第21話 文化祭
中間試験の結果が出た。
試験直前になって色々あり不安だったが、幸いにも学年六位。前回十位だったことを考えれば、かなりいい順位だ。
ちなみに天城さんだが、体調不良などものともせず、今回もぶっちぎりの一位を獲得。当然のように、全教科満点。……いやもう、本当にどうなってるんだよ。
ともあれ。
試験が終わったことで来月の文化祭に向けての準備期間に入り、校内は一気に浮ついたムードに包まれた。
「ってことで、一年二組での出し物について、何か意見あるひとー?」
放課後。
学級委員長司会のもと、文化祭での出し物決めが始まった。
「はいっ!」「はいはい!」と次々に挙がる手。
うちのクラスは割とまとまりがあるというか、男女関係なくみんな仲がいいのもあって、もう既に結構楽しそう。
定番のお化け屋敷だとか、演劇をしようとか、カジノがしたいとか、あれこれと縦横無尽に意見が飛び交う。
僕はというと、当然静観。
こういう時に意見を言うキャラじゃないし。
……っていうか、僕が何か喋って白けたら怖いし。
昔からそう。
みんなに全部決めてもらって、僕は隅っこで適当に楽しめれば十分。役割がないならそれでいいし、むしろ何も任されない方が気楽でいい。
「とりあえず現状出た意見だと、飲食系をやりたいっていう人が八割って感じかな。じゃあ、ジャンルは飲食系に決定で」
委員長主導のもと、サクサクと話し合いが進む。
最終的に喫茶店かお祭り屋台かになり、クラスはくっきり二分する。
「絶対喫茶店がいいよ。色々食べ物出したりするの楽しそうだし、男子を女装させて接客とかさせるのも面白いし」
「何で俺たちが女装するのが前提なんだよ!? ってか、屋台の方が絶対いいって! 文化祭での利益って打ち上げに使えるんだぞ? 出すメニュー絞って食べ歩きにすれば回転率が上がるし、その分だけ儲かってあとで焼肉に行ける!」
「回転率って……それ、文化祭で気にすること?」
「だ、大事だろ! 儲かった方が絶対に楽しいし!」
意見を交わすクラスメートたち。
色々なものを作って楽しみたい――これが喫茶店派。
無駄を排除してとにかく数字を出したい――これがお祭り屋台派。
委員長は二派閥の意見を頷きながら聞いて、パンと手を叩いた。
「落としどころとしては、メニューの違う屋台をいくつか出す、ってところじゃないかな。フランクフルトの屋台とか、唐揚げの屋台とか。それなりの収益も期待できそうだし」
これにお祭り屋台派は納得の表情。
しかし、喫茶店派が不満そうに挙手する。
「フランクフルトとか唐揚げって、ただ焼いて揚げるだけじゃん。それって面白い? せめてケバブとかクレープとかの屋台にしようよー」
「そういうのを色々やるって相当大変だろ。どれか一本に絞るとかしないと」
「じゃあクレープ! 甘いのとかしょっぱいのとか、たくさん作れて面白そう!」
「いやでも、材料費だけで相当いくだろ。クレープの生地を焼く機材だってレンタルしなきゃいけないし……」
一瞬まとまりかけたが、すぐに亀裂が。
話の流れ的に、調理が簡単で、作ってる感があって、その上で利益が出せるものか。
うーん、難しいな。この話し合い、相当長くなりそうな予感がする。
何でもいいから、早く決まらないかなぁ……。
「あっ!」
と、女子の一人が声をあげた。
「メニュー、佐伯君に考えてもらおうよ!!」
決まらないからって、一人に押し付けるのか。
まあでも、わりとありかもしれない。グダグダするより、誰か一人が決定権を握った方がいいだろうし。
そいつは責任重大だな。僕なら絶対に無理だ。たぶん緊張で吐く。
んで、このクラスに僕以外に佐伯っていたっけ……?
…………あれ? いなくない?
「ほら、佐伯君ってちょー料理上手でしょ? 天城さんのお弁当、いつも佐伯君が作ってるんだよ!」
「へぇー!」「すごーい!」と視線が集まる。
弁当のこと、何でうちのクラスのひとが知ってるんだ……?
……いや、知ってて当然か。天城さんって有名人だし、しかも何でもベラベラ喋るし。
「それに一人暮らしで食費も自分で稼いでるって聞いたし、原価とかの計算も得意じゃない? 勉強だってできるし、絶対適任だって!」
「いや、僕は――」
「すげぇな佐伯! ありがとう、マジで嬉しいよ!」
「だ、だから――」
尊敬、そして期待。
僕にとってはあまりにも重たい視線が集まり、声をあげようにも封殺されてしまう。
昴に助けを――と、視線を横へ。あの人気者なら、きっと何とかしてくれるはず。
……あ、ダメだ。
仕事があるからって、授業が終わってすぐに帰ったんだった。
「じゃあ申し訳ないけど、メニュー作り、佐伯にお願いしてもいいかな? 困ったことがあったらすぐに言って。できることは何でもするから」
「…………は、はい」
委員長の言葉に、意思の弱い僕はただ頷くことしかできなかった。
拍手が重い……やばい、本格的にお腹痛くなってきた。
どうして僕がこんな目に……。