第四幕:牧師館の名探偵
やあ、君。ふだんから君をバカにしている相手に何かーー気の利いたこと、やったとして、すぐに相手から良い評価がもらえると思うかい?
バカにされたら、もう評価を変えるにはーーよほどの事をしなきゃいけない。焼石に水だ。ーー気長に付き合うしかない。
第三幕では、冷酷な警察によりアーサーは侮辱された。彼は探偵の目を使って事件解決を目指す。
その前に、休まなきゃならなかった。
さて霧雨が、村の石畳を濡らす音が、まるでアーサーを嘲笑するように響いていた。
アーサーとホームズは傘をささずに村の中を歩いていた。
前をずんずん、ホームズの前をアーサーは歩いてた。
「せ、先生、地面が滑りやすくなってます。き、気をつけてくださいーー」とホームズが彼を気遣ってきた。
アーサーはムスッとして応えた。
「ーーホームズ。泊まるところを手配してくれたのは助かる。ーーだがね、勝手な判断を、君はしたんだ。これは重大な命令違反だ。ほめられたことじゃない。むしろ、罰を与えられるべき裏切りだ。」とアーサーはホームズを見ずに前を向いて歩いた。
なんでこういうかと言うと、かなり寒かったから。彼らはブラウンの外衣をまとっていたが、雨は冷たかった。
「私と君の知性の差だ。これがわからんから、君はいつでもダメなんだーー指示をあおげ。個人プレーはよせ。
わかったかね?」と鼻を鳴らした。
「ーー先生、そこの家です」とホームズはアーサーの肩をつかんだ。
アーサーはふりかえった。まるで尻でも鷲づかみされたかのようにホームズの手を、顔を交互に睨んだ。
「……あの、そこの家は、温かく迎えてくれますよ。紅茶をいただかないと……」と、言葉を絞り出すように言ったが、アーサーは聞いていない。村の通りは、炭鉱の煙突から吐き出される煤煙でくすんでいた。
そこの家とは、教会のそばにある牧師館だった。赤みがかったレンガ造りの二階建ての建物だ。
空は灰色で薄暗く気味が悪かった。
アーサーは建物に近づいた。
正面玄関は重厚な木材のドアで、アーサーを拒むかのようにあった。
「おい!誰かいないか?」と彼は扉を強めに叩いた。がっしりとした身体の太い腕がドアを乱暴に揺らした。
まわりを囲む庭は、手入れが行き届いた。芝生と低い生け垣で区切られてた。
ドアを開けたのは牧師だった。インドの血を引く穏やかな顔に、疲労の影が濃ゆかった。目は乱暴な来訪者への不審な色があった。
「……あの、ーーどなたですかな?」
アーサーは目を見開き、ホームズを見た。
ホームズは牧師に、こう言った。
「キャンベル刑事から、この家に泊めてもらえると、勧められました。
ちょうど部屋があいてるとの事でーー」
その時、牧師の顔が苦痛に歪んだ。
「え、ええ!なんて、残酷な!神よ!ああ、私たちをお救いください!」
彼は突然しゃがみ込んだ。
「で、部屋は空いてるのか?」とアーサーがイライラしたように聞いた。
牧師は顔を押さえて応えた。
「息子のジョージの部屋が空いてます。彼は逮捕されたんです!
キャンベル刑事からーー」
悲痛な叫びが響き渡った。
アーサーは悲しくなって、牧師の肩に手を置く。
「私はコナン・ドイルだ。名探偵の生みの親だ。シャーロック・ホームズを読んだ事はあるかね?」
しばらく牧師は呼吸を整えてた。
それから静かにつぶやいた。
「あんな恥知らずの本をーーアンタが?」
牧師はアーサーを見つめた。
ーーアーサーの頬がひきつった。
(こうして、第四幕は牧師により幕を閉じる。)




