表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウスト〜迷惑探偵作家の幻視〜  作者: ヨハン•G•ファウスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

第十幕:探偵廃業

やあ、君。観察する力がいくら優れていても、老化には避けられない。

目は良くなければ、適切な情報を得る事はできない。アーサーは40代後半。彼の目は確実に衰えていく。

探偵業を続けていくには、人の協力は不可欠だった。


第九幕では、アーサーの天才的な物語によって、従来の警察の捜査方法などはズタズタに踏みにじられた。


捜査に関わった捜査官たちは、上層部から異動や謹慎などのーーまあ、色々あった。世間が落ち着くまでのね。


その日も、アーサーはホームズを連れて事件現場を捜査していた。

太陽が昇り切った昼の事だった。

観光名所もない別の村で、別の家畜殺しが起こったんだ。

そこで家畜が夜中に腹を割かれた。

現場には足跡がなく、犯行は夜間に行われ、やはり目撃情報もなかった。

アーサーは事件現場を見回し、いつも通りにホームズに事件を観察させた。

「ホームズ、事件だ。準備はできてるか?」と、アーサーの後ろにいてオドオドしている黒髪短髪の男に聞いた。

「は、はい、先生ーー」

村人たちは近くにいて、名探偵作家の捜査のやり方を真剣になって見つめた。

ホームズが地面に四つん這いになって、顔をこすりつけるようにして土を観察した。それから手帳に書き込み、白い紙に泥をつまんで包んでた。

家畜は腹を割かれたまま、放置されていた。ひどい臭いだった。ハエが集っていた。周辺には野犬たちが集まっていた。村の若者たちは犬たちを追い払って、野犬がこれ以上近寄らないようにしてた。犬は唸り声をあげてた。

奇妙な光景だった。

事件現場をそのままにするのは、不可能だった。

飢えた獣たちが見逃すはずはないのだからーー。

その中で、ホームズは黙々と観察を続けた。アーサーは両腕を組んで冷静に見つめた。

耐えきれなくなって、村人が聞いた。

「ドイルさん。そろそろ、家畜の処分をしたいのですがーー他の家畜たちのストレスになりますしーーその」牧場主からの苦情がでた。

「まだ調査が終わってないーー」とアーサーは静かに答えた。

「事件解決の証拠を見つけるためには、これは必要な事なのです!」


牧場主は目を見開いた。

「そのーーあなたは調査しないんですか?二人いたら、そのーー効率的ではありませんか?」

「全体を見通す者が必要なんです。

私までが彼のように、這えというのですかな?真実は、それほど単純には解明できません。これは純粋な捜査活動なのです。警察にはムリなことです。

ええ、そうです。彼らの頭は飾りーー」と彼が持論を述べようとした時だった。破綻は急に起きた。


野犬たちが銃声で追い払われ、何匹かが横たわり痙攣した。撃たれたのだ。

警官隊が群れて、この騒ぎを鎮圧していた。

そのグループを指揮していたのは、アンソン大佐であった。

彼は軍人のように厳格に、効率よく問題を解決した。

放置された家畜を処分し、

野犬たちを追い払い、

村のヒマ人たちを容赦なく遠ざけた。

彼はキビキビと歩き、牧場主と作家の前まで来て、頭を下げた。

「ドイルさん。ーーここまでです。あなたには探偵業をやめてもらいます。ーー完全に」

このアンソン大佐による現場の介入は、アーサーを怒りに震えさせた。


「キサマ!私を逮捕させるつもりか!

この事はロンドン市民の前に、白日のもとに晒すからな!

捜査の邪魔をし、私の、個人の、個人的な活動に口をだしたんだから!」とアーサーは地団駄を踏んだ。

「我々はドイルさんを逮捕しません。

嘆かわしいことに、世間ではーーあなたは警察よりも事件を解決させられる男なのですからーー」

アンソン大佐は部下に命じ、地面に顔を埋めてたホームズを拘束させた。

可哀想にホームズの顔から血の気が引いた。

アーサーは、この光景に口を開けた。

「ーーな、何をしてるんだね、キミ!?」

アンソン大佐は、ホームズの方に顔を向けていた。

「この男をーー我々は逮捕します。理由は、あなたと共に無断で公的な捜査に介入し、証拠などをーーまあいい、とりあえず捜査を邪魔したんだ。

看過できない。彼は、ホームズは逮捕する。そして、あなたに近づけさせない。今後ともーー」

アーサーは下唇を噛んだ。

「今後ともーーだと?何の権限があって?」

「もちろん、公的な捜査の邪魔をしたからです。世間は納得する。

彼は、あなたではないからだーー」


ホームズは家畜のように馬車に乗せられていった。何度もアーサーを振り返るが、引きずられるように現場から離れていった。

彼は吃りながら、泣いていたーー。

「ホームズ、ホーームズーーー!!」とアーサーは彼を追いかけようとしたが、足が上手く動かなかった。

ショックと怒りで、全身がわなないていた。

「ーー別の助手を使う案はやめといた方がいい。ドイルさん。」とアンソン大佐は、ゆっくりと言葉を続けた。

「現実は甘くない。彼は逮捕された。

新しい助手も、あなたの活動に付き合えば、また逮捕される。

それに、いい年でしょう。ムリに地面に顔をこすりつけなくても、あなたにはやれる事がある。もっとふさわしい事だーー」

アーサーは目に怒りと怯えを浮かべた。

「シャーロック・ホームズの次回作を期待してますよーー、ミスターコナン・ドイル」


この言葉をかけられた時、

アーサーの心の棒がへし折れる音がした。


(こうして、物語は一旦閉じる。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ