嘘と真実
作業の邪魔になると応接室へ移動させられた優斗は、ユーシア兄妹の正面に置かれた椅子に腰かけた。
「俺は商人じゃないんでな。面倒な交渉は好かん」
「はぁ」
相変わらず隣で兄の袖を掴んでいるクシャーナに、何か声をかけるべきかと悩んだが、今は自分の事を優先、と雑念を追い払う。
「お前が何か隠しているのは判っている。こいつは審判の恵みを得ているから、嘘は通じん」
「審判の恵み、ですか」
「世界の恵みの中でも、それなりに珍しい部類だからな。聞いた事がないか?」
嘘をついても仕方がないので、優斗は正直に頷いておく。
「まぁ、我が妹は相手の瞳を覗き込みながらでないと判断出来ないから、そんなに強くはない」
「なるほど。避けるのは難しくなさそうですね」
でも今はやらない方がいいな、と優斗は考えた。避ければ疑われ、同じ様な質問を重ねられて根掘り葉掘り確認される事になるだろう。その為のネタばらしと言う訳だ。
「も、もー。お兄様、なんでばらしちゃうんですか!」
今まで大人しく座っていたクシャーナの反応に、優斗は余り驚かなかった。
「お前の猫かぶりが余りにも愉快だったんで、つい、な」
「猫かぶりじゃないです。私は淑女だから、あれが普通なんだもん」
「口調を変え、わざわざ小難しい言葉を選んで使うのが猫かぶりでないと?」
「成長しただけだもん!」
「いい感じに地が出て来たな」
「っは!?」
慌てて口を押さえるが、もう遅い。優斗はばっちり、彼女本来の姿を見てしまった。
これはこれで子供らしくて可愛らしいな、と思いながら、微笑ましい兄妹のやりとりを見つめていた優斗は、クシャーナに向けて笑いかけつつ声をかける。
「今までの方も悪くないけど、今の方が可愛いと思うよ?」
「う。でも、子供っぽいですし」
「子供っぽいっていうか、子供なんだからそれでいいと思うけど」
優斗の言葉に、クシャーナは、え、と言う声と共に固まる。ルエインは何故か大爆笑していた。
「子供、ですか」
「自分は10歳の子供だって言ったのはクーナでしょ?」
「確かに言いましたけど。いえ、それは。でも」
納得がいかないらしいクシャーナ。そんな彼女の姿に、優斗はルエインと顔を見合わせ、釣られて笑いだす。
「もー。お兄様も優斗様もひどいです」
「悪い悪い」
「よく判らないけど、ごめん」
腕を組み、頬を膨らませるクシャーナの姿に、再度浮かんできた笑いの気配をかみ殺しながら、優斗は再びルエインと向かい合う。
「それで、私はどうなるのでしょうか?」
「お前の考えていた方法を買ってやるから、全部話せ」
「おっしゃっている事の意味が分かりかねます」
「クーナ」
「嘘です」
クシャーナが敵に回った事を少し残念に思いながら、優斗は緩んでいた気を張り直す。
「お前はあの機械の改善方法を知っている。そうだな?」
「そんな事はありません」
「真実です」
ルエインが眉をひそめる。クシャーナの方を向いて再度確認するが、首を横に振られ、激しく瞬きを繰り返す。
調べるあてがあるだけで、実際にはまだ知らないし、確実にあるとも言えないので、実際に嘘ではない。こういう場合も真実だと認識されるのだと判った優斗は、なんとか言い逃れる方法を探して頭を働かせる。
「知っている人間に心当たりがあるのか?」
「ありません」
「真実です」
眉間にしわを寄せながら、ルエインは更に質問を浴びせ続ける。
「書いてある書物に心当たりがあるのか?」
「ありません」
「真実です」
「布地自体を高く売る方法を知っているのか」
「知りません」
「真実です」
「ちっ。クシャーナ、お前も何か聞け」
「はい、お兄様」
クシャーナはルエインの袖から手を離すと、真っ直ぐな眼差しで優斗を射抜く。
「では、優斗様。優斗様であれば、我が家の財政難を解決する事が出来ますか?」
ルエインとは違うおおざっぱな質問に、優斗は内心、狼狽する。
財政難の解決は、たぶん可能だ。優斗が今持っている知識だけでも、蒸気機関や、それに伴う産業のオートメーション化で売り上げを伸ばし、小さな産業革命を起こす事が可能だ。もちろん職人や技術者達の協力と、ある程度の予算を得る事が大前提だが、曲がりなりにも貴族の家なのだから、そのくらいは揃うだろう。
さんざん悩んだ結果、優斗はイエスと答える事にした。クシャーナにすぐバレる嘘吐くのは忍びなかったし、仮にこの場を凌いでルエインから逃げ出したとしても、すぐに捕まるのは目に見えている。ここは彼の父親の領地で、しかも館にはフレイを残したままなのだ。
「私に全てを任せてくださるのならば、可能です」
「真実、です」
「ふん。喰えないヤツめ」
ようやく出たルエインの求める言葉に、しかし彼はあまり嬉しそうではなかった。
交渉中にも関わらず、優斗はため息を吐く。嘘もはったりも通じない事が、これほど不便だとは思っても見なかった。
「厄介なギフトですね」
「だろう? おかげで才能のない俺でも交渉の真似事が出来る」
そう話すルエインは、どこか誇らしげだ。どうやら兄妹間の関係は良好らしい。
優斗はそんな風に考えながら、厄介なコンビにどう言い訳するかの、算段を開始する。
「正直に申しますと、私自身はその方法を知らないのです」
「嘘です」
「言い方を間違えました。どういった方法で行うのが最適か、判断出来ていないのです」
「真実です」
儲けの見込める商売方法、もしくは技術か知識のどれかを持っているのだと予想していたルエインは、その言葉に軌道修正をせざるを得なかった。
ルエインは、優斗の言葉の意味として2通りの可能性を考えた。自分で方法を開発するつもりか、複数の方法を所持しているか、だ。
「お前は学者か何かなのか?」
「学者ではありませんが、学徒ではあります」
「ほお、そうなのか」
この世界で学徒と言えば、師を取って、師の知識を伝授される者の事で、そのほとんどが教会関係者か、貴族の子弟だ。
これはとんだ拾いものだ、と考えたルエインの口元に、人の悪い笑みが浮かぶ。
「実はな、商人殿。先ほど、私の元に報告が来たのだ」
話の繋がりが判らず、優斗は居住まいを正してルエインの言葉に耳を傾ける。
「うちの者に、門兵のところへ行って商人殿がやって来たら丁重に館まで案内しろと伝える様、命じたんだが、どうしてか、それが街の門兵にまで届いてしまってな」
どうだ、とばかりにルエインは優斗に視線を送る。言葉の意味と視線の真意が理解できず、優斗は困惑する。
「まぁ、撤回すればいいだけなのだが。それも面倒だなぁと思っていたところだ」
優斗は戸惑う心を必死に静め、頭の中で情報を咀嚼し、整理する。
門まで来たら館へ案内してくれる。これは問題ない。街の門で同じ事が起こると言う事は、そこから領主の館へ連行される、と言う事だろう。街に到着したらまず館を訪ねないとならないのは不便だが。
「っあ」
「ようやく気付いたか。まぁ、気づけただけでも中々のものだ」
門から館に連行される。それは即ち、街の外へ出られないと言う事だ。
街から出られない人間と言うのは、多くはないが少なくもない事を優斗は知っている。
希少なギフトを持つ者は、他国や他の領地へ移動されては不利益となる。特別な技術を持つ職人達も、同じ理由で街から出るには許可が必要な場合もある。
「残念だったな。我がユーシア領は貧乏なんでな。稼げる手段があるのなら、手間と面倒を惜しむ気はない」
その迫力に気圧されながら、優斗は完全に手詰まりである事を理解する。
「クーナ、嘘の時だけ教えろ。商人、お前は貴族なのか?」
「違います」
「では、教会関係者か?」
「違います」
身分に関する質問が続き、優斗は心臓が早鐘を打っているのを自覚する。
もし、彼が「商人か」と聞き、イエスと答えたらどうなるのか、優斗にも予想がつかない。
「では、商会に所属しているのか?」
「していません」
質問の意図が理解できなかったが、予想と違う質問に優斗は安堵した。
ルエインがそれを確認した理由は、大資本で圧力をかけられれば、この領地の財政など軽く吹き飛ばされてしまうからだ。商会と言うのは助け合いの意識が強い。優斗が大きな商会に所属していた場合、そこに助けを求められると厄介な事になる。
「あの、お兄様」
「なんだ、クーナ」
「優斗様はお父様を助けてくださいました。あまり無茶な事は……」
「ほぉ」
にやにやと笑いながら、ルエインはクシャーナの額をつついた。
「実はな、クーナ。俺はあいつを雇おうと思う」
「え?」
「へ?」
2人の反応に、ルエインは声を上げて笑った。
「しかも、お前付きとして」
「えぇぇえぇ!?」
「はい?」
話に着いていけない優斗は、ただひたすらクエッションマークを頭に浮かべ続ける。
このまま流されるのはマズい。直感的にそう感じた優斗は、頭に浮かんでいる全ての疑問を一時追い出し、今必要な情報だけをより分け始める。
「元々、そのうち対外交渉役をお前に任せるつもりだったんでな。折角有利なギフトがあるんだ、利用するに越した事はない」
「それはそうですけど。あ、それで私にあんな本がたくさん届いたのですね」
「お前の性格だ。全部読んだんだろう?」
「はい。ただ、理解している訳ではありませんけど」
「十分だ。交渉の矢面にはソイツを立たせればいい。交渉は得意そうだからな」
目の前で行われている会話の内容も加味しながら、優斗はなんとか自分に関する部分だけを抜出し、思考をまとめ始める。
雇われる、と言う事は給料が出る。給料が出れば生活が出来る。自分が行商をしているのは、あくまで生活基盤を確保する為であって、行商自体はその方法の1つに過ぎない。
この話、実は美味しいんじゃないだろうか。そう考え始めた優斗は、もう一度深呼吸をする。
「商人」
「はうぃ」
深呼吸の直後に声をかけられた優斗は、焦りから声が裏返る。
それでも少し平静を取り戻していた優斗は、確認すべき事項を頭に浮かべ、口に出していく。
「本気ですか?」
「もちろんだ」
「間違えました。正気ですか?」
「人の正気を疑うとは、失礼なヤツだな」
「昨日今日会ったばかりの男を妹付きとして雇う人間が、正気とは思えません」
「普通ならそうだな。だが、審判のギフトを持つ我が妹に気に入られる人間ならば、十分信用に値する」
どうやら本当に雇うつもりらしいと言う事と、それなりに思惑があるらしい事が確認出来た優斗は、ならば条件面次第だな、と思考を切り替える。
「給与はどのくらいでしょう」
「お、ようやくその気になったか。
そうだな。住み込みでよければ衣食住は保障しよう。給与は銀貨20枚程度でどうだ?」
銀貨20枚あれば、宿賃込で20日、食費だけなら2か月近く生活できる計算だ。
これはあくまで優斗の感覚であり、こちらの感覚で言えば、食費はもっと安くなる。優斗は1日に3食摂るが、こちらでは貴族やお金持ちを除けば、1日2食が普通だ。食事の回数が多い事を喜んだフレイが指摘しなかった為、優斗はそれを知らない。
「それは、っと」
「ほう、気づいたか」
「はい。何銀貨か、教えて頂けますよね?」
先ほどの計算は、公国銀貨である事を前提としている。
これが王国銀貨ならば価値は6分の1以下になるし、偽王国銀貨ならば更にその半分以下になる。帝国銀貨については、優斗は相場を知らない。
「実は公国銀貨20枚は出せない」
「思いっきり騙そうとした訳ですね」
「衣食住込みなら十分破格だ」
「否定はしません」
優斗は、こっちに来てからの出費は、税を除けばほぼ衣食住だけだったな、と思い出す。菓子などの嗜好品を食に当てはめるのは間違っているのだが、優斗は気づかない。
「賃金の話をすると言う事は、雇われる気になったと思っていいのか?」
「嫌だといったら、素直に解放してくれますか?」
「うちはそれなりに領民の評判もいいからな。領主の願いを断ったと噂になれば、肩身は狭いだろうなぁ」
あんたは領主じゃないだろう、と思いながらもその状況を想像してみる。
街から出られず、領民からは冷たい視線を受け、まともな職にも就けない。これはもう、立派な脅しではないか、と優斗は頭を抱えたくなった。
「仕事内容も知りたいですね。具体的には、何をすればいいんですか?」
「引き受ける気になったんだな?」
「話を聞いてから考えます」
ルエインのしつこさに、最悪、ロード商会に相談して脱出方法を考えよう、と思いながら優斗は、強気で行くぞと胸を張る。
「何、そんなに難しい事ではない。
まず、我が領の財政難をなんとかしてくれ。方法は問わない。
次に、クシャーナと共に対外交渉を担当して貰う。貴族相手は領主か次期当主が出る必要があるから、お前たちが担当するのはその代理人か、街商人だ」
「十分めんどくさそうなのですが」
「クーナのギフトがあれば、俺にでも出来る事だ。それに対抗出来たお前が出来ない訳がないだろう?」
「財政難をなんとかする方は、かなり難易度が高いと思うのですが」
「お前には何か秘策があるのだろう?」
「無茶苦茶な方法で、むしろ悪化する可能性もあると思うんですけど」
実際、改革には失敗が付き物だと優斗は思っている。失敗するだけの余力がなければ、成功する事が一層難しくなる。
「その辺りはクーナが判断する。一応、お前の上役だからな」
「私がですか?」
「あぁ。と、言っても何でも1人で決める必要はない。俺に相談したり、報告書を流してくれれば、こちらでも検討する
間違っても他のヤツには相談するなよ?」
ルエインの言葉に、クシャーナが苦笑いを浮かべる。
どう言う意味だろう、と優斗が不思議そうにしていると、クシャーナが説明をしてくれた。
「我が家は代々、騎士の家系で、一族のほとんどが騎士団に所属しています」
「脳まで筋肉の集団だからな。あてにならん」
「お兄様」
咎める口調のクシャーナに、ルエインは悪びれなく「はいはい」と返事をしてから優斗を見据える。
「領主からして財政の事は、騎士団の人員増員費用と装備の購入費を増やせ、くらいしか言わないところだ。好き勝手にやれるぞ?」
「それは魅力的ですね」
「だろう?」
好きな事をして給料が貰え、衣食住が保障される。これ以上の環境は、きっとない。
最初に経済方面だけどうにかすれば。解決するには何が必要か。元資金を最速で得るには。どこまでのレベルならば作成可能なのか。
「何か条件があれば聞くぞ?」
ルエインの言葉に、優斗は思考の海から浮上する。
実際に優斗が財政改革を行うとすれば、単純に収入を増やす方針で行う事になるだろう。支出に関しては貴族の仕来たりや長年の付き合いで、等と言う部分が理解出来ないので、絞っていくにしても専門の知識がある人間に委託する方が効率が良い。
そうであるならば、この国に現存しない技術や知識で生産量を増やしたり、新しい物を開発、と言う名目で何かを作成して行く事になる。その利益は、きっと莫大な物になるだろう。
「そうですね。報酬は歩合制にして貰えませんか」
「歩合制、とはなんだ?」
聞きなれないのか、それとも歩合制自体存在しないのか。後者ならば面倒だな、と優斗は思った。
「私が成した利益に応じて報酬を受け取る、と言う事です。
例えば、去年の売り上げよりも金貨10枚増やせたら、報酬はその1割の金貨1枚、と言う感じです」
「出来高払いか。どうやら相当自信があるようだな」
そう言う言い方もあるな、と思いながら、形式が存在した事に優斗は安堵する。
利益が莫大ならば、固定給よりもそちらの方が都合が良い。だから優斗は、概念がなければ説明してでもこちらにして貰うつもりだった。
「だが、一割は多すぎる」
「あくまで例え話です。割合は後で話し合うとして、どうです。出来高払い」
「衣食住完備、基本給0の出来高払いでどうだ」
「基本給0は酷くないですか?」
「自信があるのだろう?」
「そうですね。では、その分だけ出来高払いの取り分を多くして貰う事にします」
「それは困るな。何か希望があれば聞くから、他の条件を考えておけ」
「わかりました」
この短い間に優斗が雇われる事が決まってしまった事に、最も驚いたのはクシャーナだった。
「えっと、お兄様。本気ですか?」
「それは商人。いや、ユートにも聞かれたぞ」
「それに、私を対外交渉役にしようと言うのも」
「俺がこの家で頼れるのはお前だけだからな。色々な意味で」
意味深な会話に口を出すことも憚れた優斗は、居住まいを正して2人を見据える。
「……わかりました。対外交渉役、謹んでお引き受け致します」
「だ、そうだユート。我が妹をよろしく頼むぞ」
「了解しました」
優斗の即答に、ルエインは嬉しそうに微笑み、すぐにその口元を意地の悪いそれへと変化させた。
「大きな手柄を立てたら、ソイツを嫁にやろう」
「へ?」
「それは遠慮しときます」
年齢差11もあるしなぁ、と思いながら、クシャーナにも同意を取ろうと視線を送る。
しかし、優斗の予想とは裏腹に、クシャーナの顔には苦笑も怒りも、はたまた羞恥も浮かんでおらず、ぽかん口を開いたまま固まっていた。
「おいおいユート。つい先ほど好きだと言った相手との結婚を、即答で拒否するのは如何な物かと思うぞ?」
「そう言われましても、年の差11は離れすぎでしょう。クーナが可愛そうですよ」
その言葉を受け、サバを読みすぎだと笑うルエインの表情が、クシャーナの方を見たとたん、固まる。
優斗は完全に失念しているが、彼の外見年齢は、フレイ曰く10代半ばなのである。普通に考えれば、年の差は5つ程度で、貴族の結婚ならば珍しくもない年齢差だ。
「クー、ナ?」
「真実、みたい、です」
さすがに驚きすぎだろうと思いながら、優斗はひたすら苦笑し続ける。
数分後、なんとか正気を取り戻した2人は、口ぐちに年齢の数え方について説明を始めた。そして、優斗が本当に21年を過ごして来た人間だと納得するまで、かなりの時間を要する事となった。
「うーん。でも、まぁ。そのくらいの年齢差の妾を娶っている男もいるし、いいんじゃないか?」
「えっと、その。私は別に」
「特殊な趣味の話はおいといて、俺はルエイン様がそこまで押す意図が気になるんだけど」
延々と説明をさせられ、段々交渉口調が面倒になって来た優斗の言葉遣いに、ルエインは特に何も指摘せず返答を返す。
「まず、お前が本当に有能ならここに留めておきたい」
「クーナ」
「真実です」
条件反射で出た言葉に、クシャーナは口を押えた。
「それに、クーナも嫁にやりたくないんでな。嫁がれるより、婿をとって欲しい」
「兄馬鹿?」
「違う、とは言わんが、もっと実利的な意味もある。機会があったら俺たちの姉の話を聞かせてやろう」
「なるほど。シスコンな訳だ」
「シスコン?」
「姉や妹が好きすぎる人の事」
「否定はしないが。姉は今では尊敬しているし、妹は可愛いからな」
ダメだこの人、と思いながら、さすがに無礼な事を言い過ぎたなと反省した優斗は、口調を元に戻す事にした。
「では、ルエイン様。雇用契約につきましては後日、詳細を話し合うと言う事でよろしいでしょうか」
「構わない」
「ところでクーナ。ご褒美を物品で貰う件、行商が続けられないから撤回していい?」
「そういえば、その為にここに来たんでしたね」
結局、クシャーナからのご褒美は保留となり、この場は解散となった。彼女の下で働きだしてから、何かしら優遇して貰う方向で話を進めようと考えながら、優斗は館に向かって荷馬車を進めた。何故か、ルエインも乗せて。
相変わらず行商から離れ安い行商譚でした。
ユーシア家の方々(主に男性陣)の出番をもっと増やしたいのですが、話が脱線し、冗長になりそうなので考え中です。