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春のうたかた  作者: 四季
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旧友

部屋に上がった清秋は、満足に動かぬ右手を左で支えてついて、天青に深く頭を下げた。


「あの時は貴女に助けられた。礼を言う」

「え・・・?」

「山で、得体のしれない女に襲われそうになったところを、逃がしてくれたんだ」


清秋が俯き気味に言葉を繋ぐ。話の筋が読めず、春隆は口を挟んだ。


「・・・得体のしれない女、とは?」

「知らん。得体が知れぬと言っているだろうが」

「いや、特徴だとか」

「・・・雪女のような印象だったぞ。貴女がハハと呼んでいた気がするが・・・」

「母?」

「山・・・・・・お母様・・・・・・。あ・・・」

「しかし、歳は同じくらいに見えたからな。聞き間違いかもしれん」


天青の呟きも聞こえていないようで、清秋が一人合点して頷いた。


「それを山で見たと?」

「そうだ。直感で言う、あれは人間じゃないぞ。空から現れたからな」

「それは・・・」

「そこにきたのがこの娘さんだ。もう幻とは言わせん」

「・・・それは、本当に天青だったのか?この?」

「間違いない。なんといっても目が珍しい色をしているし、美しく長い黒髪もそのままだ」

「!!」


黒髪、という言葉を春隆は意識した。


「黒髪、か」

「ん?」

「いや、なんでもない」


別人か、銀白の天青が間違いだったのか。・・・もし、黒髪の天青が本当の姿なら。何か、何が足りなくてあのような姿をしていたのか考えなくてはならない。


これでは、あやかしである事が前提のようだが。


春隆は小さく苦笑した。


しかし、それが、彼女の記憶に繋がるなら・・・・・・帰る家があるのなら、帰してやった方が良いに決まっている。


「天青、母というのは、どういう事か覚えているか」

「いえ・・・。山にいる感じはしたのですけど」

「山?あの時何かわかっていたのか?」

「近付くと危ない・・・気がしました」

「・・・ふむ」


霞山の名の所以を肌で感じ取った程度か。


「わからんなあ・・・」


春隆は音をあげて姿勢を崩した。


「・・・すみません、ご迷惑をおかけして・・・」


春隆の様子に天青がしゅんとうなだれる。


「謝ることはない。拾ったのは僕だ。其以上、面倒は見る」

「格好つけてらあ」

「煩い。時に清秋、人手を借りても良いか」

「ん?」

「天青に必要なものを揃えておかないと、預かるに預かれない。着物など見繕いたいのだが」

「それならハツと行けばいい。天青さん、向こうへ行って用向きを言いなさい」

「は、はいっ」


慌てたように立ち上がる天青の袖を引き、春隆は彼女に小判を2つ握らせた。


「これを使いなさい。余った分は持っているといい」

「あ・・・ありがとう、ございます。行ってきますっ」

「ああ」


今度こそパタパタと走り去る背中を見送って、春隆は清秋に向き直った。


「えらく可愛らしい娘さんだな。お前の客とは、まったく信じられん」


からからと笑う旧友に、呆れた目を向ける。


「妻のある身で何をいう」

「構わんさ。俺が欲しいわけじゃないからな。お前の気に入りなんだろう?」

「気にっ・・・」

「違うのか?」


見透かしたような目を向けられ、春隆は思わず視線を庭へ逃がした。


「親に捨てられ、俺に刀を向けられて、春望師範にしか心を開かなかったお前がかいがいしく世話をやいている。名前もな。天青とは、師範が大事にしていた数珠の石だろう。充分特別であると考えられるが?」


刀を持てなくなった時に平助は己の誤りに気が付き、直ぐさま改心していた。その様から清という字を用い、互いに支え合うよう、彼に春と対象の秋という名を与えて橘が匿っているのだ。

既に旧友の平助たる清秋に戻っている彼を春隆が苦手とするのは、この辺りの感情に機敏なところにあった。


「・・・親しい人ならこの国には沢山いる。父のような橘様に、半次郎や村の人達も、僕には等しくすべてが大事な人だ」

「・・・・・・師範に似て、石頭は相変わらずだな」


呆れつつも、あたたかみを含む清秋のため息に、春隆はふっと笑って空を見上げた。





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