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異世界行商譚  作者: あさ
青年と奴隷
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職人都市アロエナ

 職人都市アロエナ。

 クロース領で2番目に大きな都市で、市壁に囲まれた街にはその2つ名の通り、金属製品の加工を行う工房が溢れかえっている。装飾品や生活用品、武具等、質の良い製品はクロース領のみならずルナール公国全土で人気の商品だ。フレイの目的地である奴隷商もあるが、炭鉱や商業都市、城下町程の規模ではない。


 市壁が見えてから半日、優斗たちはまだ街の中に入れずにいた。


 アロエナに限らず、市壁のある都市に入るには様々な税金を支払わなければならないし、都市によっては持ち込みに税金のかかる商品もある。もちろん、不審者を中に入れない為、と言う目的も存在するが、基本的にはお金、なのである。


「次っ」

 中年の男に促され、優斗は愛想笑いを浮かべながら荷馬車を進める。あの森からここまで来るまでの数日間に、馬の扱いは多少ましになっていた。


「どうぞ」

「おう」

 横柄な態度の検査官は、優斗が開いた後ろ側からホロの中を覗き込むと、一番手前にあった靴を手に取り、何かを確認するように手の中で回しながら更に奥を確認する。やる気のなさそうな視線は、この馬車で最大の『荷物』を見てにやりと笑った。


「女連れか。羨ましいぞ、色男」

「いえいえ。あれは商品です」

「お、ホントだ。じゃあ、お前の人頭税と奴隷税、商品の方はもうちょい詳しく調べるか?」

 そう聞かれた優斗は、内心焦った。あっちの世界から持ってきた物はまとめてジュラルミンケースに入れて、偶然見つけた御者台後ろの隠しスペース入っている。ジュラルミンケースもそうだが、隠しスペースに入っていた宝石や装飾の付いたナイフも見つかると、多分マズい。


 実際にはそこまで調査される事はないからこその隠しスペースなのだが、焦っている優斗はそこまで頭が回っていない。


「俺の靴も大分くたびれて来たなぁ」

 男の声に、優斗はびくりと反応してしまい、それを見た男がにやりと笑う。


「よろしければそれ、どうぞ」

「そうか? 催促したみたいでわりーな。行っていいぞ。あ、そっちでこれ見せて払うもんは払え」

「ありがとうございます」

 あからさまにほっとする優斗を見て、検査官の男が声を出して笑う。その声にまたびくりとした優斗は、逃げるように窓口へと移動を開始した。


 この世界で賄賂は珍しいものではないが、市壁を通るくらいで払う事は普通ない。初めて市壁を通過する優斗は、必要以上に緊張していた。それに気づいた検査官にからかわれ、まんまと巻き上げられただけの事だ。市壁をくぐってすぐにそれを聞かされた優斗は、がっくりと肩を落とした。


「フレイさんもその時に教えてくれればいいのに」

「奴隷が持ち主に意見する訳にはいきません。それと、呼び捨てと命令形」

「うっ」

 奴隷は奴隷らしく、持ち主は持ち主らしくしていなければ怪しまれる。フレイの言葉に優斗は納得し、了承もしたがまだ慣れていない。


 優斗は荷馬車の流れに乗り、街の中央西へと向かっていた。露店などが並ぶ道を進み、しばらくすると食べ物の屋台や酒場らしい看板を掲げた店が増え、ちらほら宿も見え始める。


 街についた行商人が真っ先に行う事は、かさばる商品を売りに行くか、宿を取るかである。優斗が追従した荷馬車の主は、後者だった。


「とりあえず宿取ろうか?」

「売りにいかないんですか?」

「相場調べなきゃだし」

「でしたら、多少値は張りますけど、大きい納屋のある、目立つ宿がいいですよ」

「りょーかい」

 フレイの助言に従って選んだ宿は、ボロではあるが大きめで納屋が併設されていた。


 納屋に荷馬車を預けた優斗は、フレイに貴重品だけを持たせて宿へ入った。優斗としては、女性に荷物を持たせるのは心苦しかったが、用事がないなら納屋にいますと言われて仕方なく持たせている状態だ。


「いらっしゃい。2人、いや、1人か。部屋まで連れてくなら割増しね」

「では、これで」

「部屋は二階の突き当りね」

 料金表を見た優斗が少し多めの金額を払うと、店主は下卑た笑みを浮かべて階段を指差した。


 鍵が渡されるものだと待っていた優斗は、店主が訝しげな表情を浮かべてもその場を動かなかった。業を煮やした店主が何かを口にしようとした時、それよりも早く優斗に声がかけられる。


「優斗様、部屋へ参りましょう」

「ん、あぁ」

 フレイに促されて、優斗は状況が掴めないまま部屋へ向かう。そして扉に鍵がついていない事に驚く。驚く優斗を追い抜いたフレイは、扉を開けて優斗を中へ入るよう促した。


 部屋にはベッドとサイドテーブル、椅子がありサイドテーブルには水差しがおかれている。優斗は扉に鍵が無い事に不安を覚えながら、フレイに椅子を勧めて自分はベッドへと腰かける。


「この後、どうするのですか?」

「市場調査、かな。フレイ、荷物番頼んでいいいかな?」

「命令して下さい」

「2人きりの時くらいダメ?」

「ダメ。です」

 市壁が見え始めた頃から、フレイは自分を奴隷扱いする様に優斗に求め始めた。強硬にそれを求めるのは、怪しまれない為という理由の他に、彼女の心情に由来する理由も存在する。


「じゃあ、命令。今日は荷物番としてこの部屋にいる事」

「はい」

「眠くなったらベッドで寝る事」

「……荷物番が寝たらダメだと思うのですが」

「気のせい気のせい」

 フレイは再び言い返そうとするが、何か思い出したかのように「はい」と返事を返す。


 フレイに待機命令を出した優斗は、出かける準備を始めた。

 優斗はずっと考えていた市場調査の方法を思い出す。まず基本として通貨価値と物価。これは露店と適当な店を巡ればある程度予測がつくだろう、と考えていた。現状、もっとも重要な情報はフレイの村に送る物資の総額と、フレイの売価だろう。


 次に、取引の練習。ある程度の経験がなければ、足元を見られ続けるだけだと、先ほど市壁を通過する際に優斗は痛感した。同時に取引のやり方や常識等の知識も手に入れておきたい。その為に比較的安い物とそれなりに高価な物をある程度売ってみる予定であり、優斗の持つ袋の中にはお金の他に売る為の商品が入れられている。


 それ以外にも町並みを確認したり、儲け話がないか探してみたりする予定だった。儲け話は探せるのか、というだけで実際に実行する気は優斗にはない。常識、慣習という知識のない事がいかに不利なのか、優斗は既に理解している。


「じゃあ、お土産買って来るから」

「いってらっしゃいませ」

 準備を終えた優斗は、フレイに見送られて部屋を出ると、市場調査と言う名目の町中めぐりを開始した。

話に動きがありません。フレイさん、早くはっちゃけてー

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