7 女神の死
2011.3.28 7章以降を大幅加筆修正致しました。
やっと読み返す勇気が湧いたとも言います……言葉足らず、描写不足。大変、失礼いたしました。
赤い髪に顔を寄せると、彼女の匂いがした。
この世界に生まれて間もない時から、ずっと一緒に冒険をしてきた女。時には頼れる仲間であり、また時にはとんでもない粗忽者であったり。それでも、一緒に居ると安心出来る存在になっていた。
そのアゼリアを、俺はその日、抱いた。
「何で、いきなりそういう気になったんですか?」
想像に反して、アゼリアは大げさな拒絶をしなかった。一番最初に顔に一発キックをもらっただけで――明日になれば目の回りに青タンが出来ていそうだが、そんなことはたいした問題ではない。ヒットしたのが口でなく、歯が折れなくて良かったと、心からそう思っている。
「俺だって男だ」
「知ってますよ。しかも、女好きでしょ?」
ほんのり紅潮した白い肌が、とても魅力的だ。出会った時から、惹かれていた。ただ――アゼリアが言う「そういう気」にならなかったのは、彼女を「仲間」以外の目では見ないように勤めていたからだ。
最初に設定した「不利な特徴」に「好色」を選ぶと、魅力的な異性を見るとそれが顔に出る。仲間を相手にそうした反応をするのは、どうもいただけない。
だが、俺は彼女を抱いた。
「アゼリア」
名を呼ぶと、彼女の目が俺を見る。
「なんですか?」
「決めた。黒炎とは、一緒に行かない」
少し驚いたように、アゼリアが顔を上げた。茶色の目が不安げにけぶる。
例の地図は、この「エルドラド」のものでもなかった。ならば、「約束の地」はまた別の世界にあるのだろう。
黒炎やリンコたちと共に行けば、探求の旅も楽になることは解っていた。リンコに、「どうせなら、一緒に行かないか」と誘われもした。
「別に、二人を敵に回すつもりはないよ。ただ、俺は俺のやり方で行こうと思う」
黒炎と俺との間に出来た軋轢は、一緒に酒を飲むとすぐに消えた。例のレプリカのロッドだけはどうしても受け取りそうにないから、結局リンコに預けた。
一緒に飲んで、話を聞いて。黒炎がえらく理想家なことを知った。「そもそも『COCOON』は、アイテムラッシュになるようなゲームではない」と力説していた、黒炎。話が合うなと思った。――だからこそ、彼とは距離を置くべきだと俺の中の何かが告げた。
これは、俺の意地なのだろう。
「賛成です。ヴァンは自分がやりたい事をすれば良い。私も、それについていきます」
当たり前のように言う、赤い髪の女。出会った時からずっと、当たり前のように側に居た女。
だから。
彼女の身体を引き寄せ、その耳に口を寄せた。
「アゼリア」
小声で囁く。
「だから、どうしたんですか?」
「お前、どうして、俺と一緒に居るんだ?」
しなやかな体躯が、強ばったのは一瞬。
すぐに形の良い唇が、笑顔を作った。
「今更、何を言い出すんだか。仲間じゃないですか、私たち」
からかうような、口調。だが、先ほどの強ばりが全てを裏切っていた。
そう。俺たちはあの日、偶然出会い、共にモンスターを倒して、その後放浪して――仲間になった筈だ。だが、どうしても納得がいかない事がある。
「古代龍の血が毒だと、何故知っていた?」
「図書館で調べたんですよ」
今度はまるで用意していた答えを口にするかのように、滞りなく答える、アゼリア。
「手際が良すぎると思わないか?」
「そうですか? 私、モンスターの事は常に調べるようにしているんですよ。冒険者として」
俺は、小さく首を振る。アゼリアと一緒に冒険をしていて、楽しかった理由は。
彼女がいつも「先ず、欲しいものあり」という姿勢だったからだ。その為に、いろいろ調べてもいたのも知っている。「どうしても、手に入れておきたいんです」と、寄り道をさせられることは、しょっちゅうだった。
だが、伝説の「古代龍」などという昨日までは実現していなかった存在の事を、わざわざ調べるだろうか? また、エデンのダンジョンに現れた古代龍が「違う世界から送られてきた影」だという彼女の推論は、見事に図星だった。アゼリアが見つけたマジックアイテムは、「エデン」と「エルドラド」を繋ぐものだった。それらは、本当に偶然なのか?
一度疑い始めれば、彼女の言動すべてが嘘に思えて来る。
「出会ったのも、偶然か?」
「当たり前でしょう? どうやったら仕掛けられるんですか?」
「犯罪者だと知った後、俺を何故助けた?」
ついに、アゼリアは大きな溜息を吐いた。
「あのね、ヴァン」
「お前、ゲームマスターじゃないのか?」
その言葉に対する反応は、いつものアゼリアのものだった。
呆気にとられた顔をして、言われた言葉を理解しようと首をかしげ――それから、首を振る。
「そういう意味では、ただの冒険者ですよ」
「そういう意味」とはどういう意味だと俺が問う前に、アゼリアは真顔になり、正面から俺を見た。
「だったら、私も聞きますけど。ヴァン、あなたはどうしてバッガードの銃を持っているんですか?」
俺は、驚かなかった。やはりな、と思っただけだ。
「やはり、最初から知っていたのか」
まさかと、アゼリアが笑って首を振る。
「それなら、もっと上手にやりますよ。レプリカの情報を知った時です。言ったのは、あなたですよ。銘が入っていると」
そう。本物とレプリカ品の違い。銘の横にシリアルナンバーが入っているのがレプリカ品だと、彼女に説明したのは俺だったか。
「そんなもの、文字が読める人間なら、最初から解る筈だろう?」
「バッガードはドワーフですよ。私はドワーフ語は読めません」
「そうだったな」と、俺は呟く。
『COCOON』では、文字を扱えるのは人間だけではない。エルフやドワーフ、神秘生物と呼ばれるガーゴイルの上位種なども個々の言語や文字を持っている。
「レプリカに対して全く興味を持っていなかったようなので、かえって気になったんです。優れた武器に興味を持たない戦士なんて、考えられないから」
そう。その武器を俺は初期装備として持っていた。だから、別の――高品質と呼ばれる武器を試して見るまでは、それが「特別なもの」である事にも気づかなかった。
その、「バッガードの銃」と呼ばれる武器を取り出す。
黒い銃身を持つそれはかなり重量があり、筋力にプラス修正がある者しか扱えない仕様になっている。
「多少、攻撃力が上がったりマナの消費が少なかったり、その程度だ。そんなものは探せばいくらでもあるさ。ただ、こいつの最大の特徴は、何度使用しても壊れない事。祝福を受けたアイテムだから」
俺が取りだした武器と俺を見比べ、
「ヴァンヘイル・ソウルダム二世。あなた、何者?」
アゼリアが、低い声で告げた。
俺は笑った。どんな顔で笑ったのだろう。さぞ、自虐的な笑みを浮かべていたのではないだろうか。
「名前の通りだよ。俺は、ソウルダム――ソルダムと呼ばれた戦士の息子という設定だ。まさか、初期装備にそのソルダムの形見が入っているとは思わなかったが」
「起源の冒険者の子孫」。冒険の間に知ったのだが、プレイヤーキャラクターの中にはけっこう居る。だが、今まで出会った者の中では百パーセントが騙りだった。どうして、俺だけが他と違うのかは解らない。GMに出会う事があれば、是非聞いてみたいと実はこっそり思っていた程だ。
アゼリアの顔が、間近に迫った。彼女の唇が触れると、俺はそれにむしゃぶりつく。
「四人で冒険ていうのも、有りかと思ったんですけどね」
深いキスの後でアゼリアが告げたのは、今までの流れを断ち切るものだった。
「夢は、所詮夢ですね」
何のことだと言う俺に、アゼリアが悪戯っぽく微笑む。
「でも、パーティは解消しませんよ。確かに、私はヴァンに黙っていた事があります。でも、まだ確定したわけじゃないから、それを知るのはお互いの為にならないと思うんですよ」
そう言った後でアゼリアが小声で――それでも俺に聞こえるように「リアル世界の事をこちらで口にするのは、厳禁ですし」と呟く。
それを聞いて、何というか――微妙な気分になった。
だから、この件については追求するまいと心に決めたのだ。好色の勘というやつだ。ただ、その勘がもう少し早く働いていたら、俺はアゼリアを抱かなかったかも知れない。
初めて会った時から、魅力的だと思っていた赤い髪の女を前に、俺はそう思った。
腕に装着した通称「無線機」が光った。アゼリアからの連絡だ。
現在、『COCOON』は一ヶ月前から比べると見る影もない程の様変わりをしていた。イベント中の特別措置とやらで、様々な場所に異世界に通じる穴がもうけられており、それを使えば即座に世界移動を出来るようになっていた。
イベントを進める為のヒントが、あまりに解りにくいという苦情が殺到しての措置らしい。
それに関しての愚痴は、全部アゼリアや酒場のマスターにこぼし済みだ。その穴を通って、俺たちは「エデン」に戻っていた。
何が起こっているのか、何を起こそうとしているのかを知るために。その為には、エデンの「冒険者の村」で情報を集めるのは有効だったし、例の「無線機」がとても役に立った。
(イベントが更新されました。ついに、道が開かれます。アルトの「タコとかぼちゃ亭」で待っています)
アルトと聞いて、とても懐かしい気持ちになる。
そこから始まるべき冒険をすっとばして、更に犯罪者の烙印を押されて逃げ出した街。
すっかりトラウマになっており、その街にだけは足を踏み入れた事がなかったから。
「あ、来た来た」
タコとカボチャが描かれた妙な看板をくぐると、アゼリアが嬉しそうに手を振る。
「最初に会った時から、食べさせたかったんですよ。ここの名物のカボチャコロッケと、タコヤキ」
進められるままにコロッケを手に取り、思い出した。
「イベント更新じゃなかったのか」
「ですね。でも、熱いうちに食べた方が美味しいですよ、それ」
更に促されたので、食べる。
美味かった。
「これで、やっとヴァンに恩返し出来た」
大きく伸びをして、そんなことを言い出す、アゼリア。
「恩返しって……お互い様だろ?」
「いいえ、これは私のけじめですから」
アゼリアお勧めの屋台料理を満喫した頃、店に居た情報屋が「イベント更新」の速報を叫ぶ。
「おい?」
「シリアルナンバー097が出たので、そろそろかと思って」
そう言ってアゼリアが取りだしたのは、大剣だった。
「ひとりで?」
「まさか」と、アゼリアが首を振る。
「お誘いがあったから参戦して、おこぼれに預かっただけですよ」
最近では、ソロプレイの冒険者がボス戦の為に仲間を募ることも多い。そういう即席部隊に合流したのだろう。
「ファーストダメージを出さないと、出ない筈だぞ」
「そこは、無茶苦茶がんばりました。ぐりちゃん達が」
そう言って、目を伏せる、アゼリア。
彼女の手首に飾られた召喚クリスタルが、全て光を失っている事にやっと気づいた。
「銃を出したかったんですけど、こればっかりは仕方ないですよね。これで、5/100の確立です」
そう。例のレプリカの放出は合計百個を上限としていた。提示されたエネミーを倒した所で、アイテムが出る確立は――世界移動が容易くなった時点で、1パーセントに引き下げられている
すべて、開発者の都合と、ユーザーの希望。
そんな文句も言い飽きていたのに……
「俺は」
「行きましょう。でないと、後悔しますよ」
「でも、それは」
「受け取ってくれないと、泣きますよ」
俺はアゼリアを抱きしめ、大剣を手に取った。
そして、向かう。定められた場所へ。
アルトのすぐ側。
はじまりの場所に設置された舞台に、ひとりの人間が立った。
「『エデン』の皆様、初めまして。GMのジャンヌです」
濃紺色のローブは、世界の秩序を保つために存在する、GMのあかし。だが、俺が会うのは初めてだ。
GMは、普通はプレイヤーキャラクターの前に出る事はない。今回の彼女も影がない所を見ると、本体ではないのだろう。
「今、私たちの前で約束が果たされようとしています。って、ニュースを聞いて来た皆様は、解っている筈ですよね。この『COCOON』を創造した女神が再び降臨するのです。新しい世界を産み出す為に」
笑ったのは、集まった群衆の中で、きっと俺だけだっただろう。
これも、開発者とユーザーの都合。『COCOON』は新たなユーザーを受け入れる為に「世界」を増やさなければならない羽目に陥った。
そんな都合をゲームに組み込んだのが、この「約束の地へ」というイベントだ。以前より利用していたユーザーが「新しい世界の創造」に参加すれば、その満足度も高まると踏んでの事だろう。
「この時に選ばれた皆様は、その世界が生まれる瞬間を見る事ができるのです。その世界の名は、シャングリラ」
ジャンヌが大げさに両手を広げる。
わざとらしいどよめきと、拍手が起った。そんなことは解っているが、ここでどよめくのがRPGの醍醐味だ。
サーバーの負荷が少なければ、世界は次々と産み出されるのだろう。だが、このイベントは一度しかない。女神の降臨は、一度で良いのだ。
「女神を呼び覚ますことが出来るのは、選ばれた者のみ。喜んでください。エデンからもひとり、その勇者が出るのです」
再び、拍手。あちらこちらから、ときの声まで上がる。ジャンヌは満足そうに頷いた。
「皆様、ニュースは聞いて来ましたか? 選ばれた人はそのアイテムを失います。失うのが惜しい人は、立ち去ってもらっていいですよ」
去る者はいない。
「では、選定された人は、アイテムを女神に」
ジャンヌが右手を挙げると、空間が僅かに歪み、そこからカプセル状のものが出てくる。
そこで眠るようにしているのは、ひとりの少女だった。
胸をわし掴まれた気がした。
カプセルの中で、あどけない顔をして、眠っているのは……。
「かつて、女神に導かれて人が住める世界を探し求めた冒険者が居ました。みなさん、知っていますよね。起源の冒険者たち。そして、彼らと共にあって彼らを導いていた女神。ここに居るのが私たちの女神、サーヤ・コクーン!」
立ちつくした俺の脳裏に響き渡るような、ジャンヌの声。
それに重なる――遠い、囁き。
(ソルダムも行くのよ)
(だって、ソルダムは私を守ってくれる戦士なんだから)
激しい目眩に襲われて、俺は隣に立つ女の肩を掴んだ。白い手が、そっと俺の身体を支えるように回される。
アゼリアを見ると、彼女の茶色の目が俺を見ていた。その視線が右手――手にした剣に注がれたので、そちらを見る。
アゼリアに託された剣が、白い輝きを放っていた。
「二人? エデンには二人も?」
GMのジャンヌが、不思議そう俺と、そしてもうひとりを見た。
輝くロッドを手にしているのは、黒炎。エルドラドから、エデンに戻って来たのか? 何の為に?
だが、そんなことを聞ける状況でも――考えられる状況ですらなかった、剣に導かれるように俺の足がふらふらと前に進む。まるで、別の意志がそうさせているように。
大剣、杖、槍、銃……約束のアイテムが女神に捧げられる。だが、どんなに待っても、女神は目覚めない。
「ペンダントがないぞ?」
誰かが言った。
「ペンダントを出した奴はいないのか?」
そうだ。約束のアイテムは五種類。ペンダントがない。
黄色い鳥を肩に乗せた少女が前に出る。リンコは、インコを手に取った。それは、緑色の石を埋め込んだ小さなペンダントに変わる。
それは。
翡翠はお守りになるからと。中に入った不純物が、あの子が好きな鳥に見える……。
「やめろ!」
叫んだのは、俺ではなかった。
「こんなものは、まやかしだ」
リンコを阻止せんばかりに、剣を抜いたのは、黒炎。
「そこに居るのは、コクーンじゃない!」
いつのまにそこに居たのだろう、アゼリアが俺の手を引く。
だから、俺は動けなかった。
動けない俺の目の前で、カプセルが姿を消した。リンコが差し出したペンダントがふわりと浮かび上がり、少女の胸元を飾る。少女の瞼が、かすかに動いた。
ゆっくりと、開かれた。
淡い色の瞳。何にも染まらない、純粋な色。
「もう、やめよう」
剣を抜いた黒炎と少女の間に立つリンコは、泣いていた。
「もう、やめよう。どうしたって、あの子は帰って来ないんだから」
アゼリアの手を除ける。少し躊躇するように絡みついてきた白い手をもう一度払いのけると、彼女はそれ以上は何も言わなかった。
アゼリアが一歩後ろに下がったのを知って、俺は自分の武器を手に取った。
「その子はコクーンじゃない。こんな歪んだ世界が、COCOONであるわけがない!」
黒炎が、震える手で剣を振り上げる。
ちらりとジャンヌを見てみれば、彼女は小さく肩をすくめただけだった。普通に、ゲームの中に存在する武器で、傷つける存在ではないのだろう。
ジャンヌは、知らない。想像しようともしない。黒炎の剣がおそらく、祝福を受けたアイテムであろうことを。
「その歪んだ世界を造ったのは、君だろう?」
振り返った黒炎は、とても哀しい顔をしていた。
彼が、その剣を振り下ろせるわけがない。だから。
「君がが終わらせないならば、私がやる」
黒炎と少女の間に入り、俺は――引き金を引いた。
目を覚ましたばかりの少女が、不思議そうに俺を見ている。
暗い部屋に差し込んだ、一筋の光。彼女はそんな存在だった。
(あのね、死んだら、どうなるの?)
そう言われて、とても驚いたものだ。この子はこんなに幼いのに、自分がいずれこの世を去る事を知っている。
気がついている。
(とても綺麗な場所に行くんだよ)
(綺麗な場所? お花が咲いてる?)
(そうだね。そこで、ずっとは幸せに暮らすんだ)
頷くと、彼女は屈託のない笑顔を浮かべて一枚の絵を取りだした。クレパスで描かれた、薄紫の花畑。
(この間、桐島さんに写真を見せて貰ったよ。ロープウエイで行ける場所にね、薄紫の花がいっぱい咲いているの。山の斜面が全部薄紫色で、とっても綺麗だった。さやも見たいって言ったら、来年の花の時期に、連れて行ってくれるって)
泣くな。泣いたら知られてしまう。
この子が、「次の桜は見られない」と宣告された事を。
(じゃあ、それまでにもう少し元気にならないといけないね)
(おじいちゃんも一緒に行くの。だってソルダムは、さやを守ってくれる戦士なんだから)
(ソルダム?)
さやが、スケッチブックをめくる。
そこには某ファンタジー系ゲームのパッケージをを真似して書いたような絵が描かれていた。
真ん中に立っているのはネグリジェのようなドレスを着た女の子。その隣には小柄な少年と、魔法使い。そして、背後には二人の戦士。
(さやの物語。戦士のソルダムはね、最年長だからすごく物知りで、そして強いの)
(では、ソルダムはいつまでも姫の傍らにいるよ)
嬉しそうに、さやかが笑う。
(あとね、いつもさやの面倒を見てくれる優しい魔法遣いが、ミヤマ)
(ミヤマ?)
いたずらっ子のような目を、さやが向けてくる。少し考えて、思いついた。一枚目の絵に描かれていた薄紫の花。
(ミヤマキリシマ?)
(当たり)
楽しそうにけらけらと笑う、少女。あの人の良い小太りの男が聞けば、さぞかし喜ぶだろう。
(ベルはね。さやが見れない世界を旅して、教えてくれるのよ)
ベルは、さやが飼っている猫だと聞いていた。
(それとね)
お姫様の背後に立つもうひとりの戦士を指でなぞりながら、さやの目が私を見る。
(ランドはね。さやが幸せになれるように、がんばっているの。本当よ。だからね)
胸が痛い。
(だから、お願い。お父さんと仲良くして)
頷くことさえ、出来なかった。
衝撃に耐えられなかった小さな身体が、宙に舞う。
そして、ゆっくりと地面に倒れた。おびただしい血を流し、彼女はもう動かない。
女神コクーンは動かない。
(幸せだよ。みんなに見守られて、すごく幸せ)
(だから……泣かないで)
(泣かないで)
「俺」は、涙を流していた。
アゼリアの手が、再び俺の身体を支える。
「お前が造ったんだ。この世界を。聞こえているか? ランド!」
まるで初めて俺を見たかのように、不思議な顔で私を見る、黒炎。やがて何かに気づいたように、目を見開いた。
「ここを歪んだ世界だと思うのは、それはお前のエゴでしかない。だから――お前も、この世界から去らなければいけない」
ゆっくりと、銃口を上げて黒炎に向ける。引き金に指がかかった瞬間、ジャンヌと名乗ったGMと目が合った。
その女は、信じられないものを見るような目で俺を見ていたが、やがて我に返ったように、右手の人差し指で私を指さし、
「BAN」
プレイヤーキャラクターにとって、もっとも不名誉なその言葉を告げた。