表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春のうたかた  作者: 四季
10/39

着物と稽古の音色

預けられた天青は、千代に連れられて家の裏の川にきていた。


「その着物」

「え?」


突如話しかけられて、天青は勢いよく顔をあげた。


「昨日先生が買っていったんだよ。目の色と同じ帯なんやね。よく似合うてる」

「あ、ありがとうございます・・・」



先刻春隆が言っていた事を思い出して顔を綻ばせる。



「今日は、よろしくお願いしますねっ」

「うん。さてと。まずは、洗濯かな」

「せんたく、ですか」

「ウチは布が洗濯に沢山出るからね!ほら、行こう」


にかっと笑って千代が走り出す。天青はパタパタと裾をはためかせながら、慌ててその背中を追って走った。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







春隆は縁側に竹刀と木刀を用意して並べていた。真剣は使わない予定だが、万が一の為に差したままだ。


「せんせぇっ!!」


勝手口から響いた声に軽く応答し、結局総ての刀を持って表へ出た。


「せんせぇ、おらんか!」

「煩いな、僕ならここだ」

「先生おったぞっ。りゃあ!」


出会い頭に悪戯を仕掛ける子供に片足で地面を拝ませてやる。


「僕に勝とうなんて生意気な。・・・ふっ」

「くそぉ・・・」



悔しそうな少年の手をとり、立たせてから春隆は来た子供の数を数えた。


「今日は打ち込み稽古をしよう。皆竹刀は持ってるか?」

「あるぞ、先生!」

「あります、だ吉之助。・・・よし、みんなあるな。じゃあ川の方へ行こうか」


春隆の家を少し離れたところに川があり、川辺には小さな石が集まってできた瀬がある。上流は半次郎の構える風呂屋だ。建物が見えるくらいの距離のところに陣を敷くと、竹刀だけ持って子供達を集めた。


「まずは素振り、五百回だ。最後に打ち込みをやるから手を抜いたら痛い目を見るぞ。慎太郎、数えられるな?」


春隆の“学舎”には齢五つから十六程の子供達が来ているが、中でも年長の男子を指名して見遣った。


「はい先生。みんな、間を空けて並んで」


名指された少年は一礼して仲間に指示を出した。


「先生、始めますか?」

「頼む」

「はい。・・・構え!イチ!」

『エイ!』

「ニ!」

『エイ!』

「サン!」



まだ小高い声が響く様を端から見て全員の動きを確認する。


「百!」

『エイッ!』


「吉之助、脇が甘いぞ。一蔵は踏み込みが甘い」


五回目の「百!」が聞こえたところでひとりひとりに細かい指示を出す。


「慎太郎は動けていたな。良く鍛練しているから今後も精進するように」

「はい」

「では、少し休憩しようか。めいめい休め」

『ハイ、ありがとうございました!』

子供達は一斉に一礼してから姿勢を崩した。川へ飛び込む者もいる。


「川は浅瀬だけにしろよ。あの岩を越えたら刀に物言わせてやる」


一応の注意を出してから、春隆は小ぶりの岩の上に座った。


「先生」


聞こえた声に、視線を落とした。


「慎太郎。どうした?」

「いえ・・・・・・今日は女性を連れていると聞いたものですから、放っておいて良いのかと思いまして」


その内容に春隆は思わず顔をしかめた。もう話が回っているとは、小さな村は恐ろしい。


「千代だな?」

「・・・はい」


大方、半次郎が猪を持ち帰る為に人集めをし、軽く口走ったのだろう。半次郎の娘である千代だって噂を知らないはずはなく、その千代と慎太郎が良い雰囲気で並んで歩いているのは、春隆も何度か見かけた事がある。話が回るのも時間の問題だろうとは考えられるものの、やはり早すぎる。


「おれも知ってるぞ!」


苦笑いを浮かべていると、後ろから岩をよじ登りながらやってきた吉之助が叫んだ。


「先生のイロじゃあて噂じゃあ」

「・・・おい吉之助、そんな言葉何処で覚えた」

「父ちゃん達が言うてたんだ!で?いろってどういう意味だ?」


純粋に質問している吉之助を見て春隆は深くためいきをついた。


「吉之助くん、それはあんまり良い言葉じゃないから知らなくていいよ」


春隆の様子を悟った慎太郎が横から助け舟を出す。


「じゃあ、慎太兄ちゃんにはいるもんか?」

「・・・いない、かな」

「なら、慎太兄ちゃんよりでかくなったら覚えるぞ!いろ!」

「わかったわかった、そんなに大きい声で何回も言わない」

「はーい」


春隆は上手い事丸めた慎太郎を見て下を巻いた。


「上手いものだな」

「慣れてますから」

「そうか。・・・それで、その彼女だが、今は千代のところに預けてある」

「千代に?」

「歳の割と近い娘さんなら話しやすいかと思ってね」

「なるほど」

「先生が好きなら、きっと可愛い姉さなんやろうな!」

「こら、馬鹿吉め。誰が誰を好きだって?おい、全員素振り百回追加!!」


春隆は吉之助を岩から落とし、竹刀を振り回して叫んだ。


「ええっ!?」


方々から一斉に非難の声があがる。


「・・・更に百足すぞ」

「遠慮します!」


慎太郎が慌てて竹刀を握る。


「ほらみんな、並んで!」

「はい!」


ただならぬ慎太郎の様子に、子供達が直ぐに竹刀を構えなおす。


「はは。今の動きに免じて後は打ち込みにしてやろう。二人一組になって」

「はいっ」

「いいか、狙っていいのは肩から下だけだ。一本取れたらこっち、負けたら向こう。集まった中でまた組んで続けなさい。はじめ!」

「はいっ!よろしくお願いしますっ!!」


竹刀を構えた子供達の元気な声が響く。

その日川辺は、夕刻までカンカンと竹刀を打ち合う音が途絶える事はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ