第七幕:筆跡鑑定の希望の光
やあ、君。臭いものにフタをしたいと思った時はないかい?
その人に大したことをされてないけど、どうしても生理的に受け付けられない。嫉妬とは、また違う嫌悪感。
感じたことーーないかい?
第六幕では、体調を取り戻したアーサーが、ホームズに事件の内容を聞いたところを見た。
ホームズの事件の説明は、分かりやすかった。アーサーの作家としてのプライドを傷つけた。まるで話の中に出てきた未使用のナイフが、アーサーの魂を刺した。
だが彼は、耐えた。どこか攻撃できるところがあるはずと、彼は意識を集中させた。
「手紙だ。手紙はーー筆跡がわかる!ーーそうだ、マヌケ!手紙はどうした?ーー筆跡は調べたのか?」とアーサーが跳ねた。
パンクズがテーブルの床に落ちた。
「す、すみません、先生ーーひ、筆跡はーー調べて、ませんーー」
ホームズは怯えてみせた。
「マヌケ!筆跡は変えようとしても、必ずボロが出るんだーー!」と唸るようにしてアーサーはホームズを罵った。
「いいか、ホームズ!筆跡鑑定だよーー!ははーーそうだ」とアーサーは下唇を噛んだ。彼は筆跡鑑定すればいいと安易に思った自分を恥じた。
ーー誰の?
誰の筆跡を比較すればいいのか、わからなかった。
どうするーー誰の筆跡をーー
彼は警察に聞こうとした。
「ヤツらは、協力はしてくれないだろうーーあいつめ。あの男さえいなければーー」とアーサーは事件担当の警察官を思い出した。
「名前を聞けばよかったーーあの無礼な警察官のーー」とアーサーは呟いた。取り調べ室で、アーサーを侮辱した男を。
ホームズは怪訝な顔をした。
「ーーも、もしかして、ジョージ・オーガスタス・アンソン大佐のことですか?」
アーサーは、ホームズに顔を向けた。
「なぜ、ヤツの名前を、お前なんかが知ってるんだ?」
「せ、先生がお休みになっている時に、偶然に、あってーー」
「ーーなんだーーあの男は、私の助言が聞きたかったんだ。やはり探偵の目がなければ事件解決は難しいんだろーー」とアーサーは喜んだ。
その様子を見て、ホームズは苦笑した。
「アンソン大佐に、筆跡鑑定を依頼しなきゃいけないな。すぐにーー!」
アーサーは立ち上がった。
事件解決に一歩近づいたからだ。
「ホームズ。ジョージ・エダルジとなんとか話をしたい。彼と話ができるように手続きしてくれ。彼が本当に犯人か、この目で見極めてやる。探偵の目だ!」
「さ、さすがです。せ、先生。
探偵の目は、そんな事も、で、できるんですね?」
「もちろんだよ、君。まあ、ホームズには難しいだろう。私だけの共感力だーー」
(こうして、第七幕は筆跡鑑定で幕を閉じる。)




