始まりはいつも雨
始まりはいつも雨
雨は嫌いだ、なぜなら雨は家族を連れて行ってしまったからだ。
両親が出かけると言ったので、兄にも聞いてみたところ一緒に行くといったので僕も付いて行った。
車には指定位置がある。
父は運転席・母は助手席・兄は右奥の席・僕は左の手前の席。
今日もそれは変わらない。
いつもの定位置に着き、何処につれて行ってくれるのかと浮かれているだけだった。
「ねえパパ、何処行くの?」
僕は、気になっていたことをついに聞いた。
「ほら、ずっと見たがってたアニメの映画あっただろ。今日はそれを見に行こうってなってな。チケットももうとったんだ。」
僕はそれを聞いて嬉しくなり、いつも出かける時より浮かれていた;。
だが突然、晴れていた空は曇りだした。
ポツポツと弱い雨粒が、空から降り始め急に母が言った。
「今日晴れるって言ったから、洗濯物干してきちゃったのよね。」
「何で、出る前に取り込まなかったんだまったく。」
「しょうがないじゃない、晴れてたんですもの。」
両親は、言い合いの結果まだ映画にも時間があるため、一旦戻ることにした。
僕はこのとき、どうせ濡れてるんだから戻らなければいいのにと思っていた。
この時もし、この言葉を言っていたら、今とは違う未来があったかもと
ときどき思ってしまう。
だが、今となってはもう遅い事だ。
洗濯物を取り込んだら、また車に乗って映画館へ向かい始めた。
僕は、遅れてみれなくなるのではとそわそわする気持ちだった。
しかし、兄は僕とは逆で、どうでも良さそうにあくびを一つして、音楽を聴き始めた。
「ねえ、渋滞してるけど間に合うの。」
僕は、少しイライラしながら質問した。
「大丈夫さ、あと2時間もあるんだよ。映画は逃げたりしないさ。」
父は、そう言ってイライラする僕を宥めた。
だが、父の言葉とは裏腹に道は混むばかりで、一向に進まない。
僕は、兄にもイライラをぶつけてしまった。
「ねえ兄ちゃんは、見たくないの!遅れたら見れないんだよ!」
兄は、こっちを向くと優しく言った。
「今日見れなかったら、俺が連れてってやるよ。だから、心配すんなって。」
そう言って僕の頭を優しくなでた。
「今日見たいんだもん・・・。」
僕はぼそっと言ったがきっとだれにも聞こえてはいないだろう。
そんなやり取りをしている間に道はすいてきて父は一気にスピードを出した。
映画までの時間はあと45分程度だった。
映画館までは飛ばせば30分で着く。
ギリギリでも入るために父は、急いだ。
それと同時に雨も激しくなり、嵐のようになっていった。
車のスピードはそれでも下がることはない。
「あの時、帰らなきゃ渋滞にも巻き込まれなかったのに。」
父は、独り言をつぶやいた。
だが母は、聞き逃さなかった。
「ごめんなさいね、洗濯物干しっぱなしにして。」
母も渋滞に巻き込まれてチケットの代金が無駄になるかもとイライラしていたのかもしれない。
「悪いとは言ってないだろ。どうしてそう皮肉って捉えるんだお前は。」
「あら、ごめんなさいね。私にはそう言ってるようにしか聞こえなかったは。」
父と母の喧嘩は止むことはなく、どんどんエスカレートしていった。
僕は、映画が楽しみだったのに喧嘩を始めた両親が嫌で耳をふさいだ。
すると兄が言った。
「つくまでもう少し掛かるから、寝てな。」
そう言って膝の上に僕の頭を載せさせて、上着を布団代わりに掛けてくれた。
最初は、五月蠅くて眠れなかった。
しかし、兄の手が、頭をなでるたびに眠気は強くなりいつの間にか僕は眠っていた。
そして起きたのは、何日か経った病院のベットの上だった。
僕は、その後事故にあったのを聞いた。
家族は事故で全員亡くなってしまった。
理由は、父のよそ見運転だったらしい。
母との喧嘩が続いていたのと、スピードを下げなかったこと、そして雨で路面が滑りやすくなていたためだった。
その状態で、急カーブに入り曲がり切れずに壁にぶつかり、玉突きのようにどんどん後ろから追突してきたようだ。
前に座っていた両親はぶつかった時にはもう駄目だったようだ。
そして、僕たちも後ろから車に追突されて座っていたところは圧迫状態になり兄もダメだった。
なのになぜ僕が、こうして生きているのかというと。
圧迫状態になる前に兄が、僕を抱きしめて苦しくないように隙間を作っていてくれていたようだ。
僕は、一人だけになったことを恨んだ。
それを兄のせいにしたこともあった。
だが今では、兄に感謝し、家族の分も生きようと思っている。
そしてあれから十年がたった。
僕は、今でも生きている。