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春のうたかた  作者: 四季
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春は、来るもの

川で洗濯を手伝った天青は、大量に濡れた布の入った籠を持って千代と湯屋の屋根に上っていた。


「あ。やってる、やってる」


千代がの視線を追うと、川の下の方で何やら十数名の人影が打ち合っているようだった。


「あれは・・・」

「春隆先生の学舎の子達。今日は打ち込み稽古なんやね」


どうやら小さな影が代わる代わる春隆に切り掛かっているのだが、春隆は余分な動作を一切見せずに総てを受け流してしまう。


「すごい・・・」

「天青さは先生のお客様なのに知らなかや?」

「はい・・・」

「あの子らが弱いわけじゃないんよ。先生が強すぎるだけ・・・ほら、あそこの大きいの」


千代の指先を確認する。春隆を除いて、中では大きい方と思われる少年が、春隆との間合いを徐々に縮めていた。


「慎太郎さ言うんやけど、ここらじゃあ1番強い。あれが先生の前じゃ形無しやて」


千代が言い終わると同時に慎太郎の影が動いて勢い良く踏み込んで行く。


カラン


と、音が聞こえた気がした。


「あーあ。慎太郎さ、また負けた」

「ハルさん・・・」


背丈はあるけれど細身のあの身体のどこにあんな強さがあるのだろうと天青は不思議に思った。今日行った桜は家からはなかなか遠い。痩せ型とはいえ人一人、消して軽くはない天青を家まで運び、介抱までしてくれたのだ。

いつまでも何も知らないから、と迷惑ばかりかけてはいられないと思い知る。


春隆の、役に立ちたい。


「頑張らなくちゃ」

「天青さ?」

「さあ、お洗濯を干しましょうっ千代先生!」

「・・・先生なんてよしてや。お千代とか、千代ちゃとでも呼んでくなしょ」

「・・・千代ちゃん」

「あたしは天姉やんって呼んでも?」

「ええ、どうぞ」


にっこりと笑って天青は小首を傾げた。それを見た千代の頬がさっと染まる。


「さ、さあ、干すよ。紐を張らなきゃ。そっち持って」

「はいっ」


指示されたように紐を張りながら、天青はもう一度川下を見遣ってみた。雪解けの澄んだ水はどこまでも蒼く広がっている。次の瞬間、その水面が大きく揺らぐのが見えた。


「わっ」

「きゃっ」


強い風が二人の間を駆け抜ける。


「・・・すごい風」


千代が乱れた髪を直しながら、嬉しそうに呟いた。


「春一番やあ。春が来てるんだねぇ」

「春・・・が」


消え入るような声音で呟いた天青を千代が振り返って見る。


「天姉やん、大丈夫やったか?」

「は、はい。大丈夫です。千代ちゃんもご無事でよかった」

「よかった。じゃ、はやく干しちゃおう。この風なら今日は早う乾くか。こっち来て」

「はいっ」



籠を持ち直して千代を追いながら、この後一日、天青は千代の『春が来てる』という表現を気にかける事になるのだった。





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