6話 理事長からの・・・。
6話 理事長からの・・・。
部活動の話が一区切りつき、誰もいない応接室前の廊下は部活動の音で満たされていていた。窓に目をやると、水泳プールの水面が、夕焼けに染まり、静かにきらめいていた。
応接室の空気が沈黙に包まれるなか、白井先生はゆっくりと席を立ち、落ち着いた声で口を開いた。
「さて、今日はもう遅いから、このあたりで終わりにしよう。放送部の詳細については、また後日話し合うことにしよう。」
白井先生の言葉に、鰭ヶ崎と稲毛はうなずき、それぞれ帰りの支度を始めた。椅子の軋む音やカバンのファスナーの音が、静寂の中で控えめに響いていた。
そのとき――
ノックが三度、短く響いた。
ためらいがちなその音は、まるで「入ってもいいですか」と静けさに問いかけるようだった。
「どうぞ」
白井先生の声に続いて、ドアノブがゆっくりと下がり、扉が静かに開いた。
「ちょっと失礼するよ」
みんな思わず息を呑んだ。
そこに立っていたのは、紛れもなく理事長だった。
理事長は教室内を見渡し、稲毛好羽に視線を向けると、静かに口を開いた。
「好羽、ここにいたのか。もう帰ったのかと思っていたよ」
好羽は一瞬目を逸らし、やがて戸惑いを含んだ声で答えた。
「おっお祖父様・・・あっ・・・あの・・・」
白井先生が目を丸くしながらも、好羽の様子に何かを察して口を開いた。
「これは・・・稲毛理事長先生。何かご用でしょうか?」
「いやいや、実はね」
理事長は少し笑みを浮かべながら続けた。
「今日は鰭ヶ崎君と少し話がしたくてね。教室にも職員室にもいなかったから、探していたんだよ。」
鰭ヶ崎は戸惑いながらも立ち上がった。
「僕に・・・話、ですか?」
理事長はゆっくりと頷き答えた。
「うん。あまり時間は取らせない。ただ、少し君と話したい。」
その言葉に、応接室の空気が少し張りつめた。
白井先生も黙って、事の成り行きを見守っている。
鰭ヶ崎は一瞬だけ白井先生に視線を向けたが、すぐに理事長の方へ向き直った。
「わ、分かりました。・・・どこでお話すればよろしいですか?」
「私の部屋でもいいし、歩きながらでも構わない。もちろん、ここでもいいよ」
そう言った理事長はふと思いついたように好羽へと目をやった。
「そうだ、好羽。校門前に執事の佐倉さんを向かわせておくから、先に家へ帰りなさい」
「はい。分かりました、お祖父さま・・・。白井先生、今日はありがとうございました」
「鰭ヶ崎君。またね」
好羽は一礼し、静かに扉へ向かい、扉へ手をかけたまま、わずかに立ち止まった。
しかし、何も言わずに扉をそっと開け、音を立てないように閉めた。
――まるで、自分の存在ごと空間から消そうとするかのような静けさだった。
その背中には、確かに寂しさが滲んでいた。
それはきっと、好羽の胸の奥に押し込めてきた何か――言葉にならない想いが、ほんの一瞬だけ顔に出てしまったのだろう。
視線の揺らぎ、唇の微かな震え、そして振り返ることのない歩み。
どれもが無言の訴えだった。
それでも俺は、何も言えなかった。
「何か」を感じていながら、声をかけることすらできなかった自分が、情けなかった。
後悔なのか。戸惑いなのか。
あるいは、もっと別の――自分でもまだ名前をつけられない感情なのか。
これまで、好羽とはどこか距離があると感じていた。
理事長の娘として、無意識に一線を引いていたのかもしれない。
でも、あの一瞬の表情に、自分は想像以上に彼女を見ていたのだと気づいた。
あれは、家族同士の何気ない会話なんかじゃない。
迷い、ためらい、伝えられなかった気持ち――
そのすべてが、あの背中に詰まっていた。
「では、行こうか。少し歩こう。君の話を、ちゃんと聞きたいんだ。」
理事長の声に、現実へと引き戻された。
鰭ヶ崎は小さく頷き、胸の奥に渦巻く感情はまだ整理がつかなかったが、理事長の後に続いた。
暇つぶしで書いてます。
気が向いたらまた、更新します。
色々、下手だったらすみません・・・。




