第三幕:探偵の目と警察の目
やあ、君。名探偵は現実に必要か、考えた事はある?
すでに法を守る仕組みがあるのに、一般人が首を突っ込んでいいモノだろうか?
たとえ頭が良すぎたとしてもさーー。
第二幕では、気弱なホームズと作家アーサーの関係を説明した。
彼らは事件の匂いを嗅ぎとると、
急いでイギリスのサリー州ハインドヘッドの屋敷をでて、ロンドンへ向かった。そこから長時間の汽車での旅をした。村に到着すると、彼らはスタッフォードシャー警察署にむかった。
いきなりではなかった。
アーサーはホームズを使って、事件担当者に電報を打たせたからだ。
『私はコナンドイルだ。怪事件の情報を求める。警察は協力しろ』
こんな感じの内容だった。
ホームズはアーサーがよこしたメモの内容を見て、苦笑してた。
一瞬だけ嘲笑の影が、彼の顔に横切り消えた。
ーーアーサーには自信があった。
事件を解決する自信と、彼の名声が
警察を跪かせることをーー。
「頭が飾りでなければ、彼らは話を聞いてくれる」と汽車の中でアーサーは何度もホームズに同じ話をした。
アーサーは、不安だったかもしれない。
さて、彼らが案内された部屋は、
警察署の薄暗い取調室だった。
ホームズはアーサーから、
部屋の外で待つように指示された。
ホームズはうなづき、彼の後ろ姿を黙って見送った。
外は霧雨がふっていた。
取り調べ室には暖炉なんてのはなかったから、すごく寒かった。
アーサーは、こんな部屋を用意した男をバカだと思っていた。
「早く情報をよこせ、このマヌケ」と彼は目の前の男に怒鳴りたかった。
男は灰色の短髪に灰色の目をした厳格そうな男だった。警察の制服なのに、彼がきたら軍服に見えた。
これから戦いにくる男の目だった。
彼はアーサーにこう言った。
「私がここで、あなたにあったのは他でもない。あなたに敬意を見せたかった。
事件の情報をお求めのようだが、自分の頭で想像したまえ。
以上だ。次回作を楽しみにしている。
それでは、お引き取り願おうーー。」
アーサーは、口をあんぐり開けた。
次の瞬間、アーサーの顔は赤くなった。
「この事件には、もっと隠された何かがあるーー」と彼はしぼりだすように声をだした。
彼の頭に乗ってる髪がーーパラパラとうごいた。
「君たちの目では気づかないものだーー君たちには分からない探偵の目だーーなにせ、私はコナン・ドイルだ。探偵の生みの親だ。ホームズを作ったーー」
「わかりました、ドイルさん」と男は微笑んだ。少しだけ口調が優しくなった。
「たしかに我々は探偵の目はわかりません。ーーですが、あなたも警察当局の目はご存じないでしょう。
泊まるところがお決まりでしたら、
今から休んだらどうですか?」
男は手帳に何かを書き込んでいた。
たぶん、やる事があるんだ。
この話し合いよりもーー。
「だいぶ疲れているように見える。
あの村には観光と呼べるモノはない。
せいぜい、煙突の煙だけーー」
男は手帳を閉じた。
「休めるとこがなければ、
あなたが横になれる場所を、当局が用意しようーー」
この言葉を聞いて、アーサーは立ち上がると部屋から出ていった。
彼らは大して自己紹介もしなかった。
だって二人とも相手をバカだと思っていたから。
さて、アーサーが取り調べ室から出ると、ホームズがいなかった。
彼は目を見開いて辺りを見回した。
「あのマヌケ!ここにいろと言ったのに!」とアーサーは少し大きな声で文句を言った。
しばらくして、ホームズが縮こまりながら廊下の向こうから歩いてきた。
それから彼は、吃りながらアーサーに話しかけてきた。
「せ、先生。あの休めるところを手配して、お、おきました。
あの、事件関係の、うちに泊まらせてもらいますーー」
「なに?なんだ、そこは?はっきりと言えーー!」とアーサーは怒鳴った。
「もしかして、村にはホテルはないのか?」と彼はホームズにたずねた。
「あ、あの村にーーホテルはありませんーーだ、誰も興味のない村に、宿泊施設は、ひ、必要ないので」
ーーアーサーの顔が引きつった。
ーーもう帰りたかった。
あの太陽の光がいっぱいの、
彼の屋敷の居間にーー。
彼の背後で、取り調べ室から男が出てきた。アーサーをイヤなものでも見るかのような、侮蔑の目で見てから、去っていく。
(こうして、第三幕は侮蔑の目により幕を閉じる。)




