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異世界行商譚  作者: あさ
甘い話
11/90

神様からの贈り物

 買い出しを終えた2人は、宿に戻っていた。


 優斗が椅子、フレイがベッドと言ういつの間にか逆になっていた定位置につくと、優斗はジュラルミンケースからパソコンを取り出した。


 このノートパソコンは優斗が異世界からの来訪者である事の証明であり、見つかれば身に危険を及ぼす可能性がある。それでも手放さないのは、精神の安定を図る為だ。


 優斗は自分がこことは違う世界の人間だと知っている。しかし、それを証明出来るものは、実は存在しない。目の前のパソコンも、ジュラルミンケースも、有力な証拠だがこの世界で作れないとは言い切れないのだ。


 もちろん、記憶なんて曖昧な物が証拠になどなるはずがない。自分以外の全てがおかしいと言うのは、自分がおかしいと言う事であり、自分しか知らない突飛な事実は、基本的に空想だ、と優斗は知っている。


 だからこそ、少なくとも記憶よりは有力で、形のある証拠であるノートパソコンを手放す事がどうしても出来なかった。


「フレイ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんでしょうか。なんであろうと、完璧に応えて見せますよ?」

 そう言ってフレイは、誘うように足を組み替える。


 そんな彼女の行動にどきりと鳴った心臓を抑えながら、パソコンをサイドテーブルへ置く。優斗がこの世界に来た時には満タンあったバッテリーも、今では1割を切っている。


 バッテリーが減っているのは、別に無駄遣いしたからではない。相場を表計算ソフトに入れて整理したり、インターネットの閲覧履歴で使えそうな情報を探したりしていたのだ。


「ギフト、見せてくれない?」

「いいですけど。手にですか?」

 優斗は先ほど買ってきた小さな銅の棒を差し出す。それを左右の手に1個ずつ手渡すと、次は水を差し出した。


「棒の先だけここに入れて、やって。あ、もしかして長時間維持するのは無理?」

「出来ますけど、びりっとしませんよ?」

「それでお願い」

 不思議そうにしながらもギフトを行使するフレイ。1分ほどして「止めて」と言われても、やはり不思議そうにしている。


「さて、どうかな」

 まだ明るいのに、と文句を言われながら貰ってきた火種で付けたランプを水に近づけると、ぽん、と言う音がした。驚くフレイに、優斗はにやりとしながらランプの火を消す。


「水も減ってるし、やっぱそうか」

「何がそう、なんですか?」

 フレイの質問に、優斗はどう答えるべきだろうかと少し悩んだ。


 優斗がやったのは、水の分解だ。正確に言えば、電気分解。

 フレイのギフトを電気だと予想した優斗は、簡易な確認方法としてこれを実行した。結果はもちろん、予想通り。


「フレイのギフトが何か調べた、って感じかなぁ」

「私のギフトは天の神の欠片ですよ?」

「あー、うん。そうなんだけどね」


(ちゃんと説明するのは、無理かな)


 説明する事を早々に諦めた優斗は、ひとまず目的を達成する事を優先する事に決める。


「フレイ、今から幾つか命令させて貰うから」

「はい。判りました」

 フレイの纏う空気が、少しだけ固くなる。一応、主人とは認識されているんだな、と苦笑しながら優斗は言葉を続ける。


「その前に質問。ギフトは最大どのくらい維持出来るの? あ、びりっとしない方ね」

「試した事があるのは30分くらいです」

 1日30分以上使えるなら十分だな、と判断した優斗は本題を口にする。


「まずこれ。パソコンって言うんだけど、たぶんこの世界に1つしかない貴重品だから、俺以外の人間にこれについてしゃべらない事。俺にしゃべる時も周りに人がいない事を確認する事

 あ、貴重品だから大事に扱ってね。何かあったら持ち出すのはこれ優先で。もちろん命が最優先」

「承知しました」

「で、これの事なんだけど。動かすのにフレイのギフトを借りたい」

「ギフトを貸す、ですか。どうすればいいのですか?」

「これにびりっとしない方を流してくれる?」

 そう言ってコンセントのプラグを差し出す。プラグにはこちらでは使い道のない周辺機器から取った銅線を繋いである。


「こっちの線を右手、で、こっちを左手で持って」

 素直に従うフレイに数日前までの彼女を思い出し、懐かしさがこみ上げる。あの彼女は、もう戻ってこない。


 パソコンの電源を入れ、バッテリーの詳細残量を表示する。そしてフレイに電気を流すよう、視線で指示する。


「おぉ、充電中になった」

「???」

 感動する優斗の姿に、フレイの疑問は積もるばかりだ。


 これで電気の心配はない、と安心した優斗は、これからのパソコンの利用方法について考え始める。


 まず、今まで通りにウェブページの履歴から情報を漁る。

 このパソコンを最近貸した相手が料理好きで、しかも貸した理由がレポートの資料探しの為だったので、既にそれなりに使える情報を得ている。続ければ、まだ出てくる可能性は高い。


 次に、辞書だ。

 今までは時間と言う制約があったので、確実性の高いウェブ閲覧履歴を優先して確認していたが、余裕が出来た今、国語辞典や英和辞典は情報の山だ。広辞苑がないのが残念だが、それでも十分役に立ってくれるはずだ。


「あのー、変態ご主人様」

「変態ゆーな」

「それは命令ですか?」

「いや、願望」

 馬鹿な会話を交わしながら、優斗は一先ずパソコンの電源を落とした。


「にやにや笑うのは怪しいからやめた方がいいですよ。いや、変態は怪しい物ですけど」

「さっきまでとの反応の差が酷すぎて、命令に従って貰えるか不安なんですが」

「私、デキる女なんで公私の区別はきちんとつけますよ? お友達の貴族様にも褒められたくらいです」

「いやまぁ、実行してくれれば文句はないけど」

「ちなみに奴隷に私的な時間はありません。だって所有されている事自体がお仕事ですから」

「嘘でも安心させとけよっ」


 激しいつっこみを入れ、肩で息をしながら優斗は命令を解除していない事に気づく。ついでに、彼女の能力についてもう少し把握しておくべきだ、とも。


「電気流すの止めていいよ」

「電気、とはギフトの事ですか?」

「あ、ごめん。そう」

 ついつい自分の感覚で話してしまう事に反省しながら、優斗はプラグを受け取る。


「で、ギフト発動中って全身にそれが流れてるの?」

「たぶん。右手で使うときに左手を繋いでいる相手もびりっとしました」

「だったら命令追加。ギフト使用中、及び使用直後はパソコンに触らない事。使用後に触る前に地面に両手を付く事」

「わかりました」

 優斗は1つ、発見をする。命令だと前置きした事柄には疑問が帰ってこない。帰ってくるのは了承の意か実行の為の質問だ。


 これはあまり多様しない方がいいな、と考えながら優斗はまた1つ思いつく。


「フレイ、もう一回買い物に行くけど、ついてくる?」

「もちろんお供します。この格好で」

「着替えない?」

「着替えません」

 即答したフレイは、水色のエプロンドレス姿のままベッドから立ち上がった。


 優斗は財布を覗き込みながら、使える予算を計算していく。購入したいのはそこそこ長い銅の棒と、鉄の板だ。


 前者の使用目的は護身用で、フレイに持たせて離れたところから、電気を流して攻撃する為だ。相手の持つ武器が金属製なら、武器や防具越しに攻撃もできるので有用だと考えた。

 後者は、火が付けられない環境で暖を取るのに使えないかと考えたからだ。こちらは電気を流して熱が出ればいいので、鉄でなくてもいい。ニクロム線があれば理想なのだが、この時代にはないだろうと判断し、電熱器は諦める。


「ついでに夕食も食べて来ようか。何か食べたい物ある?」

「酒場でなく、屋台がいいです」


 ギフトは色々と応用が利きそうだから、商売に使えない考えてみよう。そんな事を考えながら、優斗はフレイを引き連れて再度街へ繰り出した。

フレイさんのギフト紹介でした。


意外性と捻りがないかなーっとも思いましたがこれに落ち着きました。

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