第八幕:無能警官と取り調べ室
やあ、君。人間の頭は都合よくできている。特に創作者の頭の中ほど、都合の良いものはない。どんなに賢い者だとしても、それは呪いのようについてまわる。
ーー頭の出来が、他人と違うとおもってしまうことさ。
第七幕では、アーサーが再び事件担当の警官アンソン大佐に会いにいくことを宣言した。アーサーなりの事件探求が始まったんだ。
スタッフォードシャー警察署にて、アーサーが再び通された部屋は、暖炉のない取り調べ室だった。
今度はホームズも取り調べ室の中にいて、アーサーと共に話を聞くことになった。
なぜかって?
このグレート・ワーリー事件を詳しく調べたのはホームズだから。アーサーは体調を崩していただけだったから。
「アンソン大佐。この事件は難解です。ですが、ご安心ください。公安の目に、探偵の目さえあれば、真実は明らかになるでしょうーー約束します」
アーサーは静かに微笑んでみせた。
内心、ハラワタが煮え繰り返ってた。
また寒い部屋に通されたからだ。
アンソン大佐は深くため息をついた。
彼はホームズを見た。
「彼はーーなぜついてきたんだ?」
ホームズは目を見開き、視線を下に向けた。
「彼は私の助手です。記録係みたいなもんです」とアーサーはホームズを庇った。
アンソン大佐が怪訝な顔をした。
アーサーを少し見て、ホームズの方に顔を向けた。
「ーーなるほど。
ーーで、ドイルさんは何を思いついたんでしょうかね。
失礼ですが、我々の立場として何も言えません。
そこはご理解ください。」
アーサーはーーうなづいた。
「ふふふ、筆跡鑑定ですよ。アンソンくん。
犯人は重大なミスをせざるおえなかった。ーー匿名の手紙を出したことです。
この手紙はジョージ・エダルジをギャングのリーダーとして貶めています。
だが根拠のないデタラメーー私はそう睨んでます。この手紙を書いた犯人を見つければ、おのずと事件の謎は世間であきらかになるでしょうーー」
アーサーは、そういうとアンソン大佐を見た。アンソン大佐は静かに答えた。でなきゃ、彼はアーサーをーーやめとこう。彼は紳士だ。そして、警察官だった。
「なるほど。我々に筆跡鑑定をしてみろ、ーーと。ドイルさんは、この村の誰の筆跡を鑑定させたいので?
我々が怪しいとにらんでる相手の筆跡を一人ずつ調べて、鑑定人に調べさせろーーというつもりでしょうか?」
アンソン大佐は続けて言った。
「匿名の手紙を書いた人物が、事件に直接関係していると、なぜ決めつけているんですか?便乗しただけの、それだけかもしれないーーそうですね?
筆跡鑑定もタダではありません。
捜査するにしても、限界があるんです」
アーサーの鼻息が荒くなった。
「君、怠慢だぞ!筆跡鑑定をするものがいないんだ。そうだろ?」と言った。
「我々には、筆跡鑑定人に頼む仕組みはある。だが、ドイルさんに詳しく説明する義務はない。手紙を誰にまわすかも、捜査をする上での重大な秘密です」とアンソン大佐は拳を強く握った。
「ご協力ありがとうございます。
ドイルさん。他に何か、必要なことは?」
「ジョージ・エダルジとの面会をさせてもらいたい」
「わかりました。ホームズに手続きを進めてもらいます」とアンソン大佐は疲れたようにホームズを見た。それから呟くように言った。
「ーードイルさん。あなたの新作は私にも分かりました。きっと、あなたは我々を無能だと書きたてるでしょう。
物語としてね。
ロンドンでの世論も、もしかしたら歴史ですら我々を無能集団と断じるかもしれません。
だがーー覚えてください。
我々には法のシステムがあるんです。
それを無能と即断するのは、
我々だけでなく、国すらも無能としてるのです。ーーそこに国への敬意はない。結果だけを判断した浅はかさは、人を煽動させる危険なものなのですーー」
アンソン大佐は冷ややかに説明したが、アーサーの頭の中では物語が構築されていった。
それは浅はかな結果と都合の良い物語であった。
ホームズとアンソン大佐は、寒気を感じたようにブルっと震えた。
(こうして、第八幕は浅はかな物語で幕を閉じる。)




