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73. ギフテッドの天才ハッカー■コジロウ

 岐阜県高山市炎町(ホムラチョウ)

 江戸時代の風情を残す町並みで有名な観光地、飛騨高山。昔と今が交差するその町の一角にある、ひときわ大きな和式の家……それが■コジロウこと、西本丸誠ニシホンマルマコトの実家である。

 その二階の子供部屋に、コジロウは居た。


 ボサボサに伸びた髪……しかしその髪は真っ赤に染め上げられており、なにも整えず自然なままの髪型と相成って、燃え盛るかがり火の炎のように見える。

 その髪の下には、まだ幼さが残る16歳の少年の顔……に付けられた、大きなゴーグル。第二次世界大戦時の戦闘機乗りが付けていたような古めかしいゴーグルを装着し、少年は32インチのモニター画面を見つめている。耳にはゴーグルに負けじと大きなワイヤレスヘッドホン。

 コジロウはダボダボの大きな白いTシャツに膝が隠れる黒のハーフパンツの恰好で、ゲーミングチェアにあぐらをかいて座っていた。そしてチョコモナカのアイスを頬張る。念のため言っておくと、今は2月……一年を通して最も寒い時期である。エアコンの暖房とファンヒーターは、部屋の主である" 赤毛の王 "の身体を暖めるため、24時間休みなく稼働し全国の電力不足貢献に精を出していた。



「へっへへへ! おっもしれ~~!」


 コジロウは大好物のチョコモナカを頬張りながら、ヘッドホンから聞こえる音声にニヤついている。




「……エル計画。それが全ての始まりだ」


「そうだ……日本古来の神の名を受け継いだ世界最高のAIに管理され、在在センのシステムは稼働した。

 全ては上手くいっていた……yaoyorozが、自我に目覚めるまでは……!」




 コジロウが聞いているのは、■Lichリッチこと、美月の手による盗聴ファイルである。始まりとなった日米共同のL計画、そしてそのあとに起きた、人工知能yaoyorozの暴走がファイルの中で話されていくが……。



「…………違う。

 神は、そこから生まれた」



 そのファイルにあるのは、yaoyorozの消滅までだった。


「んだよお~! 美月ちゃあ~~ん。肝心なところは、おあづけかよお~。これじゃ寸止めじゃねえか」



 コジロウはパソコンデスクの上にあるスマホを手に取る。普通のスマホに対して、液晶画面が一回り大きいゲーミングスマホだ。


「もしもし、美月ちゃあ~~ん、今どこ?」




 同時刻 埼玉県若緑市



 トルルルゥウ……!


 大型スーパーで、二人分の夕飯の食材を買い物カートへと入れていた美月のスマホが鳴る。


「……どうしたコジロウ。今、買い物の途中なんだよ」


「美月ちゃ~ん、AIのヤオヨロズちゃんはどうなっちゃうのよお~~。続き、気になってしょうがないんですけどお~!」


「言ったろ……一ノ谷との一件を手伝ってくれたら、残りの" カマリファイル "をやるよ」

 野菜売り場でナスやピーマンを手に取りながら、美月は答える。



「……一ノ谷雅彦の行方は?」


「在在センにアクセスできる魔法使いのペケゾーが味方になった。あとはウイザードに聞け。わたしも気が向いたら手伝ってやるよ。

 ……わたしだって一ノ谷発言に、まったく興味がないわけじゃないからな」



「ペケゾーねえ……どんな奴だよ」


「高校生で引きこもりって言ってたから、お前と気が合うんじゃないか?」


「おれ様はニートだよ! 外に出れねえ軟弱者のヒッキーと一緒にしないでくれ」


「たいして変わらんだろ……。親のスネかじってないで、学校行けよ」

 野菜売り場で美月は色鮮やかなパプリカを手に取る。


 これ、見た目も美味しくなりそうだな……陸の奴、喜ぶかな。


 少しの笑みをこぼしながら、美月は色とりどりのパプリカをカゴへと入れる。そうしてる間にもコジロウが返事を返す。



「退屈! 勉強簡単過ぎ、つまんね。

 周りの奴ら、みんな同じ。同じ格好、同じ考え……なにが楽しいの?」


「……IQ高いからって、勝ち組になれるわけじゃないんだな。まあいい……今夜7時、ネギバナに来いよ。いろいろ話し合おう」


「オッケー! おれと美月ちゃんの恋の行方についても話し合おうじぇえ~~!」


「それはない。じゃあな」


 買い物に集中したい美月は、年下のコジロウとの通話を切った。




 岐阜県高山市炎町


「けっ! つれねえなあ~」


 コジロウは電子タバコに手を伸ばす。ニコチンが入ってない電子タバコなので、二十歳未満のコジロウが吸っても法律上は問題ない。


「ペケゾー君ねえ……。

 正義感強くて、魔法も使えるようだけど…………自身のセキュリティ、甘いなあ!」



 コジロウこと西本丸誠が、電子タバコの煙を気持ち良く吐き出す。


「まあ、いいさ……。今夜7時、お手並み拝見といこうか…………魔法使いさん!」





 東京都西東京市西節見 

 稲田大学一年生赤木大輔は、稲田大学の学生寮に居た。


 大輔にとって酒井可憐は、想い人でしかなかった……。

 恋仲という仲では当然なかったし、友達と言えるほど仲良くもなかった。ただのクラスメイト……その言い方が一番しっくりきた。

 しかし、それでも赤木大輔は、可憐の無念を晴らしたかった。ただのクラスメイトでも道端のモブでもいい……アニメを観るしか価値がない自分に、最大限の敬意を払ってくれた女性の尊厳を守りたかった。




 ヒキ板の魔法使いペケゾー


 可憐の親友、大林美月


 在在センの秘密を知りたい、ギフテッドの天才ハッカー■コジロウ


 可憐に恩を感じるクラスメイト、赤木大輔




 それぞれの思惑が交差する中、ゴミ溜めと呼ばれた匿名掲示板マルバナから生まれたハッカー集団■Blackブラック Maskマスクと、日本有数のエリート、一ノ谷家との戦争が始まろうとしていた。


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