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魔力がゼロに近いと判定され十年間離れのボロ屋で冷遇されてきた私が王子と王子の母親や聖女たちを料理で虜にするって本当ですか?  作者: リーシャ


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04

 甘すぎる。お菓子よりも見通しが甘い。高齢の女性、それも厳格な生活を送ってきた人が潜在的に何を求めているか。前世のおばあちゃん子だったこっちには、手に取るようにわかる。


 厨房に戻ったさっそく準備に取り掛かった。

 今回の武器は昔懐かし固めのカスタードプリン。最近の流行りであるとろける系ではない。卵の力を信じ、しっかりとした食感を残しつつ、口の中でほどける絶妙な硬さ。


 カラメル作りをする。砂糖を焦がすここが勝負だ。甘さの中にキリッとした苦味を際立たせる。焦げる寸前のギリギリを見極め、熱湯を注ぐ。ジュワッ!! と跳ねる褐色の液体が大人の味のベースになる。

 プリン液。新鮮な地鶏の卵黄をたっぷりと使い、濃厚な牛乳、バニラビーンズを惜しみなく投入。砂糖は控えめに素材の甘さを引き立てる。


 蒸し焼き。低温でじっくりと赤子をあやすように優しく火を入れる。

 焼き上がったプリンを冷蔵庫、氷魔法の魔道具でキンキンに冷やす。皿に取り出す瞬間が最大のショータイム。型をひっくり返して少し揺らす。


 プルンッ。


 黄金色の台形が皿の上に着地する頂上には、艶やかな漆黒のカラメルソースが帽子のように乗っている。仕上げに甘さ控えめの生クリームを添えて真っ赤なイチゴを一つ。完璧だ。シンプルこそが至高の贅沢。


 実食の時間。王太后の前には銀の皿に乗ったプリンが一つ。


「……これが、貴女の言う上品な菓子ですか? 黄色い塊に見えますが」


「スプーンを入れた瞬間にわかります」


 王太后は疑わしげにスプーンを持ち、プリンの角に当てた。スッ……抵抗感があるようでいて滑らかに沈んでいくスプーン。すくい上げるとプリンはプルプルと小刻みに震えた。愛らしい動きに王太后の目が一瞬だけ大きく見開かれる。


 口に入れた瞬間にカタン、と彼女の手からスプーンが落ちた。


「んっ……!」


 卵の濃厚なコクが舌の上で広がり、追いかけるようにカラメルの香ばしい苦味が鼻孔を突き抜ける。甘いのに苦い。柔らかいのに弾力があり、相反する要素が口の中でワルツを踊っている。


「な、なんという……懐かしさ……」


 氷の女王の表情が一瞬で溶け崩れた。


「子供の頃に夢見た、黄金の味……長年求めていたのは過度な装飾をしたケーキではなく、純粋な優しさだったのですね」


 気がつけば王太后は猛烈な勢いでスプーンを動かしていた。


「おいしい……本当においしい……イングス、なぜこれを私に隠していたのですか!」


「いや、母上が会ってくれなかっただけで……しかも、いじめてたでしょう?」


 完食。王太后は最後に皿に残ったカラメルソースまで名残惜しそうに掬い取った。


「バーベルアさん」


「はい」


「……あとで、もう一つ。いえ、三つほど部屋に持ってきてくださる?」


「ええ、喜んで」


 こうして王太后はスイーツ信者第一号となった。後日、彼女主催のプリンお茶会が開かれ、貴族のご婦人方がこぞってプリンを求めて行列を作ることになる。


 一方、その頃。王都の掃き溜め、貧民街の一角。公爵令嬢として絹のドレスを着ていたララルーカは薄汚れた灰色の服を着て、食堂の裏口で皿洗いをしていた。水は冷たく、美しい手はひび割れて爪はボロボロだ。


「おい新入り! 手が止まってるぞ! 残飯の処理もしろ!」


 店主に怒鳴られ、ララルーカはビクリと肩を震わせる。


「は、はい……ただいま……」


 運ぶバケツの中には客が残した残飯が入っている。パンの耳、野菜の切れ端、骨についた僅かな肉。平民の餌と嘲笑ったもの以下の代物だ。ふと、店の中から客たちの噂話が聞こえてきた。


 おい聞いたか? 王宮の新しい聖女様、こんどはプリンっていうすげぇ菓子を発明したらしいぞ。

 王太后様も骨抜きにしたって話だ。食べただけで若返るってよ。

 いいなぁ。俺たちも一度でいいから食ってみてぇなぁ。


 ララルーカは立ち止まった。バケツの中の残飯から腐敗臭が漂う匂いを嗅ぎながら、王宮の方角を見上げてからポロポロと涙を流した。


「わたしが……食べるはずだったのに……あのプリンも、王子の寵愛も何もかも……わたしが」


 グゥゥゥ……腹が情けない音を立てる。目の前にあるのは豚の餌。今はそれが何よりもご馳走に見えていた。


「あ……一口だけなら……ばれないわよね?」


 震える手で残飯の中の少しだけマシなパンの耳に手を伸ばす。そのとき。


「おい! つまみ食いしてんじゃねぇ!!」


「ひいっ!?」


 店主に水をぶっかけられ、ララルーカは泥水の中に転がった。冷たい泥の味。姉を虐げて食を冒涜した偽の聖女の、現在の主食。


 王宮のテラス。イングスと並んで夕日を眺めながらプリンを食べている。


「バーベルア、口についてるぞ」


 イングスが唇についたクリームを指先で拭い、そのまま自分の口へ運んだ。


「……甘い」


「殿下、行儀が悪いです」


「いいじゃないか。二人きりだ」


 満足げに笑い、肩を引き寄せた。


「料理のおかげで国は豊かになり、母上も機嫌が良い。本当に国に舞い降りた女神だな」


「いいえ、食いしん坊なだけですよ」


 スプーンに残ったプリンをパクリと頬張る。

 甘くてほろ苦い。最高の味とこれからの幸せな未来の味がした。

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