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異世界行商譚  作者: あさ
甘い話
13/90

竜神の加護

 荷物を満載にした荷馬車を受け取り、荷揚げ場を出た優斗たちを待っていたのはハリスだった。


「ハリスさん、色々とお世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ」

 馬車の上から簡単なあいさつを交わした優斗は、後ろから次が来ている事を確認して、早々に手綱を引く。


「では、ハリスさん。縁がありましたらまた」

「はい。その時はよろしくお願いします。

 貴方の旅路に竜神様の加護がありますように」


 ハリスに見送られた優斗は、そのまま町の外へと向う。

 街を出て少し行った所で、優斗は荷台のフレイに声をかけた。


「フレイ、聞きたいことがあるんだけど」

「街を出てから聞くと言う事は、聞きづらい事ですか?」

 察しのいいフレイに、その通り、と返しながら、優斗はフレイが来るのを待った。


 フレイが御者台の隣に座ったのを確認して、視線は前方に向けたままで質問を開始する。


「ハリスさんの言ってたのは、旅立つ人へのあいさつか何か?」

「そんな感じです。竜神様のご加護がありますように、って言うのはありふれたフレーズです」

 優斗は、なるほど、と納得しながら次の疑問を口にする。


「じゃあ、竜神様って何?」

「……さすがに冗談ですよね?」

 どうやらかなり常識的な事を聞いてしまったらしい。優斗はそう思いながらも、常識的であろうとも、むしろ常識的であるからこそ聞いておかなければと先を促す。


「竜神様は竜神様です。説明できる事は……一番すごい神様です、くらいでしょうか」

 日本で言うところのアマテラスみたいなものかな、と考えた優斗は、新たに湧いた疑問を解消すべく、口を開く。


「一番って事は二番目もいるの?」

「誰が二番目かは知りませんけど、神である竜族はそれぞれ役割があるので、ある意味で竜神様の下にいると言えるかもしれません」

「えーと、ちょっと整理させて」

 こんがらがる頭を整理し、質問に必要な情報を抜出してから、優斗は質問を再開する。


「竜神様は竜の神様なの?」

「はい。一番偉い竜が、竜神様です」

「神と竜は同じ意味だと考えていいのかな?」

「そうですよ。私のギフトは天の神である天竜様の欠片です」

 なんとか竜=なんとか神。そんな等式を思い浮かべながら、優斗はこの世界の宗教が、竜と言う偶像を崇める偶像崇拝的なモノなのだと解釈した。


 他にどんな種類の竜=神がいるのだろう。それを知れば他のギフトも予想がつくかもしれないと考えた優斗は、フレイにその疑問をぶつけた。


「私が知る限りでは、炎竜様、氷竜様、天竜様がいます」

「ふーむ。って、あれ?」

 優斗がひっかかったのは、服飾店の店員のギフトだ。彼女のギフトは、土の精霊の欠片だったはずだ。


「土の竜はいないの? あと、ギフトに出てくる精霊とか妖精は何?」

「土は聞いた事がありません。基本的に大地に関するものは世界の欠片ですし」

「天は違うんだ?」

「世界とは大地の事ですよね? その上にあるものを作ったのが神様です」

 世界は神が作った、と言われると思っていた優斗は少し驚いた。その上で、この世界の宗教では大地は作られるものではなく、そこにあるものだと言う認識なのかもしれない、と予想を立てる。


「精霊と妖精は、ギフトの能力を表す言葉ですね。おおざっぱに言えば、精霊は生み出し、妖精は操作する、と言う意味です」

「ふむふむ。ちなみに神様に会うとか、話をするとか、そういう事をした人の逸話はないの?」

「徳の高い人や、気に入られた人は会えるそうです」

 宗教的だなぁ、と思いながら優斗は、これに深入りしない方針を決める。


 宗教に深くかかわると碌な頃が無いのは、現代日本でも常識だ。全ての宗教を否定する気はないが、信心の無い人間にとってはまさに、触らぬ神に祟りなし、なのだ。


「ありがと。大体わかった」

「ご主人様は本当に足りませんねぇ。色々と」

 年上だと判明した後でも、フレイの態度が変わらない事に優斗は内心で苦笑していた。それが地なのか、単なる意地なのか。どちらにしても、行動が子供っぽい。


「そんなご主人様を支えるためにも、私は寝ます。おやすみなさい」

「何故に」

 優斗の質問を無視したフレイは、荷台へと戻ってホロを完全に閉めきってしまった。


 どうすべきか、と悩んだ優斗だが、女性が閉じこもった場所へ踏み込むのも戸惑われ、遅い昼食を摂る時間まで一人さみしく御者台の上に座り続ける事となった。




 異世界生活に慣れ始めた優斗は、フレイの存在もあり、当初と比べ、かなり不安が払拭されつつあった。しかし、不安が減った分、不満が募り始めていた。


「1日荷馬車の上はしんどい。疲れたから甘い物食べたい。携行食マズい。カップめん食べたい。コンビニ弁当でもいいけど」

 現在優斗は、夕食の準備をしてくれているフレイに頼まれ、1人薪替わりの木の枝を探していた。


 フレイの前でなら強がっている事も出来た優斗だが、人目がない事もあり、溜まっていたストレスを吐き出すように思考が愚痴となってダダ漏れになっていた。


「さっさと金貯めて、計画を実行に移さないとな」

 優斗の言う、計画、とはこうだ。


 ある程度行商でお金を貯める。

 行商中に見繕った良さげな街で、現代の知識を使って何かを始める。無理ならば店を構える。

 ある程度の生活基盤を確保出来れば、定住する。


 おおざっぱではあるが、中世程度の技術レベルならば、パソコン内の情報でも産業革命レベルの何かが出来るだろと高をくくっていた。店を構えるにしても、初期資金を稼ぐ程に行商をしていれば、そのノウハウとフレイと言う格安で使える相方がいれば、普通よりは成功率が高いだろう、と楽観視している。


 実際のところ、前者は貴族か大きな商会へのコネが無ければ一生暮らせるレベルのお金は手に入らないし、後者はそんな簡単に行く訳がないのだが、その辺りは行商をしながら軌道修正をする予定だとして深く考えずにいた。


「フレイが居てくれるだけまし、なんだろうなぁ」

 かなり年下だとわかり、タメ口や呼び捨てにも抵抗が少なくなって来た事もあって大分気が楽になったし、と思いながら優斗は木の枝を抱えてフレイの元へ戻る。


「こんなもんでいい?」

「もう少しお願いします」

 その後、3回に渡って森の中で乾いた木切れを探し回った優斗は、昼間の疲れもあってほとんど言葉を発さずに食事を終えた。


 夕食後、明日も早いですからさっさと寝てくださいね、と言われた優斗は、荷馬車から2人分の毛布を取り出した。


「フレイはまた荷馬車で寝るんだろ?」

 昼まで寝ていた事への嫌味も込めて、また、と告げた優斗をちらりと見たフレイは、手元にある木の枝を炎の中に放り込んでから、毛布を受け取った。


「私は火の番をします」

「火の番?」

「森の夜は危ないですし」

 きょとんとしている優斗に、フレイはくすりと笑いかける。


 そこでようやく、彼女の意図に気づく。

 すぐに森を抜けたアロエナまでの道中と違い、今回は森の中での野宿だ。そして森には動物がいる。動物を避けるには、火を絶やさない事が一番だと言う事くらい、優斗も知っている。


「それとも、添い寝が必要ですか?」

「それはいらない」

 笑顔から一転、不満そうな表情のフレイに、優斗は全力で謝罪した。心の中で。


 彼女が昼まで眠っていたのは、森の中で野宿をする事の意味を、優斗よりも深く理解していたからだ。そして、疲れ切った彼に木を拾いに行かせたのは、そうしなければ命が危ういと知っていたから。


 優斗の猛省を知ってか知らずか、フレイは不機嫌そうに頬を膨らませながら、再度炎の中に木の枝を投入した。


「……火の番、途中で変わるから」

「ずっと御者台にいたんですから、お疲れでしょう? ゆっくり休んでください。

 あ、私の寝床、使ってもいいですよ」

 フレイの言葉に、やはり俺は恵まれているな、と思いながら、優斗はその言葉に甘えて、荷台にある干し草の塊へと倒れこんだ。







 日が昇る頃に起こされた優斗は、1人で簡単な朝食を済ませた。フレイは準備だけしてから、早々に寝床へと向かった。


 寝床へ向かう際、「ご主人様のにおいをたっぷり堪能してきますね」と言われたせいで、既に眠気は吹き飛んでいる。


 昼まで荷馬車を走らせ、遅めの昼食をフレイと摂る、と言う前日と同じパターンを終えた優斗は、隣に座るフレイと雑談に花を咲かせていた。


「明日の夕方には小さな村に着くんですよね」

「予定通りなら」

 予定と言えば、当初、優斗は村での滞在は1日だけのつもりだったのだが、今は2~3日滞在しようかと考え直していた。


 それは予想以上に疲れている自分の体力が限界に達する前に、きちんとした休息を取るべきだと言う理由だった。それに、夜通し起きていると言う負担をかけているフレイにも、休息が必要だ。


「小さな村だと、宿があるか心配ですね」

「行商路にしてた人の話だと、街道の中継地として機能してるから、宿はあるらしい」

 数年前までユーシアに行商に出かけていた商人の話を聞けたのは、本当に幸運だった。偶然同じ宿だったその商人は、今は西の方を回っているらしく、少しだけ西の方の話も聞く事が出来た。


「そういえば宿ってどうやって選ぶの?」

「私に聞かれても困るんですけど」

 宿なんて取ったことないですし、と告げるフレイの言葉は、優斗にとって予想外のものだった。


「じゃあ、なんで納屋の大きな宿を選べ、なんていったの?」


「あー。あれですか」

 ばつの悪そうな表情のフレイは、少し悩んでからしぶしぶ口を開く。


「私って奴隷じゃないですか?」

「にしては、態度が大きいけどね」

「それはご主人様の変態的な要望に応えた結果なのでおいといて」

「おいとくな! 人を変態扱いしといて」

「まぁまぁ。で、奴隷な私はもちろん、納屋で眠る事になるだろうと思った訳です」


 あー、と唸りながら、優斗はあの時の状況を思い出す。

 フレイは売られる気だった。ならば、すぐに売られて別れる相手の財布を心配するよりも、少しでも自分の身の安全を確保出来る様に、そして多少でも快適に過ごせるように誘導する方が良かったに決まっている。


「あの時はまさか、部屋に連れ込まれて慰み者にされるなんて思いもしませんでした」

「誰が、誰に、何をしたって?」

「ご主人様が、奴隷に、侍女プレイを強要しました。そして悦に浸って……」

 きゃー、と声を上げたフレイは、両手で顔を隠した。傍から見れば羞恥で染まった顔を隠しているか、泣き顔を隠している様に見える。


 それが笑いをこらえていると判っている優斗は、後頭部に軽くチョップを入れてから前に向き直った。

ギフトに続いて神様について。

宗教観は人それぞれだと思いますので、深く考えないで貰えるとありがたいです。

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