*記憶:壱
頭蓋骨に響くように鼓動だけが聞こえている。とうに足の感覚は無くなった。血を失った身体は刻一刻と冷えてゆく。
『見つかったか?』
ふいに聞こえた声に、びくりとした。
『居ません』
『逃げ足の速いやつめ・・・。おい、無事なのは何人だ』
『ひい、ふう・・・・・・5人か。これだけ残ったら上々でしょう、平助様』
『今、奴は瀕死だ。そう遠くへは行けまい。このまま仕留めるぞ。犬も使え!血の臭いを追わせるんだ。急げっ』
『応!』
バタバタと足音が過ぎ去って行く。氷蔵はその音が去ってからゆっくり月光の下に出た。
『何故だ・・・・・・平助・・・・・・』
指令を出していた声の主を思う。久しぶりに会えたと思った同流と命の取り合いをせねばならぬなど、氷蔵は考えてもみなかった。
『あれを・・・・・・僕の、ために・・・人殺しの刀にしては、いけない・・・!逃げ、なくては・・・』
山を、越えよう。
丑の刻になって思い付いた氷蔵は、重い足を引きずりながら川辺を上りはじめた。向こうならこの辺りと、治める主が違う。私欲に溺れて殺し合いを命じるような人間はいないはずだ。
何より、同流を斬らずに済む。この時期の山越えは厳しい。対した用意もなかったが、これ以外に方法はないのだ。
『南、へ・・・』
冷たい川へ身を投じ、氷蔵は感覚のない身体を無理矢理動かして山を登りはじめた。




