自慢の子
とある昼下がりの住宅街。掲示板の前にて――。
「あら、こんにちは!」
「あらぁ、こんにちはー!」
「お元気?」
「ええ、おかげさまで。そちらは?」
「ええ、元気、元気! うふふ、ところで、何を見てたの?」
「あっ! そうそう、これ見て! 実はね……うちの子が選挙ポスターのモデルになったのよお!」
「あら、すごいじゃない! わあ、可愛く撮れてるわねえ! 『未来のために、投票を』ですって。なるほどねえ、赤ちゃんだからこういうお話が来たのねえ。よかったわねえ」
「ええ、お話が来たときにはもうびっくりしちゃって! うふふ、誰かに話したかったけど、ほら、最近は子供がいる家庭が少ないし、気を使っちゃうじゃない? でも、あなたに会えてよかったわあ。それで、そちらのお子さんはどう? 何かお話が来たことある? あっ、なかったらごめんなさいねえ、うふふふふ!」
「あ、それがね……実はうちの子、雑誌の表紙に採用されたのよお!」
「えっ……あ、す、すごいじゃない! あ、へー、そう、ほんと? へえー」
「いや、もうお恥ずかしいわあ。撮影現場に私も行ったんだけど、うちの子ったら、人が多くて緊張しちゃって全然笑わなくて、もう困っちゃったわよお。まあ、ついこの前まで赤ちゃんだったから仕方ないわよねえ。でも、お顔が良いってみんなに褒められてね。おもちゃの銃を構えたポーズが凛々しいって! うふふ! よかったら書店やコンビニで手に取ってみてね。私のインタビューも載ってるのよ」
「そうなのねー」
「あら、こんにちはー!」
「あ、どうもー!」
「どうもお……」
「何の話してたの?」
「ふふふ、まあ、大したことじゃないけどね。彼女のお子さんがポスターのモデルになって、うちの子が雑誌の表紙に出たって話よお」
「ねえー、大したことなくてごめんなさいねー」
「ええっ! 雑誌の表紙!? すごいじゃない!」
「でしょー!」
「ほんとそうよねー」
「ほんとにめでたい話だわあ。あ、そうそう、めでたいと言えばね、うちの子が今度CMに出ることになったのよお!」
「えっ、CM……?」
「あら、すごーい! ね! すごいわよねえ!」
「そう? 台詞が『募金お願いしまーす』なんだけどね、なかなかうまく言えなくて、二回も撮り直しちゃって。まあ、ついこの間まで保育園児だったし、仕方ないわよね。でも監督さんには『たった二回でできるなんて天才だよ』って褒められたわあ。私はそんなことないと思うんだけどね。ああ、恥ずかしいわあ。放送されたら見ないでね。まあ、放送期間が長いみたいだから目についちゃうと思うけど、うふふ」
「ええ、そう、ええ」
「雑誌よりもすごいわねえ」
「あら、こんにちは」
「あ、どうもぉー!」
「どうもぉ」
「どうもですぅ」
「皆さんお元気そうで」
「ええ、もう、うふふふ!」
「ぼちぼちですね……」
「私はちょっと元気になったわあ」
「今ね、うちの子がCMに出る話で盛り上がってたのよお!」
「あら、そうなの」
「もーう、テレビで見かけたらよろしくお願いしますねえ!」
「ええ、はい、何がよろしくなのかはわかりませんけど、はい……」
「あらもうー、奥さんったら元気ないわねえ。あ、そういえば、奥さんのお子さんは? 何かやってないの? ポスターのモデルや雑誌、まあ、CMはないでしょうけどね! もう大きいでしょうし、十歳ぐらいだったかしら? うふふ」
「うちの子は先日、徴兵されたわ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」