表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力がゼロに近いと判定され十年間離れのボロ屋で冷遇されてきた私が王子と王子の母親や聖女たちを料理で虜にするって本当ですか?  作者: リーシャ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

01

「お姉様、焦げたパンの耳みたいな生活はもう終わりにしましょう?」


 贅沢なシルクのドレスを揺らし、義妹のララルーカが嘲笑を浮かべた。ここは王立の聖女の儀。

 聖女のなり損ないとして実家から追放された元公爵家の長女バーベルア。

 バカですと言わんばかりの妹の視線。まだ気づいていないらしい。こっちに転生した現代人であり、冷遇生活の裏で世界を揺るがす至高の旨味を手に入れていたことに。


 十八歳になると聖女の適性が測られる。

 妹のララルーカは生まれつき光り輝く魔力を持ち、食事は常に最高級のフレンチのような宮廷料理。

 一方、こちらは魔力がゼロに近いと判定された十年間、離れのボロ屋で冷遇されてきたことによる残りもの。


「バーベルア、お前は我が家の恥だ。聖女の儀が終わるまで腐ったスープでもすすっていなさい」


 父が投げ捨てたのは出汁もとっていない野菜のクズ煮込み。彼らは知らない。前世で料亭の娘であり、素材の味を極限まで引き出す魔術という調理法を独学で開発していたことを。

 密かに裏庭に自生していた異世界特有の野草を研究していた。実はこっちの人間は魔力に頼りすぎて、メイラード反応も出汁の旨味成分も知らない。はぁ、原始人みたい。


 本日のメニューは異世界地鶏の照り焼き丼と、黄金のコンソメスープ。照り焼きのタレ。魔力を帯びた果実の蜜を煮詰め、発酵させた大豆に似た実で醤油もどきを作成。

 皮目をパリッと焼き上げ、甘辛いタレを絡める。立ち上る香ばしい匂い。

 炊きたてのルミナス米の上に、肉厚の地鶏を並べて温泉卵のような魔物の卵をトッピング。


「これこそ聖女の力より尊い食欲という名の福音」


 一口食べると脳を突き抜けるような幸福感が広がります。魔力がない?結構。アミノ酸があるんだから。


 聖女召喚の日。隣国の第一王子イングスが真の聖女を見極めるために来訪した。ララルーカは自信満々に光の魔法を披露するが、王子は退屈そう。それもそれでどうかと思う。


「……魔力は高いが、満たされないな。国の料理も味が薄くて飽き飽きだ」


 その時、風に乗って暴力的なまでに食欲をそそる香りが会場に漂うのは、離れで作っていた特製ニンニク醤油の背脂ラーメン異世界風の香り。


「な、なんだこの理性を破壊するような香りは!どこだ?」


 王子が立ち上がり、儀式を放り出して離れへ駆けつけた。ボロ布を纏いながらも黄金色に輝くスープを啜る女の姿が。


「それを私にも寄越せ!」


 王子の命令ににっこりと微笑む。


「ふぅん?これは魔力なしの作った餌ですが?王子が召し上がるような高貴なものではありません」


「つべこべ言うな!その香りに抗える人間などいない!」


 王子はラーメン、異世界の鳥骨と香味野菜を20時間煮込んだスープを一口飲み……その場で崩れ落ちた。


「これだ……これこそが枯渇した魔力を直接癒やす食の奇跡……!バーベルア、君こそが真の聖女だ!」


 作る料理には食べた者の魔力回路を活性化させる極上の旨味が宿っていた。



 *



「……美味い。なんだこれは。なんだこの暴力的なまでの旨味の奔流は!」


 隣国の王国第一王子イングスが震えている。

 目の前にあるのは飾り気のない木製のどんぶり。中には三日三晩煮込んだ特製の豚骨醤油スープがなみなみと注がれ、表面にはキラキラと輝く背脂が雪のように散らされている。

 王立騎士団の礼服を汚すことも厭わず一心不乱に麺をすすっていた。


「ズズッ! ズズズッ!」


 こっちにはない麺をすする音が離れのボロ屋に響き渡る。行儀が悪い? 知ったことか。食欲の前では王族も平民も等しく空腹な獣だ。


「イングス殿下! 何をしておられるのですか! そのような汚らわしい下民の餌を口になさるなど!」


 金切り声を上げたのは義妹のララルーカ。まだ懲りてない様子にバカを見る目になる。

 純白の聖女のドレスを纏った彼女は信じられないものを見る目で、どんぶりを睨みつけている。彼女の後ろには呆気にとられた父たる公爵の姿も。


「汚らわしい?」


 イングス王子がどんぶりから顔を上げた。口元は脂でテラテラと光り、瞳にはないほどの力ある。


「ララルーカ、貴様にはわからんのか?スープに溶け込んだ生命の濃縮液が」


「は、はい……せいめい?」


「一口飲むたびに枯渇していた魔力回路が歓喜の声を上げている。貴様の使う光の治癒魔法など比較にならん。これは魂を内側から修復する奇跡」


 王子は再びどんぶりに顔を埋めた。腕組みをして、様子を冷ややかに見下ろす。当然だ。こっちの住人は魔力を重視するあまり、食事を軽視しすぎている。

 茹でただけの野菜、パサパサの肉、味のしないパン。そんなもので魔力が回復するわけがない。作ったのは前世の記憶にあるラーメンを再現したもの。


 ただし、ラーメンではない。こっちの魔獣オークボアの骨を砕き、髄液まで抽出したスープに疲労回復効果のある薬草マンドラゴラ・ニンニクを大量に溶かし込んでいる。名付けて聖女式回復背脂マシマシ豚骨醤油。


 旨味成分であるグルタミン酸とイノシン酸の相乗効果は、魔力伝導率を爆発的に高める。


「バーベルア……お前は一体何を」


 父が震える声で私を呼んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ