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異世界行商譚  作者: あさ
拾い者の行く先
47/90

早速の方針転換

 予定通りに街を出発した優斗とフレイは、街道の途中に幾つかある小さな村落に立ち寄りながら海を目指していた。


「思った以上に時間かかるね、これ」

「そうですね」

 ライガット達と別れてから約1か月、優斗達は小さな漁村まであと半日と言った距離まで来ていた。


 1日か2日で次の村に到着し、聞き込みを含めて2泊3日で旅立つ、を繰り返した結果、彼らの旅路は真っ直ぐ向かった場合に比べて2倍以上の時間とかなりの金銭を消費していた。


「これはちょっと考え直さないと、きついかも」

「お金、大丈夫ですか?」

「今はまだいいけど、時間がかかり過ぎると積み込める商品の種類が」

 優斗は手綱を握ったままの手で頭をかかえる。


 商品の種類と言うのは、日持ちだけの問題ではない。

 例えば、冬に必要な物を夏に届けても安く買い叩かれるのが目に見えている。それは極端だとしても、必要な時、必要な物を必要な場所に運び、売る事で利益を得るのは商売の基本であり、同業者よりも早くそれを成せば、より儲けを得られるのは明白だ。


 優斗もその事は理解しており、故に手に入った2頭目の馬を売却する事なく、荷馬車を二頭立てにする事で移動速度が上がり、利益も上がる事を期待した。単純に移動時間が減るだけでもそれなりの経費削減になる


「大きな街で長期滞在して、小さな村へ向かう行商人に依頼した方が安上がりで効率的かな、こりゃ」

「野宿の回数が減るのは、嬉しいですけど」

 野宿が続けば疲れが貯まるが、かと言って人里に宿泊すればお金がかかる。


 フレイの言う事は優斗も実感していたが、このペースでは約束の期限までにユーシアに到達できるかも怪しい事も含め、方針転換は確実に必要だと優斗は考える。


 立ち寄る村を1つおきにする、街道から少しでも離れていたら寄らない、など、新たな方針を話し合う内に、目的の漁村に到着する。


「おー、海だー」

「初めて見ました」

 フレイの住んでいたクロース領は、海に面していない。


 それを地図で知っていた優斗は、感激するフレイを見つめながら、自然と笑みが零れる。


「宿は、なさそうだから村長の家を尋ねようか」

「はい」

 心ここに非ず、と言った風情のフレイの返事に、優斗は再度口元を綻ばせる。


 村長の家に向かうと、漁に出ていて不在だと言われ、それを告げた恰幅の良い中年女性――村長の娘らしい――に宿を探している旨を告げる。


「ん」

「へ?」

 村長の娘が、右手を差し出す。


 優斗はそれが何を求めているのか、判らなかった訳ではない。しかし、一度無知故に無駄に支払った経験から、隣のフレイに視線を向けてしまう。


「私がお出ししても?」

「あ、うん。頼む」

 良く言えばチップ、悪く言えば賄賂。


 優斗も山の麓の村で、塩を賄賂として贈った経験があるが、面と向かって、はっきりと求められたのは初めてだった。

 もっとも、塩を贈った理由には、薬草販売の仲介と言う商売を横取りしてしまう事への補償と言う意味もあったので、あまり賄賂と言う意識はなかった。


「どうぞ、お納め下さい」

「あんがと。宿代は後でいいですよ」

 そう言って歩き出す女性に案内されたのは、想像していたよりも良い家だった。


 厩があり、そこには馬用の飼葉まで置かれている。

 家の中もきちんと掃除され、薪もそれなりの量が準備されており、まるで来訪を予期していたようだ、と優斗は少し訝しむ。


「あぁ、言い忘れてたけど、あんまり長くは貸せませんから」

「どうしてですか?」

 反射的にそう尋ねた優斗だが、元々ここに長居する気はない。


 既に予想以上に時間が経っている事や、早く和服の制作に取り掛かりたい事もあり、海沿いに南下し、早めに次の目的地である都市へ辿り着きたいと考えていた。


「ここ、魚の買付にくる商人の人に貸す家なんで」

「近いうちにその方がやって来るんですか?」

「早くしないと魚が腐るでしょ?」

 何を当たり前の事を、と言いたげな女性は、明らかに面倒臭そうな表情だ。


 これ以上引き止めても、お互い不快になるだけだ。

 そう判断した優斗がお礼を言うと、女性はさっさとその場を立ち去る。


「歓迎されてない感じかな」

「閉鎖的な村ではよくある事です」

「今まで、そんな事なかったんだけどなぁ」

「特定の行商路にしている人がいない村ばかりでしたから」

「偶然に?」

「いえ、街道に近い場所は比較的多数の行商人が寄って行きますので、特定の行商人が必要ないんです」

 フレイの言葉に、優斗は、なるほど、と呟く。


 フレイの説明を聞いた優斗は、利益が確実に出る場所にしか、特定の行商人は付かないと言う事を思い出す。

 行った時に既に商品が無い可能性がある場所や、利益の出る商品の無い場所に通う意味は薄い。しかし、この村は漁村と言う特色があり、魚介類と言う特産物がある。


「ここでの買付は、期待しない方がいいかな」

「たくさん取れれば、少しくらいは分けて貰えるかもしれません」

「出来れば、食べる分くらいは売って欲しいところだけど」

 それも漁の結果次第だろうと結論し、優斗はお湯を沸かす為に火を付ける。


 お湯が沸くとお茶を淹れ、フレイと一服しながら、明日は海を見に行こうと決める。

 相変わらず夜番をしていたフレイが床に入り、優斗が邪魔にならない様にと静かに地図を見ていると、唐突に入口の扉が開く。


「あんたら、悪いけど出てってくれる?」

「へ? あの、何を」

「まだ貸してないもんね? 代金貰ってないし」

 突然やって来た女性の言葉に、優斗は面食らう。


 その後ろに男の姿を見つけた優斗は、反射的に立ち上がるとフレイが眠っている場所との間に立つ。


「すぐに入れるよう、急いで準備させますので、少々お待ち頂けますか?」

 振り返った女性から甘ったるい声でそう告げられた男は、声を出さずに頷く


 そのやり取りで彼が誰で、何故村長の娘が突然押しかけて来たのかを理解した優斗は、反論の言葉を口に出そうとして、止める。


 目の前の女性の短絡的な行動から予想して、優斗が彼女を言い負かす事は不可能ではないと思える。だが、そうして勝ち取ったとしても、夜のうちに荷馬車を荒らされたり、最悪、直接危害を加えられる可能性がある。


 そこまで考えた優斗は、少しぎこちないながらも何時もの営業スマイルを張り付けると、袋から質の悪い銅貨を1枚取り出し、女性に近づいてから男から死角になる様にそれを握らせる。


「判りました。すぐにでもここを出る準備を致します。

 しかし生憎、連れが眠っておりまして、起こして身支度をする間、少しだけ待って頂けませんか?」

「ふん。しょうがないね」

 優斗に対しては態度の大きい女性は、銅貨を受け取ると再度甘ったるい声で後ろの男に声をかけ、扉の外へ出ていく。


 賄賂のおかげと、ついでに寝起きの若い女を彼に見せたくないとでも思ったのだろう、女性があっさりといなくなった事に安堵しながら、優斗は出発の準備を整えようと振り返る。


「災難でしたね」

「ごめん、騒がした」

「いえ、仕方ないです」

「そんな訳で、もう出発しようかと思うんだけど」

「それがいいと思います。それと、使った薪と飼葉の代金は払った方がいいと思います」

「そう?」

「あまり遠くまでは行けないと思いますし、念の為」

 優斗は大きなため息と共に頷くと、急いで荷物をまとめ、フレイの言葉通りに代金を準備する。


 準備を終え、外に出るとそこには優斗の荷馬車があった。

 厩を覗くと見知らぬ荷馬車があり、あれを入れる為に勝手に出したのだと言う事に気付き、次いで優斗の馬が何処にも繋がれていない事に気付く。


 この仕打ちに、優斗は当然腹を立てた。しかしそれ以上に呆れてもいた。


「どうなの、これ」

「それよりも、荷物がきちんとあるか確認すべきだと思います」

「あ、そっか」

 指摘したフレイが荷馬車に上がるのを補助し、荷物の確認をお願いすると、優斗は辺りを見回す。


 目的の相手は既にこちらに向かって来ており、あっさりと発見する事が出来た。

 2人がやって来るのを、優斗は再度顔面に営業スマイルを張り付けながら待つ。手渡された銅貨の質が悪かった事に腹を立てているのか、それとも別の理由か、女性はとても不機嫌だった。


「もういいかしら?」

「はい。

 こちらは使わせて頂いた薪代と飼葉代です。お納めください」


 当たり前だと言わんばかりに、女性は優斗の手からそれをぶんどる。

 今回はその金額に満足したのだろう、手の中の銅貨を確認した女性は少しだけ愛想よく「また来てくださいね」と告げると、男と共に家に入っていく。


 扉が閉まると共に素の表情に戻った優斗は、肩を落とし、がっくりと項垂れる。そして次の瞬間には顔を上げ、拳をきつく握る。


「ご主人様、出発しましょう」

「あ、うん」

 女性の態度を受け、怒りに震えていた優斗が御者台に飛び乗る。


 優斗が手綱を握る間に、同じく御者台に飛び出してきたフレイは「大丈夫でした」と告げると、蜂蜜飴を取り出し、口の中に放り込む。


「残り少ないんだけど?」

「こんな気分の時こそ、甘いモノ、ですよ」

 そう言って、フレイは優斗の口元にも1つ、それを差し出す。


 優斗はそれを素直に受け入れ、口の中に広がる甘味に浸る。


「旅をしていれば、こういう事はまたあるはずです」

「だからあんまりかっかするな、と?」

「いえ。かっかしても、冷静でいて下さい、と言う事です。

 今回の様に」


 今回、優斗が冷静に下せた判断は、実際のところほとんど無い。

 村長の娘と口論せず、あっさりと受けれたまでは良いが、その後すぐに村を出ようとしたのは、彼女の顔を見たくなかったからだ。他の宿を探す事なく、すでに夕方に近いこの時間に出発を強行したのは、冷静に判断すれば必ずしも良い事ではない。


 フレイがそれを指摘しなかったのは、彼女も同じく腹を立て、あの女の顔は2度と見たくないと思っていたからだ。また、睡眠を邪魔された事も腹立たしく思っている。


「もう1ついかがですか?」

「自分が食べたいだけだろうに」

 フレイは何も答えず、にこにこと微笑ながら2つ目の飴を差し出し続ける。


 フレイと優斗が交わした約束。その中に、飴は1日1つ。ただし、一緒に食べる場合は優斗と同じ数まで食べて良い、と言うモノがある。


「口移しをご希望ですか?」

「フレイが口に入れた時点で、フレイの分に数えるから」

「だったら、ご主人様が口に入れた後に奪い取ればいいんですね?」

「今の無し。本気でやりそう」

 優斗が、降参、とばかりに両手を上げる。


 そんな優斗に、フレイは何も言わず飴を差し出し続ける。添えられた微笑みは、言葉以上に雄弁に、優斗が何をすべきかを語っている。

 敗者にはそれに逆らう権利は無い。かと言って、優斗はそれを素直に受け入れ事を良しとしなかった。


「な、何するんですか!」

 フレイが慌てて手を引っ込める前に、優斗がその手首を掴み、それを妨害する。


 そして飴ごと咥えていた指に舌を這わせる。飴を掴んだせいで付着しているきなこを全て舐めとる為、優斗は抵抗するフレイの腕を更に引く。


「あ、ん。っう、くすぐったいです!」

「はい、お終い」

 そう告げると共にあっさりと腕を解放した優斗は、手綱を握り直すと正面に向き直る。


 わざとらしく視界からはずされたフレイは、咄嗟に反論、もしくは反撃できなかった事を悔しく思いながら、荷台から取り出した布で優斗の唾液でべとべとになった指を拭うと、自分の口にも飴を1つ追加する。


 結果だけ見れば、飴を得る、と言う目的を果たしたフレイだが、最後に逆転負けを喫した様な気分で、少し不満だった。更に引っ繰り返す手段を思い浮かばなかった訳ではないのだが、一応、16の乙女であり、断じて痴女などではないフレイにとって、その行為は羞恥心やその他諸々の理由で、実行に移す出来なかった。


 最も、毎晩の様に優斗のベッドに潜り込んで誘惑し続けていた彼女が、痴女で無いかどうかは、議論の余地があるだろう。


「出発したばかりだけど、良い場所があったら野営の準備をした方がいいかな」

「いえ、薪と藁を頂戴して来ましたので、今日は暗くなり始めるまで進みましょう」

「……何時の間に」

「代金は払ってますから問題なしです。

 それに、少しでも離れておく方が良いと思います。勘ですけど」


 薪替わりの木切れを探す時間をある程度省略できれば、野営の準備が短縮出来る。

 それを普段からしないのは、薪にかけるお金が勿体無いのと、荷馬車にそれだけの量を積むと他の荷物を積むスペースが激減するからだ。もちろん、万が一の為に普段からいくらかは積んであるが、それを使用する事は稀だ。


「さすがに一晩中は無理ですので、少しは集める事になりますけどね」

「じゃあ、食事も簡単なのにしようか」

「干し肉を希望します」

「今夜は豪勢過ぎて、財布が軽くなりそうだ」

「だったら、がんばって薪を探してください」

 結局、夕食はフレイの希望通りに干し肉と、お湯に麦と塩を放り込んで煮詰めると言う簡単なメニューとなった。


 夜番は交代制と決め、まずフレイが眠り、深夜に目を覚ますと交代で優斗が眠った。

 翌朝、何時もより少し遅い時間に目を覚ました優斗は、既に明るくなった日の下で朝食を摂り、荷台で眠るフレイと共に次の街へと出発する。




 漁村を追い出されてからしばらく後、優斗は気が付くと地図を広げて考え事をする様になっていた。


「どうしたんですか?」

「んー?」

「何か気になる事でもあるんですか?」

 重ねられた質問に、優斗は昼食後の薄茶を啜りながら、もやもやと考えていた事柄を言葉にしていく。


「いや、前の村の事で色々考えてさ」

「色々ですか?」

「例えば、食糧もお金も、何もかも尽きた村に辿り着いたどうなるのか、とか」

 これまで優斗達が立ち寄った村は、程度の差はあれど彼らを歓迎した


 それはお金を落とすと言う事と、外の物や情報が入って来る事で村に利益を与える事が理由であり、特に前者は、村が小さい程、その恩恵が大きい。

 もし優斗がフレイを連れていなければ、貧しい者や小遣い稼ぎが目的の女が寄って来る事もあったはずだ。もっと閉鎖的な場所まで行けば、外部の血と村の収入と言う2つの目的から、半ば無理やり年頃の女が宛がわれる事もある。


「身ぐるみを剥がれて殺される、ですか?」

「そんなとこ。

 だからこれからは、村の詳細情報、とまでは言わないけど、せめて飢えていないかくらいは調べてから行くべきかな、と」


 優斗は、情報が重要であると言う事を理解しているが、それを実践するだけの経験が無い。

 何よりも、生きる為に殺してでも奪い取ると言う感覚がなかった。そう言う事もあると聞いてはいたが、経験し、実感し、痛みを噛みしめてようやくそれがどう言った意味を持つのか、少しだけ理解した。


「喉元過ぎれば熱さ忘れる、か」

「何ですか、それ?」

「故郷のことわざ」

 少しだけ昼休憩を延長する事を決めた優斗が、荷馬車からペンと紙を取り出す。


 優斗は、ハイルで聞いた商隊参加者の積荷と、彼らが話してくれた話を思い出しながら、紙に細々とメモして行く。


「それは?」

「身の丈にあった商売はどの程度かなって言うメモ」

「えっと?」

「行商歴が1年にも満たない新米は、どんな商売をしてるのかな、と」

 優斗の言葉に、フレイが首をかしげる。


 何か変な事を言っただろうか、と思いながら、優斗は自分がこれまでに扱った荷物の買値と売値、運んだ距離と時間を長短のみで書き入れていく。


「ご主人様の実家は、商売人ではなかったのですか?」

「そうだけど、継ぐ気、無かったし」

「継ぐにせよ、継がないにせよ、手伝わされるのが普通ではないですか?」

 フレイの指摘を受け、優斗はすぐにそれがこちらとあちらの差であり、説明が難しい事柄であると把握する。


 こちらには義務教育は無く、子供も労働力と数えるのが一般的であり、何よりある種の特権階級である商人が、自分の息子をあえて農民として育てる事はほとんど無い。良くも悪くも特別な事情、例えば騎士をを目指させたり、妾腹であったりした場合は例外だが、フレイは聞いた話から、優斗がそう言った境遇にある訳ではない事は知っていた。


「あー、いやまぁ。簡単な店番くらいしかしてなかったから」

「放蕩息子だったんですね」

「否定はしないけどさぁ」

 話の流れから、優斗は自分の様に放蕩でなく、勤勉で後を継ぐ事を熱望していた弟を思い出す。


 しかし、これ以上の脱線話は移動中にすべきだと判断した優斗は、出かけた言葉を飲み込んで、強引に話題を修正する。


「まぁ、それはそれとして、新米で村を回る行商人はどんな具合なのかな、と思って」

「その考え方は、見当違いだと思います」

「え?」

 きっぱりと言い切るフレイ。


 優斗は自らの思索を見当違いだと告げられた優斗は、純粋に驚きと興味から、フレイに詰め寄る。


「どういう事?」

「その、近いです。それと、睨まないで下さい」

「あ、ごめん」

 真剣な顔をして、睨んだと思われた事に少しだけショックを受けた優斗だが、それ以上にフレイが何を言うのかが気になり、身を引いてからフレイに先を促す。


 全神経を集中する勢いで耳を傾ける優斗の姿勢に、フレイは迂闊に強い否定の言葉を吐いてしまった事に反省しつつ、緊張しながらそれに従う。


「えっと、その。

 ご主人様が参考にすべきなのは、もっと上の方、中堅かベテランに近い商人の方だと思います」


 そんなフレイの言葉を、優斗は誤解から来る過大評価だと受け取り、口を開きかける。

 しかし、それを予想していたフレイは、優斗が否定と謙遜の言葉を吐く前に、続きを口にする。


「私が侍女をしている時に、行商人の方が言っていた事なのですが」

「うん」

「行商に重要なのは、品物選びなんだそうです」

「そりゃあそうだと思うけど」

「使える資金と乗せられる荷物量から、最大の利益を出す品物を仕入れるのが、良い行商人だ、と」

 言葉にすれば当然の事と思えるフレイの言葉。


 優斗はそれをゆっくりかみ砕きながら、フレイが何を伝えたいのか、解いていく。


「経験よりも、資産が近い人の話の方が参考になる、って事かな?」

「そうです。それです」

 ふぅ、とため息を吐くフレイの姿に、優斗は苦笑する。


「いや、自分で行かないで村にあれを届けるには、どんな商人に頼むべきかあたりをを付けるべきか考えてたんだけど」

「え?」

「もちろん、自分の商売の参考にもするつもりではあったけど」

「うっ。でしゃばった上に余計な事を言ってすいません」


 そう言って小さくなるフレイの反応は可愛いが、同時にこのまま見つめ続けるのは少しだけ可愛そうでもあると感じた優斗は、その姿を少しだけ見つめた後、出発の準備を始める。

 フレイの可愛らしい反応を楽しんだ優斗は、フレイが出発と同時に夜番の為にもう少し眠ると言って逃げた事で1人になってしまう。


「リスクとリターンも考えないと、か」

 聞き手のいない優斗の呟きは、荷馬車の進む音にかき消されながら風と共に後方へと流れていく。


 フレイが指摘した通り、現在の優斗が買付金と設定している金額分を、小さな村1つで買い付ける事は難しい。

 そしてそれ以上に、村や道中で略奪された場合のリスクと、村から得られるリターンが釣り合わない。整備された街道沿いと、村に向かう碌に整備もされていない道では、道中の安全度は様々な意味で段違いだ。


 漁村での出来事を切っ掛けに始まった優斗の思索は、結局のところ、極力整備された街道沿いに進み、なるべく一定以上の規模を持つ街や都市、もしくは行商人が頻繁に利用する村だけを利用すると言う結果に落ち着いた。

ひさしぶりの2人旅、その道中でした。


優斗くんが段々フレイさんの対応に慣れて来ています。

もちろん、その逆もまた然り。

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