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異世界行商譚  作者: あさ
青年と奴隷
7/90

前哨戦

 無事に値切り交渉を終えた優斗に、店員が1枚の紙を差し出す。


「これは?」

「たくさん買ってくれたからサービス。これ見せれば安くしてくれると思うよ」

「ありがとうございます」

 受け取った紙の表には店のエンブレム。裏返して見ると精巧な地図が描いてあり、それには服と靴、宝石のマークが描かれている。


「最低限、靴は買ったげなよ。その服に合うヤツ」

「了解です。それにしても絵、上手いですね」

 地図の出来に関心しながら、優斗はフレイの足元を見る。確かに今の靴では、この服装には合わない。


「あぁ。私のギフトだよ」

「……ギフト、ですか」

 何のギフトでどう描いたのか。優斗その疑問を、ストレートにぶつける事にした。


「どんなギフトかお聞きしても?」

「あぁ、いいよ。見てな」


 そういって取り出された黒い塊は、木炭だった。それを同じく取り出した紙に押し付けると、紙は真っ黒になる。

 次に起こった現象に、優斗は目を見張った。店員が紙に触れると、木炭で出来た汚れが動き、この店の看板デザインに変化したからだ。


「これ、は?」

「土の妖精の欠片さ。ちょっとだけ、動かせるんだよ」

 服の汚れとか見えないとこに移動させたり出来るんだよ。優斗は得意げに言う店員に、すごいですね、と答える。褒められて気分が良くなったのか、店員はリボンをもう1つ取り出して、フレイの首に巻いた。


「これもサービスしとくよ。じゃ、私は戻るから」

「はい。ありがとうございました」

 先ほどの現象に意識が向いていた優斗は、リボンがさりげなく首輪を隠している事に気づかなかった。


 奴隷がその証である首輪を隠すことは珍しくない。外せば違法、と言うか死亡だが、主人の意向に逆らわない限り、問題ない。むしろ主人が隠させる事も多い程だ。


 優斗は歩きながら先ほどの現象について考え始める。彼女の説明を真に受けるならば、鉱物を操作出来るのだろうと推測出来る。汚れも移動出来るという言葉から、影響範囲はもう少し大きいかもしれない。


 考察は部屋に戻ってからにしよう。そうすればフレイにも質問出来るし。そう考えた優斗は、ひとまず靴屋へ向かう事にした。


 靴屋で紙を見せると、何故か褒められ、歩きやすそうな茶色のブーツを値札の半値で買える事になった。そこでようやく、先ほどの服飾店には値札がなかった事に思い至った優斗は、本当に値切りが成功したのか、悩む事になる。


 さすがに宝石までは無理かな。そう判断した優斗は、昼食を調達してから宿へ戻る事にした。宿に戻って昼食を終えるまで、フレイはほとんど口を開かなかった。おかげで優斗は、店で見たギフトについて聞く事が出来なかった。


「午後から商会に行こうと思うんだけど」

「わかりました」

 この街に来た本来の目的を果たすために。



 フレイは、売られると言う事象にあまり悲観していない。村を救う為だと覚悟はずっと前に決めていたし、自分ならばそれなりに立ち回れるだろうという自信もある。それでも、侍従時代に見た奴隷の扱いを思い出し、身が震える事もあった。


「じゃあ、行こうか」

「はい」

 先に行ってて、と言う優斗の言葉に従い、部屋を出る。宿の店主に荷馬車を出す旨を伝える優斗を追い越し、荷馬車へ向かう。荷馬車は今朝と同じ位置にあり、到着したフレイは、心を落ち着ける為に馬の顔を撫でた。


 優斗と合流し、荷馬車で向かった先は、この街でも最大級の規模を誇る商会だ。

 商会の裏にある荷卸し場の前に立っている男に優斗が「すいません、荷物を売りたいですが」と声をかけると、馬を預けさせられ、荷卸し場の隣にある一室へと案内された。もちろん、フレイも一緒だ。



 通された部屋には2人の男がいた。1人は小太りの中年で、もう1人は若く見える。中年の方が椅子に座り、若者がその後ろに控えている。


「どうもどうも。わがロード商会へようこそ。本日はどの様なご用件で?」

「麦や布、編み靴などを仕入れたので、買い取って貰いたいのです」

「そうですかそうですか。では、実物を拝見させて頂いても?」

「はい。フレイ」

「はい」

 優斗の後ろに居たフレイが、真横へと移動する。その姿を見た若い商人が、ほう、とため息をついた。


「荷馬車の売り物だけ、説明しといて」

「わかりました」

 優斗が視線を送ると、中年の商人が苦笑いを浮かべた。そして後ろを振り返る事なく、若い商人に声をかける。


「お前、見に行きたいか?」

「もちろんです!」

 こちらです、とフレイを連れて出ていく年若い商人。残された2人は顔を見合わせ、笑いあう。その笑顔に促されて、優斗は椅子に腰かけた。


「申し遅れました。私の名はハリスと言います。どうぞ、ハリスとお呼び下さい」

「商売をする時は、優斗、と名乗らせて貰っています」

 優斗のセリフ回しは、前日にこっそり覗き見た他の商会での商談からの引用だ。商談用のしゃべり方、と言うのも彼にとっては未知のモノだった。


「それで、どういったご用件でしょうか?」

「ひとまず、これを」

 自分の意図にあっさり気づいてくれたハリスに驚きと、それと同じだけの恐ろしさを感じながら、優斗は紙を2枚差し出した。


「これは?」

「そちらが持ち込ませて頂いた品で、こちらが東にある村に届けてほしい物品です」

 リストを確認したハリスは、顔を上げる事なく口を開く。


「支払はどの様に?」

「現金が必要であれば準備しますが、手持ちの何かを対価としようと考えています」

 優斗の言葉に、ハリスはソロバンを取り出し、はじく。


「あの女性は奴隷ですかな?」

「お察しの通りです」

 首輪を隠していても、目ざとい人間ならば気づく。ハリスの様なそれなりの経験を積んだ商人ならば、なおさらだ。そして優斗の様な行商人が、奴隷と言う身分に不相応なモノを連れている理由も、簡単に察することが出来た。


「物々交換で品物を送る契約をした、と言う訳ですか。ご自分でいかれないのですか?」

「少々、北に用事がありまして。出来れば私の代わりに買付に行ける方を紹介して欲しいくらいです」

「行商路を譲ってしまわれるのですか?」

「数年、帰って来れないかもしれませんので、その間、買付がこなければ村が困った事になりますから」

 優斗の言葉に、ハリスはこっそりため息をついていた。買い取り額の予想、奴隷の平均価格からリストの商品を村へ送る出費を引けば、ほとんど残らない計算になる。人頭税、奴隷税に滞在費を引けば、ほぼ間違いなく利益は無くなる。


「ふむ。貴方は誠実な商人の様だ」

 それを褒め言葉と解釈した優斗は、ハリスに笑顔を返す。


「彼女の方も買い取り希望ですか?」

「いえ、その気はありません。まぁ、値段次第ですけど。ああ見えて彼女、掘り出し物ですので」

「ほう?」

 優斗の言葉を、ハリスはあまり信用していなかった。しかし、年若く、商売慣れしているとも言えない駆け出しの彼がどんな風に騙されて来たのかは、純粋に興味があった。


「彼女は読み書きが出来ます」

「それで?」

 この世界の識字率は低いとフレイに教わっていた優斗は、反応の薄さに少しどきりとする。フレイは農村の出で、街の識字率を知らない。優斗はそれを考慮出来ていなかった。


「貴族の館で侍従をしていたらしいので、礼儀作法も中々の物です」

「確かに立ち振る舞いは凛としてましたなぁ」

 貴族の館で粗相をして奴隷に落とされた娘、と言うのは多くはないがそれなりに存在する。


 ハリスはほんの少しだけ、目の前の駆け出し行商人の評価を上方修正した。少なくとも、情に絆されてただ働きをしている訳ではないらしい、と。


「これは自称ですけど、生娘らしいです」

「ほほう」

 ささやく様な声に、ハリスは今までで一番の反応を見せる。それは好色な意味でなく、商人として高価な品に対する感嘆だった。


 ハリスは頭の中でソロバンをはじき、買取に使える金額に金貨を3枚ほど上乗せする。女奴隷の平均買取価格は公国金貨7枚前後。これは高級な家具が買える程の大金だ。一方、優斗が示した紙に書かれていた品と配達の料金はざっと見積もって公国金貨8枚と少し。荷馬車の物の値段と行商路を譲るという提案を加味したとしても、これ以上を提案出来る商会はないはずだ。十分な利益と恩を売れる、と内心ほくそ笑んだ。


 売るつもりは無いという言葉は、駆け引きの為の嘘だろう。そう判断したハリスは、フレイを買い取る方向で事を考え始める。


 目の前の行商人の言葉を信じるならば、読み書きに礼儀作法まで出来、生娘である。懇意の奴隷商は喜ぶし、買取の際に処女である事を確認する必要があるのも、良い点の1つだ。最近がんばっている彼の部下が気に入っている様なので、ご褒美替わりにさせてやるのもいいかもしれない。もちろん、傷をつけないように注意する必要はあるが。


「確かに掘り出し物ですね」

「そうでしょう?」

 優斗はにやりと笑い、言葉を続ける。


「それに、彼女にとって私は村を助けてくれた恩人です。故に、忠義心も高いので、役に立ってくれるはずです。いろいろと」

「それは確かに魅力的ですな」


 笑みを交わし、交渉に入ろうというタイミングで扉が開き、扉からはフレイと、それに続いて年若い商人が入って来た。

優斗くんの拙い商談がはじまりました。

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