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春のうたかた  作者: 四季
22/39

**記憶:捌

自然流とははその名の通り、自然界の総て流れを読み、動く剣である。微かな音を拾い、風を感じ、気の流れを知りつくして最低限の動きでもってして虚をつく。故に努力だけで誰でも習得できるわけではない。耳の良さ、目の良さ、つまり五感の鋭さが物を言う。だからこそ、春望は二人も習得できた弟子ができた事をとても喜んだのだ。

平助も、免許皆伝と告げられた時は今までにないほど明るい表情をしてはしゃいでいた。


『こりゃあ自慢できるなあ、氷蔵!俺達はただ剣が使えるんじゃない。幻と言われた自然流だぞってな!』

対して氷蔵は何時も通り、拾われてからは日課になった稽古に励んでいた。


『平助は自慢したいけぇ?』

『当たり前だ。格好いいじゃないか』

『そうがなあ・・・』


平助の感情が理解できず、呆けた顔をした氷蔵と、平助の頭に手を乗せて春望が遮った。


『平助くん。剣は自惚れれば錆びれます。免許皆伝ではあるが、君は自身の力の強さに頼りすぎるところがあるからね。これからも鍛練は続けなくては。まずは下の子達の稽古を頼みますよ』

『師範。はいっ』


すぐに駆け出す平助を追い、氷蔵も片足を踏み出す。


『・・・っと』


その袖を、師範が掴んで引き止めた。


『君には、もうひとつ話があるんだ』

『師範?何ですか』






幾度も切り結びながら、互いの身体に傷の一つもないまま三刻程が過ぎた。


『・・・なあ平助、師範の教えを忘れたぁけ』

『なんだって?』

『殺すな、だろうが。殺さずの自然流だ・・・流れを止めてはならないちや言うて、命は斬らないと誓って教えを請うたろう。こんな事する為の刀じゃないんだ』

『はは、そんなものを真に受けてるのか』

『!・・・なんだと』

『そんな幻想を持って刀を手にしたのか?それは刃物だ。奪い、壊す以外にどう使うんだよ』

『平助、お前』

『氷蔵は優秀だったものなあ!学問も剣術も!俺もそれくらいできたら・・・・・・。だからこそ、だ』

『?』

『お前と、真剣で打ち合ってみたかった!この刃をお前の血で染め上げたい。お前に、勝ってみたい!その屍の上に・・・』

『っ平助!』

『!・・・なんだ氷蔵』

『刀を何に使うと言ったな』

『なんだ?』

春隆はいぶかしげに顔をしかめる平助を見て笑った。






『いいかい、氷蔵。平助君は優秀だ。足りないところがある分きちんと努力もする』

『そういうヤツですけぇ』

『そうだね。でも君は違う。素晴らしい才能がある。普通の人が努力でしか得られないものを沢山持っている。神様の気に入りではないかと思うほどにね』

『親にも見捨てられたのに?』

『それは関係ないんだよ。君は素晴らしい』

『・・・ありがとうございます』

『ただね、平助君のような子は、君が少し疎ましいかもしれないよ』

『疎ましい?何故?』

『彼がした努力を君がしていない、彼の苦悩を君は解りえない。その才能に嫉妬していると思う』

『嫉妬・・・』

『それが故に自己顕示したがる節がある』

『・・・あ』

『ね?それで、だ。もしかしたら、気が付かずに道を踏み外すかもしれない。そうした時には、優しく正しい方を示してあげなさい。間に合わなかったら・・・』


一度言葉を切った師範を、氷蔵は固唾を呑んで待った。


『斬り合わなくてはならない時がくるかもしれない』

『え・・・』

『自然流はこの世の自然な流れを止めたりしない。よって、命にも触れないと話したね』

『はい』

『それが、破られた事はない。ただし、例外はある』

『例外ですが』

『道を踏み外した弟子を斬った師範もいる、私欲に溺れた師範を斬った弟子もいる。しかし過去に死人は出ていない。これが自然流だよ。元もと人を斬る刀じゃない。もっと大きな、形のない何かを守る為に出来た剣なんだそうだよ、これは』

『へえ・・・』




師範の言葉をなぞりながら平助の荒い刀を受け流す。細身で太刀筋は軽いが素早い氷蔵に対し、体の大きな平助の剣は遅いが重たい。



『自然流は殺さずの剣・・・斬るものに形はない、だったか・・・・』

『何をぶつぶつ言っている』

『いや、師範の言葉の意味を考えていただけだ』

『っ!余裕ばっかり見せやがってっ・・・!!』


激昂した平助の剣が氷蔵の頬を掠めた。微かに血の匂いが空気を染める。


『へ、疲れたのか?氷蔵。掠ったぞ』


そう言う平助の足元を薙ぎ払う。


『・・・っ』

『平助もな。キレが無くなってきた』

『・・・要は勝てば!些細な傷などっ・・・』

『平助』

『なんだ!!』

『・・・・・・教えてやる。守る為に使う術がある事を』

『!っ・・・いい目だ、こいっ!!』


力を振り絞って立ち向かう平助を前に、春隆は全身の力を抜いた。平助の動きを見極める。


ここか。


何の音も聞こえない。止まったように見える景色の一点に、春隆はそっと剣先を置いて待った。


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