エピローグに代えて――アゼリアの呟き
ヴァンヘイルが『COCOON』から追放された後、初めてのシステム障害が報告された。
つまり、「巻き戻り」。確認してみたら、『COCOON』時間で『女神復活』の前日まで巻き戻っていた。
運営は、この巻き戻りは巨大クライアントパッチ配布によるシステム障害であり、故意のものではないと説明したが――果たして、そのコメントを信じる者は少ない。
「女神」の降臨によって、新たに生み出される世界。その「女神」が大勢のプレイヤーキャラクターの目の前で殺されたのだ。
GMイベント失敗など、普通では有り得ないこと。だから、失敗した部分を消し取ったと考えたほうがよっぽど自然だ。
運営側の対応の悪さに、『COCOON』を去ったプレイヤーも多い。
でも、そんなことは私には関係のないこと。それに、プログラムに綻びを作った人間は、もうここには戻って来ないのだから。
私は、今日もこの地にログインしていた。
そろそろ、自分も潮時であることは解っていたが。
ヴァンヘイルに、私は最後まで告げなかった事実がある。それは、リアル世界の彼を多分知っている事。もしかしたらヴァンヘイルは薄々気づいていたかも知れない。でも、あえて口にしない。これは一生私の心の中にしまって置こうと思う。
ヴァンヘイルと共に生きたのは、私にとってとても大切な時間だった。
「おかえり、アゼリア。ようこそエデンへ」
そう言って私を迎えてくれるのは、リンコ。彼女の肩にはもうインコは止まっていない。代わりに緑色の鳥が止まっている。
「巻き戻り」後、リンコのメッセンジャーバードだけが消えていた。運営に報告したら「バグ」によるロスト扱いになり、別の鳥が支給されたのだ。
「ただいま、リンコ」
私の言葉に、リンコが嬉しそうに笑う。
「ペガサス、どうだった?」
「見つけましたよ。リンコの情報通りでした。今から準備を整えて、見事に捕縛してみせます」
「武勇伝、待ってるから」
リンコに手を振り、最後になるかもしれない冒険に出る。
死んだ人の面影をいつまでも追うのは、きっと私の為にはならない。でも。
「ペガサスは、必ずゲットしますよ。しかも、狙うは純白です」
私は、その為に召喚士としてこの世界に生まれたのだから。
読んで頂き、ありがとうございました。
この作品は天崎 剣さん他主催であります「空想科学祭2010」出品作品でありながら、〆切に間に合わなかった極道作品です。
ラストスパート中にちょっと事故があり。時間がない。
書かなきゃ! 終わらせなきゃ! 軽いパニックを起こしながら投稿したものですので、読み返すのに本当に勇気がいりました。
やっと、改稿できた。これで、溜まったものがやっと出てくれた気分です。(安堵)
エピローグ、必要なかったかも知れません。
でも、アゼリアはお気に入りなのでやっぱり書いておかないとと思い、書いてしまいました。
まだまだ未熟な私ですが、読んでいただいた方に、少しでも気に入っていただければと思います。
ありがとうございました。
2011.3.28