5話 僕の普段の日常が終わる。⑤
5話 僕の普段の日常が終わる。⑤
「君たち。これまでの短時間でこんなに・・・」
白井先生が少し涙を浮かばせながら、静かに言葉を続けた。
「さて、一旦やる方向性にはなったが、部活の内容はどうする?鰭ヶ崎。稲毛」
俺は不意に肩をすくめた。勢いで「やる」とは言ったけど、まだ何をするのかなんて具体的には考えてなかった。何をやるべきなんだ・・・。
稲毛の方を見ると、彼女は腕を組んで、少しだけ真剣な顔をしていた。
「そうね、せっかくなら、誰かの背中を押せたり楽しませたりできることがしたいなって思ってるの」
「背中を押したり・・・。楽しませたりする・・・?」
「うん。例えばだけど、演劇とか映像とか、ラジオとか・・・。
そういう伝えることを軸にした活動。見た人、聞いた人がちょっと勇気を出せたり挑戦しようって思えるような。そんなのきっと面白いと思うの。どうかしら・・・?」
「伝える力・・・か」
俺は思わずそう呟いていた。
今まで、誰かに伝えるだなんて、ろくにできなかった。
でも、もしかしたら――そんな俺でも、この機会に誰かに何かを届けられる日が来るかもしれない。
「まぁ、やってみるか・・・。伝えるって、案外、難しくて面白そうだな」
「じゃあ決まりね!」
稲毛が手をパンッと打った。
「鰭ヶ崎。まずは何か、誰かに伝えたいことを考えてみなさい。
いいか?そこから始めるんだ。」
「――分かりました。今、少し考えてみます」
「うん。それでいいんだ。鰭ヶ崎。」
白井先生は腕を組み、こっちを優しく見つめながら頷いた。
「とはいえ、活動の形から考えるべきですよね・・・」
白井先生と稲毛もこっちを見ていた。鰭ヶ崎はさらに話を続けた。
「演劇と映像関係の部活は時間も人手も必要ですよね。
勿論、俺と稲毛さんの二人では到底この二つは確実に難しい。
だから、簡単に且つ日常的に他者に言葉を使って伝える。届ける方法を・・・」
鰭ヶ崎の言葉が途切れた。しかし、その瞬間、ふと中学の風景が頭をよぎった。
――中学の昼休み、教室の片隅で一人、窓から空を見上げながら給食を食べていて、なんとなく聞いていた校内放送。
誰が喋っていたのかも、何を言っていたのかも、ほとんど覚えていない。
けど、やたらと元気なテンションの声とか、噛みまくっいてる放送とか、淡々と読み上げている放送とか・・・。
そういうのだけ妙に記憶に残ってる。
「えー。今日の給食はきな粉パンとABCスープ、それから――」とか。
「今日の給食はカレーです! やったー!」とか。
「えっと・・・えーっと・・・次は、えー・・・」みたいな沈黙とか。
こっちはただ机に突っ伏しているだけだったのに、やたら明るくて。
正直、ちょっと鬱陶しいなとか思ってた。でも・・・今思えば、あれ、誰かがちゃんと伝えようとしてたんだよな。
放課後の夕焼けの光が差し込んだ静かな教室で流れていた部活連絡。
聞いても自分には関係ないと思ってた。
表彰とか結果発表とか、そういうのは決まってあっち側の人たちの話だった。
自分には縁のない世界。
それでも、毎日欠かさず流れてた。
毎日、耳にしていた。
何も考えず、ただのBGMみたいに思ってた放送。
でもあれ、本当は――誰かの声だった。言葉だった。
誰にも気づかれなくても、届いてなくても、それでも、話してたんだって今気づいた。
・・・今さら、ちょっとだけ、羨ましくなった。
「――放送、ってのはどうだ?」
「放送?」
稲毛が首をかしげた。
「ああ。校内放送。朝とか昼休みに流れてるやつ。
あれって、ちゃんと誰かに届けるって形になってる。
俺たちにもできるかもしれない。言葉で、誰かの背中を押すこと」
稲毛の目がぱっと輝いた。
「それ、いいじゃない。 シンプルで、だけど可能性がある。
放送なら、声だけで勝負できるし、アイデア次第で色んなことができそう」
白井先生も頷いた。
「うむ、放送か・・・。この高校に放送委員がないから丁度いいかもしれんな。方向性としても非常に面白い。
伝える力、言葉の力を中心に据えた部活動・・・やってみる価値はあるかもな」
「じゃあ、放送部、ってことになるのか・・・」
その言葉を口にした瞬間、不思議と胸が高鳴った。
俺にはできないと、そう思い込んでいたはずなのに――
稲毛が嬉しそうに笑って、鰭ヶ崎を見ながら照れるように言った。
「いいじゃない、放送部。今度は、私たちの声で、誰かの時間をちょっとだけ変えてみましょうか」
白井先生も笑顔を浮かべたまま、静かに言った。
「では、まずは企画書を一緒に作っていこうか。君たちの声が、誰かの心に届くように」
暇つぶしで書いてます。
気が向いたらまた、更新します。
色々、下手だったらすみません・・・。




