世界観トレード
雷が落ちた。
森の中にある小屋の中で男が1人、途方に暮れていた。
彼の名は藍川優斗。一生を『この世界』で過ごせと命じられ、着の身着のままで放りだされてしまった不幸な青年だ。
何故彼がこんな目に合っているかと言うと、それは数時間前に遡る。
*
「世界の均衡の為に、ご協力をお願いしますねー」
何もない空間から発せられた声に、優斗は寝ぼけた目をこすった。
半分以上眠っている頭で、これは夢だ、と判断した優斗は寝なおそうと目をつむる。
「寝てもいいですけど、聞いてないと後々大変だと思いますよ?」
優斗が目を空ける気配はない。しかし、声は気にする事なく言葉を続けた。
「貴方の世界に異世界人がやって来たのは知っていますね?」
質問の形を取りながら、返答に期待していな声色で告げられた言葉に、優斗の意識が少しだけ覚醒に傾く。
(そう言えばニュースで騒いでいたな。夢の癖に凝った設定だ)
「世界とは脆いモノでして。砂粒1つ無くなっただけで崩壊が始まったりするんですよー。
そんな脆い世界から人1人分、他の世界に移動したらもう大変! このままでは2つの世界が崩壊してしまうのです。
そこで白羽の矢が立ったのが貴方と言う訳です。ぱちぱち」
声のする空間に映像が映し出される。
地球に似た青い、但し大陸等の位置がまったく違う星の映像だ。
「新井式回転抽選器による厳正な審査の結果選ばれた貴方様には、この世界へ行って頂きます。いやぁ、新井さんは偉大です。私が帽子を被っているのも新井さんへのリスペクトなんですよ? あ、見えないか。
話が逸れました。今回の移動では貴方様の大好きなファンタジー小説の様な特別な餞別は差し上げられませんが、1つだけ選択肢を差し上げます。
君は何処へ落ちたい?」
妙に強調された最後の言葉に、ようやく覚醒した、でもまだ寝ぼけた頭で優斗は行動を起こした。それが運命を決める事になるとは知らずに。
「お前は002かっ」
声と同時に繰り出されるつっこみ動作は声のする方、即ち映像の映し出されている方へと向けられた。
「ルーナル公国、クロース領ですね。では、良い人生を」
*
こうして見知らぬ土地に放りだされた青年、藍川優斗は数時間をかけてなんとか平静を取り戻して居た。
平静を取り戻した優斗は、一先ず情報の整理を行う事にした。
まずはここに来るまでの状況。
朝、いつも通りに起きて大学へ行き、昼食を食べてから帰宅。午後は講義を取っていないのでベッドに寝転がりながらレポートを打っていたら眠気が襲ってきた。眠っている間に夢で色々と言われ、現在に至る。
次に所持品。
服装は部屋着のフリースと、シャツが2枚。寝る時に使っていたノートパソコンと周辺機器が入った持ち運び用のジュラルミンケース。
そして現状。
身代りとして異世界に飛ばされた。
「……ファンタジーすぎる」
そう呟きながら立ち上がり、小屋の中を物色し始める。
優斗はここが異世界である事を疑っていなかった。あの姿なき声が語った言葉を、まるで天啓であるかの様に事実と確信しており、一生をこの見知らぬ世界で過ごすのは彼の中では既に決定事項だった。
もちろん、事実と認識していても、覚悟が決まった訳ではない。
小屋の中に目ぼしい物がない事を確認すると、唯一の所持品であるノートパソコンを立ち上げた。時刻は17時で、日付は変わっていない。
外を見ると雨が止み始めていたが、森の暗さもあって今が昼なのか夜なのかすら判らなかった。
バッテリーが満タンとは言え、この世界で充電が出来る可能性は低そうだと判断した優斗は、パソコンの電源を切る。
その瞬間、雷とは違った大きな音が聞こえた。
のんびりと更新していきますので、よろしくお願いします。