の今日一番の目的は、師範の話の記憶をつなぎ合わせることだった。
「あれがあればすぐにその人とわかるんだと、言っていなかったか。氷蔵なら会える気がすると、嬉しそうに言っていた」
「・・・あの娘がそうだというのか」
「目の色からして、そうとしか思えない」
「確かにな。最初はそうも思ったさ。あの色は、この国にはないから」
「じゃあ何故」
「どうしても合わない特徴がある・・・」
「ん?」
「師範の話では、そう歳の違わない娘さんだったという事だ」
「それの何がいけない?」
「先生がまだ幼かった頃の話だから、あの娘であるなら、もっと歳を とっていないとつじつまが合わない」
「・・・たしかに。だが・・・・」
「ヒトにはできんことをしでかすのが天青だからな」
「さっき聞いた話では、少なくとも普通とは思えなかったな」
「だろう?」
花さかじいさんの桜のようだと清秋は笑った。それなら彼女は鶴というところだろうか。
「あやかしの存在は師範からさんざん聞かされていたし。驚きは少ないなあ」
「師範は、季節にあった!などと言っていたからな」
「師範のことを何も知らなければ、ただの頭のオカシイ人だった」
「はは、間違いない」
師を思い出して笑う。
「あれでも賢者だったんだ」
暫く静寂を楽しんだ後、二人は真面目な顔になって向き合った。
「なあ春隆」
「何だ」
「先生の季節の話が、本当だったならば」
「ん?」
「あの娘は、どこかへ行かなければならないはずだな」
「・・・・そうだ。そして、その時も近いのかもしれない」
「あの伝承通りならば、な」
「弾くか?」
清秋は壁際の楽器を掲げて春隆に差し出した。
「・・・たまには、悪くない」
弦を合わせ、静かな夕暮れにべんべんと三弦を響かせる。静かな声は、もっと静かな夕暮れの空に小さく吸い込まれていった。
家族を見守り
旅する夏の
そこのしれない
あたたかさ
赤き野山に
終わりを告げて
父の背中を
秋は追う
冷たい中にも
優しさ含む
冬を溶かすに
春を呼べ
命を呼ぶ声
涙を誘い
可憐な娘は
春のうたかた




