手がかり
「ハツさん、居るかな」
町に着いた春隆は、城近くの屋敷の1つへ向かった。ここに冬から面倒をみている患者がいる。
「春隆先生っ。また起こしいただいたんですね。ありがとうございます」
土間で三つ指をつき、頭を下げる彼女は『氷蔵』の知己である。春隆は軽く会釈して尋ねた。
「あいつは」
「はい。先程から庭で書を読んでおります」
「行く。案内してくれるか」
「はい」
質素な着物に包まれた背中を追う。
「あ、あの」
黙って立っていた天青が唐突に声をあげ、春隆は静かに振り向いた。
「ちょっとだけ付き合ってくれるか」
「それは・・・ええ。どなたか、お会いになるんですか?」
「そう。僕の古い友人だ」
「お友達なら、楽しい用事のはずでしょう?・・・・・・でも、ハルさんあんまり嬉しくなさそうです。本当に仲の良いお友達なんですか?」
不思議そうに呟く天青の頭に手を置いて春隆は小さく笑った。
「・・・かつて、殺されかけた。それだけだ。行こう」
「こ、ころっ・・・」
驚く天青を置いてあるきだす。
「まったく、妙なカンは良いのだから・・・」
「え?」
「なんでもない。行くぞ」
「は、はいっ」
パタパタとついてくる足音は振り返らずに、春隆はハツを追って歩いた。
「清秋さん、春隆先生が」
襖を開け、膝をついてハツが庭に声をかける。
「またあいつか!追い返せっ!!顔も見たくない!」
庭の石を蹴散らして叫ぶ様子に、春隆はハツの背から出て庭を覗いた。
「そう騒ぐな。来てしまったものは仕方ないだろう。・・・腕はどうだ、平助」
「腕はどうだ、だと!斬っておいてよく言うっ!」
「殺されるわけにはいかなかったんだ。仕方ないだろう。あれは僕に剣を向けたお前が悪い」
やれやれ、と縁側に腰を下ろして座る。
「・・・傷はもう塞がった」
「もう半年だ。そうだろうな」
「だったら!何をしにきたっ!!」
「様子を見に来ただけだ」
「様子も何も。橘様に保護されたという呈だがようは監視下にある暮らしだ。あちらさんから聞いているんだろう」
「いいや、橘様とお前の話をしたことはない。あの方に感謝は、しているんだろう?」
「・・・ふん」
ふいと顔を逸らす平助改め清秋の耳は少し赤くなっている。春隆はくすと笑って懐から一冊の本を取り出した。
「借りていたのを忘れていたから返しておこうと思ってな」
「そうならそうと早く言え。そこに置いておけばいい」
「・・・仕事は続いているのか」
「お前に使い物にならなくされた腕がついた身体でもできる仕事だからな」
春隆は憎まれ口を叩く旧友を眉根を潜めて見上げた。
「まだ言うか。死ぬのとどっちがよかったんだ?」
「俺は負けなかった!あの時は変なまやかしに捕われて余裕がなかっただけだっ」
「よく言う。だいたい、そんなものが本当に・・・」
「春隆先生」
軽く口論になったところに、ハツが戻ってきて声をあげる。
「お嬢様もこちらまでお連れしますか?」
「お嬢様?」
「すまない、呼んでくれるか」
「わかりました」
妻の言葉に清秋は興味深げに口元を歪ませた。
「おれのせいで他人と関わらなくなった春隆先生が、女連れか?ええ?」
「天青、ここへ」
友を目で黙らせて彼女を手招きする。
「山で拾っ・・・
「!!」
春隆が口を開く前に清秋が言葉にならぬ声を発した。
「お前、は、あの時の山でっ・・・」
「ハルさん、この方が?」
先に告げた言葉に警戒したのか、天青は春隆の背に隠れるようにして清秋を見た。
「天青、知り合いか?」
「・・・わかりません・・・」
首を傾げる彼女と清秋を見比べ、春隆はぽんと膝を叩いた。
「清秋、わけあってこの子は山の麓に倒れていた。大変な目にあったのか、細かい記憶が何もない。もし何か知っているなら、聞かせてはくれないか」
「・・・」
清秋は恐れたような目で天青を見ていたが、意を決したような表情をし、大きく息をついて部屋の奥に呼び掛けた。
「ハツ、茶の用意をしてくれ。少し長話をする」




