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異世界行商譚  作者: あさ
神座す頂
43/90

山の薬師様

 シェーン商会による事前準備のおかげもあり、さほど苦労もなく山道を進んでいく優斗達一行は、既に村と目の鼻の先の距離まで来ていた。


 御者台には男2人が座っており、手綱はもちろん、優斗が握っている。


「あの、じっと見るの、止めてくれませんか?」

「それ以外、する事がねぇんだよ」

 ライガットの言葉に、優斗は数分前の出来事を思い出す。


 到着してすぐにでも山中に居を構えていると言う薬師に会いに行くと主張したユーリスが、身支度をすると言う事で、荷台から追い出された。

 そして優斗が覗かない様、ライガットは監視を命じられた。ユーリスからは冗談っぽく、フレイからは無表情で。


 見た目は幼気な少女であるフレイを、優斗がどの様に扱っているのかと言う事柄に関しての弁解は出来ていないが、接しているうちに警戒は解け始めており、優斗とユーリスの関係は良好と言える程度には回復している。


「人が居ますね」

「おぉ、ほんとだ」

 村と外との境界なのだろう、簡単な柵が建てられている場所に、男が2人立っている。


 優斗と目が合うと、男達はぺこりとお辞儀をし、どこかへ誘導する様に歩き出す。


 目的地である山の麓にある村は、人口が100人を切る、小さな集落だ。

 住人達の生活を賄えるだけの食糧をなんとか自給し、税には木を切ったり、藁を編んだり、時には蜂の巣を取ったりと、山で採れる臨時収入を当てて生活している。薬師のもたらす薬も、そのうちの1つだ。


「宿とか、なさそうですね」

「ねぇだろな。

 でもまぁ、どっかで部屋くらい貸してくれんだろ。金払えば」


 優斗はそれに頷くと、先導の2人を追うように、馬に指示を出す。

 辺境の集落にまで来る行商人がどれだけ貴重であるのかは、今さら口に出して説明する事ではない。


 荷馬車が集落で、最も大きな家の前で立ち止まった2人に追いつく。

 優斗は、きっと村長の家だろうと予測し、御者台から降りる前に荷台との間にあるホロを叩き、中に向けて声をかける。


「ちょっと挨拶して来るから、待ってて」

「到着したなら、すぐにでも山へ――」

「居場所も知らないのに?」

「うっ」

「それに、ライガットさんの移動もしないと。フレイ」

「はい」

 飛び出さない様に見張っていて、とまではあえて言わず、優斗は御者台から飛び降りる。


 荷馬車の方は任せておけばいいだろうと判断した優斗は、何時もの営業スマイルを浮かべて、いつの間にか1人になっている案内人に声をかける。


「どうもはじめまして。行商人の優斗と申します」

「中に居る」

 案内人は、それ以上は何も言わず、家の扉を指差す。


 その態度に思うところがなかった訳ではないが、あえて揉め事を起こす事も無いだろうと考えた優斗は、何も言わずに扉に向かい、手をかける。


 扉を開けると、そこには小さな女の子の姿があった。突然開いた扉に、反射的に振り返った少女は、緊張した面持ちで優斗の様子を伺っている。


「あー、えっと。こちらにいらっしゃる方に会うよう、聞いたのですが」

「だれ?」

「うんと、行商人をしている優斗といいます。村の偉い人に会いたいんだけど、ここに居るかな?」

「ぞくちょーのおじーちゃん?」

「多分、その人」

 族長、と言う肩書から、優斗は少数民族と言う言葉が思い浮かんだが、すぐに頭の隅に追いやる。


 次に考えたのは、どこへ向かうべきか、と言う疑問。その答えを得る方法として、年齢が2ケタに届いているかも怪しい目の前の少女に問う以外に何も思い付かなかった優斗は、少女と目線を合わせる為に、その場にしゃがみ込む。


「ミシャ、どうしたの、って、お客様」

「あ、どうも」

「娘がご迷惑を。どうぞこちらへ」

「どうも」

 慌てて立ち上がった優斗は、ミシャと呼ばれた少女に小さく手を振ると、彼女の母親らしい女性に先導され、家の中へと入っていく。


 案内されたのは、大き目のテーブルが鎮座する、こじんまりとした部屋だった。

 来客など年に数えるほどしかない集落に応接用の部屋などあるはずは無く、普段は族長の一家が食堂として使っている場所だ。ここがこういう場に利用される理由は、大きな机と椅子があるから、と言う理由がほとんどを占める。


「どうも初めまして、族長様。行商人の優斗と申します」

「族長のシェールだ。ようこそ、商人殿。歓迎する」

 愛想の無い表情と言葉が飛び出し、案内の女性と入れ替わりお茶を持って入室して来た女性がため息を吐く。


 その反応に、いつもの事なんだろうな、と判断した優斗は、あえてそれに触れる事なく、率直に要件を切り出す。


「早速で申し訳ないのですが、2つ程、お願いしたい事があるのですが」

「なんだ?」

「まず、4人分の寝床を貸して頂きたい。もう1つは山の上に住むと言う薬師様に会せて頂きたいのです」

 族長は優斗の言葉を吟味しているのか、無言でテーブルに置かれるカップを見つめる。


 族長と優斗は、示し合わせたかのように同時にカップに手を伸ばし、中身を半分程飲み干す。そしてカップを置くかちりと言う音と共に、族長の視線が優斗に向かう。


「家を1つお貸ししよう。それと、山に入るのは構わないが、案内は出来ない」

「何故でしょうか?」

「そう言う約束だからだ」

 薬師が直接売りに出さないからこそ、この村は差額で儲ける事が出来る。


 その辺りに出来ない事情があるのか、他に理由があるのか。どちらにしても、その約束に侵入者の妨害が条件に入っていなかった幸運に感謝しながら、優斗は数枚の銀貨と共に塩の入った小さな袋を1つ、差し出す。


 優斗が塩を選んだのは、保存がきく、実用的な物であると言う理由と、単に安く仕入れられたからと言う理由からだ。


「家の借り賃と、こちらは族長様への贈り物です。お納め下さい」

「うむ」

「滞在が長引く様であれば、また追加で支払わせて頂きます」

 細かい日数を追及しないまま、家を借りる交渉が終了する。


 族長には、品物の売買の際の事を考え、優斗の言い値で貸す事により好印象を与えようと言う思惑がある。言葉遣いや態度で台無しになっている点を除けば、その行動は集落の代表として、正しいモノだ。


 その後、世話役を付けると言う族長の言葉を断りきれず、食事の準備だけ人手を借りる事となった優斗は、商売の話は明日の朝からと決め、案内人に連れられて街へ出稼ぎに行っていると言う男の家に向かう。

 主人が不在であるにも関わらず家は綺麗に片付いており、納屋にもきちんと飼葉が準備されている。


「優斗さん、私は山へ行きますので」

「待て待て。せめて場所だけでも聞いてから」

「もう聞いてあります。明日中には戻りますので」

 そう言って飛び出して行ったユーリスを、優斗は立ち尽くしたまま見送る。


 ベッドへ押し込まれているライガットが苦笑いを浮かべている事から、きっと普段からああ言う感じなのだろう、と優斗もつられて苦笑する。


「いいんですか?」

「心配なのは、薬師に口説かれる事くらいだな」

「山の中で1人なのは心配じゃないんですね」

「男と2人の方が危ないだろう?」

 護衛と言う職についている人には無用な心配だったな、と優斗は納得する。


 その後、昼食を食べ終えた優斗とフレイは、ライガットに追い立てられる様に散歩に出かける。

 街を出てからは役割分担の関係や、フレイの近くには常にユーリスが居た為、ひさしぶりの2人きりでの会話を楽しみながら、目的地へと向かう。


「そういえば、この辺りじゃないですか?」

「あれっぽいけど。なんか、予想と違うな」

 優斗とフレイは、万病に効く湯を取って来る、と言う名目でライガットに家から追い出された。


 そして、到着した先には、小さな器サイズの受け皿と、そこに流れ出る濁った湯があった。


「万病に効く湯って、飲むのか?」

「普通に考えれば、そうじゃないですか?」

 温泉を想像していた優斗と違い、フレイは正しくそれを予想していた。


 湧き出るお湯と言えば温泉。

 そんな自分の思考が、この世界では常識的でない事に気付き、優斗はがっかくりと肩を落とす。


 フレイは不思議そうにしながらも、目的の湯を持参していた皮袋に入れると、この後どうするのか、と視線で優斗に尋ねる。


「とりあえず、ライガットさんにそれ届けようか」

「はい」

「その後は、あれを組み立てようかな」

「お手伝いします」

「ありがと」

「ところで、あれはどんな物になるんですか?」

「それは出来てからのお楽しみ」

 あれ、について追及してくるフレイをのらりくらりと躱しながら、優斗は借家への道を進む。


 優斗は、色々な事に口を出し、質問をしてくる様になったフレイの変化を好ましく思っている。

 立場を弁え、言われた通り、もしくは主人の望む様に行動するだけだった頃に比べて、彼女の表情は明るくなった、と優斗は感じていた。


 もちろん優斗は、それすらも主人の望む行動と取っているだけである、と言う可能性を考えなかった訳ではないが、それに関しては、奴隷解放を望まない理由と同じで、これ以上の追及も証明も難しいと判断して、現状を維持すると決めている。



 借家に戻ると、優斗は納屋に停めてある荷馬車からパーツを取り出し、部屋へと運び込む。

 家はリビング以外の個室が3つ存在し、各自に1部屋ずつ割り振られている。ユーリスが戻った時に誰と相部屋になるかは、本人に決めて貰う事になっている。


 自分の部屋に荷物を運びこんだ優斗は、ライガットにお湯を届けに行ったフレイと合流すると、基本部分の作成に取り掛かる。


 優斗がまず取り掛かったのは、コイルの作成だ。

 フレイと2人でひたすら丁寧に銅を巻き付け、完成したコイルを使ってモーターを作成する。それに電気を流すが、回転する気配はない。更に流し続けると、熱を発し始め、優斗は慌ててフレイを止める。


「ダメだこりぁ」

「何がダメだったのでしょうか?」

 フレイの言葉を聞き流しながら、優斗は自分の知識と、今回行った手順を照らし合わせて行く。


 1時間程、ああでもない、こうでもないと繰り返した結果、手順に間違いは無く、優斗の知識が間違っているか、材料に問題があるかと言う結論に達する。


「結局、何を作っていたんですか?」

「ん、あぁ。扇風機」

「扇風機、とは何ですか?」

「風を起こす機械、かな」

 優斗がそう告げると、フレイは不思議そうな顔をする。


 一体どうしたのかと、優斗も同じような表情を浮かべると、フレイは優斗から少しだけ視線をズラしながら口を開く。


「あの、扇風機を動かすには、私のギフトが必要なんですよね?」

「だね」

「結局ギフトを使うのでしたら、天の流れの欠片を持つ人に頼んで、風を送って貰う方が早いのでは?」

「……そんなのあるんだ」

 優斗ががっくりとうなだれる。


 こうして扇風機作成は、回らないモーターと言う結果を残して終了となった。




 翌日、優斗は約束通り、朝から族長の家に向かった。ライガットは相変わらず留守番だが、今日はフレイと一緒だ。


「よく参られた。どうぞこちらへ」

「どうも」

「では、早速だが買い取って頂きたい物がある」

 そう言って、族長は部屋の一角を指差す。


 そこには様々な品物が並べられており、そのほとんどがこの山で採れる品だ。


「確認させて頂いても?」

「もちろんだ」

 優斗はフレイに目配せすると、机に紙とインク、ペンを置いてから立ち上がる。


 品物を確認しながら、名前を呼んだものを左手方向に置き、右手方向に置く際には何も言わない。

 そんな優斗の言葉を受け、フレイは次々に品名を紙へと書き出して行く。


「申し訳ありませんが、こちらの商品は買取を見送らせて頂きたい」

「何故、それらは買い取れん?」

「荷馬車に積み込める量にも限界がありますので」

 そう言いながら、優斗はテーブルへと戻る。


 フレイが優斗の前へ紙とペンを移動させると、優斗はそれを族長の方に向け、営業スマイルで交渉を開始する。


「こちらの蜂蜜は、銀貨1枚で買い取らせて頂きます」

「む。そうか」

 つくづく蜂蜜と縁があるな、と思いながら、優斗は蜂蜜の欄に『公国銀貨1』と書き込む。


 これは今までの買取価格からすれば、多少ではあるが高めの値段であり、族長が反応したのはその為だ。

 族長はクロース領を中心に、蜂蜜の価格が僅かに値上がっている事を知らない。であれば、ここで安く買い叩くのも1つの手ではあるが、優斗はあえてそうしなかった。


 最初に良い印象を付けると言う優斗の作戦は、一歩間違えれば侮られ、他の商品でごねられる可能性が高くなる。今回、それを承知でこの手を打ったのは、昨今の凶作と、最近、この集落に向かう行商人が居ないと言う情報を得ていたからだ。


 税は基本的に、取り立てに来る者がおり、彼らも持てる荷物には限界がある。故に、大きな物で税を納められると、一度街に戻るなどの対処が必要になる為、安く見積もられがちだ。その点、貨幣であればあまり嵩張らず、役人にも良い印象が与えられる。特産品がある村ではそちらの方が良い場合もあるが、この集落にはそれが存在しないので、貨幣がベストであると言える。


「その他の物に関してですが、合せてこのくらいでいかがでしょうか?」

「む。しばし待て」

 族長は避けられた商品と優斗から差し出された紙を見比べながら、考え始める。


 優斗はその姿を見つめながら、内心ほくそ笑む。

 荷馬車に荷物が乗り切らないと言うのは、半分真実で半分嘘だ。全てを乗せる事は難しいが、避けた品の大半を乗せられるくらいのスペースはある。


「実は、もうすぐ税の徴収が来る」

「ほう、そうなのですか」

「今年は凶作で、村の貯えで食糧を買ってしまってな」

「それで、色々と山で採取されたのですね」

「その通りだ」

 族長が言わんとする言葉の意味を、優斗は瞬時に理解する。


 役人は現物で納めた場合、かなり安く見積もる。それでは集落で食べる物まで持っていかれる可能性があるので、多少安値であっても、避けた商品を買い取って貰いたいのだ。


「どの程度の金額をお望みですか?」

「いや、それは」

「荷台にはまったく余裕がない訳ではありませんが、どの商品を積んでも同じ金額になる訳ではありません」

 族長は優斗を睨みつけ、しかしすぐに何かを思いついたのか、視線を商品に向ける。


 その行動に次の言葉が予想出来た優斗は、にこやかに、そしてやんわりと口を開き、言葉を紡ぐ。


「これら全てをこの価格で買い取らせて頂けるのでしたら、追加で他の物を購入する事も、吝かではありません」

「くっ」

 優斗としては、交渉役やお抱えの商人を雇えない様な小さな集落であまりに無茶な商売をする気はない。


 族長の反応に、下準備としてはこれで十分だろうと判断した優斗は、更にもう1枚の紙を取り出し、幾つかの品名を書いて族長の前に紙を差し出す。


「これは何だ?」

「私が持っております、商品の目録です。

 その値で買い取って頂けるのであれば、そこにある全ての商品を買い取らせて頂きます。この値段で」


 そう言って、優斗は端に書いた数字を丸で囲む。

 優斗が提示したのは、この集落が払っているであろう、税よりも額面が少し大きい。小さな集落がどの程度の税を支払うのか、優斗自身は知らなかった。だが、同じく地方の村出身であり、村長の娘でもあるフレイは、領の違いによる誤差はあれど、大よその額を知っているので、予想する事くらいは出来た。


「まだしばらく滞在する予定ですので、ゆっくりと考えて下さい」

「そうか。そうさせて貰う」

「あ、蜂蜜だけ先に買い取らせて頂いても構いませんか?」

「もちろんだ」

 実行するかは別にして、滞在中に税の徴収が来ればもっと吹っかけられそうだな、と考えながら優斗は族長の家を後にする。


 昼食を作る為にやって来た女性が、昨日の人よりも少しだけ若い人に変わっていた事に様々な意図を感じた優斗だったが、当然何事もなく、夕方にユーリスが戻るまで、フレイとのんびりと過ごした。




 空が暗くなり始めた頃、宣言通りユーリスが戻って来た。


「優斗さん……」

「ダメだったか」

 偏屈な薬師、と聞いた優斗は、ユーリスに様々な助言をしていた。


 その中に、何度も断られたら一度引く事が入っており、彼女はそれに従い、しぶしぶと山を降りた。


「小屋の扉すら開けてくれないなんて……」

「難敵だなぁ」

「明日、もう一回行って来ます!」

「その前に、情報を整理しよう」

 優斗の質問に答えていくユーリス。しかし、彼女が得た情報は少ない。


 まず、住んでいる小屋の詳細な位置。1人で済んでいるらしいと言う事。人に会うのが嫌いらしいと言う事。

 逆に、性別から年齢まで、個人情報はまったく不明だ。声も扉越しのくぐもった声では正確に判別出来なかった、と言う事だ。


「お金や贈り物にも全然興味なさそうでした……」

「家族もいないとなると、外堀を埋めるのも難しいか」

 肩を落とすユーリスを慰めるように、フレイが背中を撫でる。


 その優しい行動と手つきとは裏腹に、優斗に向けられている視線は、とても冷たい。


「次は俺が行って見るから、フレイの護衛、頼める?」

「えっ、そんな」

「女だからダメだった可能性もあるし」

 どうあがいても覆せない原因を指摘され、ユーリスが黙り込む。


「山歩きは一応経験あるから大丈夫」

「かなり遠いから、朝から出てもその日の内に帰っては来れないですけど」

「山の中での野宿も、した事あるから平気。それに上手くいけば、薬師さんの小屋に泊まれるだろうし」

 優斗はそう言いながら、小屋の近くで野宿すれば獣も出にくいかもしれないと思い付く。


 渋るユーリスを言いくるめ、優斗は出発を明日の早朝と決める。

 ユーリスを説得する間、フレイはどちらの味方もしなかったし、ついて行くとも言わなかった。後者に関しては、優斗が先手を打って釘を刺していた事もあり、かなり不満そうではあった。



 早くに眠った優斗は、日が上る前に置きだし、日の出と共にフレイに見送られて山へ向かう。


「くれぐれも無茶はしないでくださいね」

「わかってる」

「こっちがお昼用で、こっちが夕食用です。持ちが違うので、間違えないでくださいね」

「わかってるって」

「遭難した時は――」

「いや、もういいから」

「むぅ」

 拗ねるフレイ。


 容姿に合いすぎな子供っぽい仕草。

 その姿からは、優斗を誘惑する際に生じる色気や、コケティッシュな魅力の片鱗すら見つける事が出来ない。


「きちんと戻って来たら、ね?」

 一転、今度は悪戯っぽく微笑むフレイ。


 そんな彼女の頭に手をやり、がしがしと髪を掻き回した優斗は「いってきます」と告げると、振り返らずに山へと入る。

 背後から聞こえる「いってらっしゃい」の声ににやけそうになる顔と心を引き締めて、優斗は久しぶりの山登りをする為に、前進する。



 日が沈む少し前に、優斗はその小屋の前に到着した。

 昼前に出て、同じ様な時間に到着したと言うユーリスの言葉を思出し、溜息を吐いてから、扉を叩く。


「返事がない。すいませーん」

 再度扉を叩き、反応が無い事を確かめると扉に耳をあてて目を瞑る。


 音がしない事を確認し、目を開けた瞬間、フード付きのローブ姿と言う人影が、飛び込んで来た。


「えーっと、私は怪しい者ではなく、いえ、行動が怪しいのは十分承知しているのですが」

 扉に耳をあてたまま、優斗は弁解を始める。


「実は、ここに住む薬師様に折り入って頼みがありまして。その、貴方がその薬師様でしょうか?」

「ん」

 肯定とも否定とも取れる声と共に、フードの人物が視線で扉を示す。


 そこでようやく自分の体勢を思い出した優斗が扉から離れると、フードの人物は扉を開け、あっさりと優斗を中へと招き入れる。


「私は、行商人の優斗と申します」

「貴方、この世界の人じゃないね?」

 予想外の言葉に、優斗の表情が凍りつく。


 優斗の視線が釘付けになっている中、目の前の人物はゆっくりとした動作でローブのフードを取り去った。

偏屈と噂の薬師さんが登場です。


そして優斗くんの現代機械再現は、今回は失敗に終わりました。

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