7話 過去の記憶―鰭ヶ崎と理事長― ①
7話 過去の記憶―鰭ヶ崎と理事長― ①
放送部の話がひと段落して、理事長とともに応接室を後にした。
さっきまで賑やかに響いていた部活動の音は、日が沈むにつれ、片付けの気配へと変わっていた。
校舎の中にも、ゆっくりと夜が近づいている――そんな気がした。
夕焼けに染まった廊下を二人で並んで歩いている。
そんな時、理事長が遠くを見つめながら話をしだした。
「ところで君は今、好羽と同い年だから・・・」
話の途中で、たまたま廊下の窓を見ると、黒色のスーツを着たおじいさんに付き添われ、リムジンに乗せられる稲毛好羽の姿があった。
やはり、彼女の背中は寂しそうで悲しそうな気がした。
「鰭ヶ崎君・・・!鰭ヶ崎君・・・!」
「は、はい!す、すみません・・・つい、ぼーっとしてしまいました・・・」
理事長の声に引き戻され、鰭ヶ崎は慌てて返事をし、頭を下げた。
理事長は少し微笑み、再び口を開く。
「君は今、好羽と同い年だから、一年生かい?」
理事長の穏やかな声が、夕暮れの静かな廊下に響く。
鰭ヶ崎は一瞬、足を止めそうになった。胸の奥に、さっき見た好羽の後ろ姿がまだ焼き付いていた。
「えっ、あ、はい・・・そうです」
自分でも情けないほどたどたどしい声だった。
そのまま理事長は再び足を進め、二人の間にしばし沈黙が流れた。
「鰭ヶ崎君は、先程は何を感じて、何を思った?」
鰭ヶ崎は、突然の問いに戸惑った表情を浮かべた。
「え?・・・さっきですか?」
「そう。さっき応接室で、何を感じた?」
理事長の顔を見ると、非常に真剣な表情をしていた。
「そうですね・・・。意外と部活動をするのも悪くないのかなって。それに、自分の中でも何かを感じました・・・。それが一体何かは自分でも分かりませんが。」
「そうか・・・。これで好羽は何か変われるものがあるのかな・・・。」
理事長が少し立ち止まり、外を眺めながら小さくつぶやいた。
「好羽がですか・・・」
「いや、何でもない。」
理事長が見ていた外には、すでに夜の気配が降りてきていた。
学校前の家や街灯がひとつ、またひとつと灯り、好羽を乗せたリムジンの黒い車はもう見えなかった。
その景色はまるで別世界にいるような、鰭ヶ崎の胸の奥に寂しさを残していった。
あの背中は、何を思っていたのだろう。あれは、諦めなのか、それとも決意の表れなのか。
自分はただ見ているだけで、何もできなかった。もし同じ状況になったら、自分は何を選べるのだろうか・・・。
「変わるって何ですかね・・・。」
先ほどの理事長の言葉が頭に残り、無意識に口からこぼれた。
理事長は何も言わず、静かに歩みを進めながら、ふと小さく息をついた。
「人は、環境や出会いで変わるものだよ。時に、自分でも選べない形でね。」
それは独り言のようだったが、鰭ヶ崎へ向けられた言葉だった。
「・・・自分で選べない、ですか。」
鰭ヶ崎は足元を見ながら小さく呟いた。
理事長は柔らかな笑みを浮かべたが、その目には何かを知っているような光が宿っていた。
「君が感じていた何かは、いつか分かる日が来るかもしれない。もし分かった日が来たのなら、それをしっかりと表現してあげればいいと思うよ」
「ちなみに、それでも表現ができなかったらどうすれば・・・」
「その時はその時だ。重要なのはその時までの時間を大事にすることだよ」
「案外、難しそうですね。」
理事長と鰭ヶ崎は、いつの間にかお互い微笑んでいた。
職員室の灯りがつき学校の昇降口の外はすっかりと暗くなっていた。
「鰭ヶ崎君、もう外は暗い。今日は帰ろうか。家まで送るよ。」
「いや、先生。僕、家は近いので全然・・・」
「いいんだよ。遅くまで私に付き合ってくれたからね。」
鰭ヶ崎は少し申し訳なさそうな様子で理事長を見つめていた。
「さて、私は理事長室に戻って荷物を取ってくるから先に校門前に行っててくれ。」
「はい。分かりました。ありがとうございます。」
鰭ヶ崎は理事長に深々とお辞儀しながらお礼を言い、薄暗い廊下を一人で歩いて校門へと向かった。
暇つぶしで書いてます。
気が向いたらまた、更新します。
色々、下手だったらすみません・・・。




