**異変
着物を籠に入れ、木桶を持って湯気の中へ紛れる。これだけなのに教える事がたくさんあるなんて・・・。
「ふう」
ようやく湯に浸かって、千代は小さくため息をついた。天青は本当に何も知らない。ただ、覚えるのもとてもはやく、今日1日で一通り生活できるくらいにはなっている。風呂についてもだいたい教えた。あとは。
「着物の着付け方、教えなぁ」
さっきまで天青が着ていた帯は、春隆が組んだ物だったらしい。
(珍しい事もあるしょう・・・。先生が誰かとおるのも珍しいのに、こんなに綺麗な女の人。しかも甲斐甲斐しく世話までしてんなんてなあ)
「天姉やんは何者やろか・・・?」
鼻の下まで湯に埋めて出した声に応えるものはない。
千代はぼんやりとしている天青に背後から忍び寄った。
「ひゃあっ」
外気で冷やされた、濡れた手ぬぐいを肩に載せてやる。
「び、びっくりしました・・・。千代ちゃん?」
「天姉やんは綺麗な髪をしょるねえ。肌も綺麗やろ。何より目が綺麗しな。川の淵みたいな、空の青みたいなええ色さぁね」
「千代ちゃんも、とっても可愛らしいですよ」
千代が天青の長い髪をやわやわと触っていると、天青も手を伸ばして千代の頭を撫でた。
「あたしは珍しい色やないしょ。天姉やんのは雪みたいな白い髪に青い目や。姉さは異国の人さ?」
「いこく、ですか」
「うん」
いこく・・・と呟きながら天青は首を傾けている。
聞いてはみたものの、千代だって異国の人間がどのような容姿をしているかは知らないのである。天青の様子を見て、彼女も理解していないと悟ると、千代は苦笑しながら手を振った。
「ええ、ええ。何だって構へん。天姉やんは天姉やんや」
「はい・・・」
「じゃ、名前は、目からついたんかな」
「あ。それは、ハルさんが、そういう石と同じ色だからってくれた名前なんです」
「先生が?ほいたらいい名前なんやろな。先生は物知りやから」
「はいっ」
にっこり笑う天青に水をかけ、暫くじゃれついてから、千代は言った。
「さっ、そろそろあがろか、天姉やん」
立ち上がって伸びをする。そのまま数歩進んだところで背後から不自然な水音がした。
「は・・・」
「姉やん!?」
ざばっと水を掻き分けて側に寄る。
「あつ・・・」
「のぼせたか、天姉やん」
端に座り込んでいる天青の顔を覗き込んだ。
「やっぱのぼせ・・・・・・っ!?」
慌てて肩に伸ばした手にかかった髪を見て、千代は目を見張った。
「これ・・・なに・・・・・・」




