永遠に君を願おう
見て頂き、ありがとうございます!
主人公がひつると読んで、親友をがくと読みます。
どちらも高校生です。
4000文字ぐらいなんで割とすぐ読めると思います!
……ピピピ……ピピピ……ピピピ……ガチャン
また朝になってしまった。この所、同じ日をループしている。これから母は卵焼きを焦がしたあと、妹の隠していたテストを見つけて怒鳴る。妹は怒鳴り声で起き、涙目になりながら味噌汁をすする。父は5時半ぐらいに家を出ていった。普通の日がループするなら特になんともないのだが……。今日は唯一の友達と言える楽が休んでいる。放課後家を訪ねてもいなかった。1日なら良い。が、ずっと会えてない。読みたかった漫画の最新刊は明日だし、同じ番組しか観てないし。
「火鶴ー?早く降りて来てー」
「今行くよ。待ってて」
アラームの音から3分経っても降りて来なかったらこうやって僕を呼ぶ。何か特別な事をすればループから抜けられるのかと思い、高校を休んで遠出してみたり、母に反抗してみたり……。あれは心が傷んだ。これまで反抗期なんて無かったから。寝ずにいようと思っても気づけば朝の6時半になっている。つけた傷も食べたお菓子も明日には元通り。楽しかったのは初めの3日ぐらいだった。やはり楽と会うのが正解な気がする。何処にいるのか。大体の見当はつく。そろそろ本当に降りないと怒りの標的が僕に変わってしまう。急いで用意して下に降りた。
「ごめんねー卵、焦がしちゃった」
「大丈夫だよ。今日は友達の家に行くから遅くなるかも。9時ぐらいかな」
「何、9時までなんて珍しいじゃない。楽しんでらっしゃい!」
頷いて黙々とご飯をかきこんだ。今日は遠出してみるつもりだ。学校もサボる。この生活になって分かったが、僕の学校はちょっと電話すれば生徒でも余裕で休める。名古屋から東京。どのくらいかかるだろう。お年玉も持ったし、少しおとなっぽい服も用意してる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。で、彩︎華。これは何?」
早めに退散するとしよう。これからめんどくさい事になる。いつも親に黙って遠くに行く時は家を出る瞬間がしんどくなる。このループの生活になるまでは嘘なんてほとんどついて来なかった。やっぱり、これは呪いのようなものな気がする。
次は品川。9時20分を過ぎた頃。なぜ東京なのかと言うと、東京はかなり前だが、楽と2人で来たことがあるからだ。もちろん勘ではあるが、楽は東京に行ってる気がする。だが、よく考えて見ると1日で東京を探し回れるわけが無い。つまりこの先ずっといるかもしれない友を探すことになる。時間はたっぷりある。気長に探すとしよう。
それから8時間、ひたすら歩いた。前に2人で来た所はあとここで最後になる。ここに来た時、元々いっぱいお金はあったのに、気づいたらほとんど無くて、予定を変更して2人でハンバーガーを分け合って食べたのだ。なんだかんだ言って沢山歩いた後だったから美味かった思い出がある。入ってみたが、やはりいなかった。もしかしたら東京では無いのかもしれない。次はどこに行こうか。そんなことを考えていた。
「な。ちょっと分けてくれないか」
後ろから聞き覚えのある声がした。
「楽?楽なのか?なんで」
「お前ならここに来ると思ってな。それより、本当に済まない。ループさせてしまったのは俺のせいだ」
何を言っているのか。そして何故ループを知っているのか。あれが呪いだったとして、楽にかけられたというのか。そんな訳ない。そんなことあいつはしない。
「どういうことだ?これはお前のせいなのか?だとしたら解いてくれ。もう散々だ。10年は経ってる」
「10年も、か。まぁ待て。説明する。これは元々また別の友達にかけられた呪いで、解呪をするとまた別の人に移るっていう呪いだ。しかもこっちで決められる訳では無い。完全ランダムだ。俺が呪いを解いた後、運悪くお前に移ってしまった」
「つまり、まず解くことはできるんだな。良かった。それなら移った人をまた解けば良いんだな」
「そんなことが出来たらな……」
「解けるんだろ?頼むよ。教えてくれ」
「何を聞いても、驚くなよ」
静かに頷いた。今はただこの日から逃れたい。だが少しだけ、嫌な予感がした。たった数日のはずなのに、2人とも大人びている。
「人を殺すことだ」
嫌な予感が的中した。親友は人を殺していた。急に辻褄があった気がする。東京に来ていた意味が何となく分かる。怖くなった。これから人を殺すのか。
「殺したの?」
「路地裏で1人、ね。13年かかったんだ。まだ警察には見つかってない。老人相手に詐欺をしている男だった。でもやっぱり罪悪感は残ってる。あの感触は忘れらんないね」
「それ以外の方法。出来ることなら探したい」
「君がそうしたいなら、僕は付き合うよ。僕からしたら1日だしね。僕の今日やった事。全部教えるよ。場所を移そう。ここじゃ落ち着けない」
それから僕らはカラオケに行ってたまに歌いながら、少し雑談しながら、楽しい時間を過ごした。何年ぶりか。心の底から楽しめた気がする。
「俺さ、3ヶ月ぐらいカラオケに通って歌上手くなろうとしたんだよね。1週間で辞めちゃった」
「僕はプールに行ってクロール練習したな。ちょっと泳げるようになった」
「良かったじゃん。お前プールの授業めっちゃ嫌いだったもんな」
「苦手なのは変わんないよ。多分この生活が終わっても、お前より遅いと思うよ」
「なんか、今がずっと続けば良いのにな。まだ話したいことがたくさんある。でもここの記憶は残らないって分かってるのに」
もう11時になった。あと1時間であのベッドの上だ。何も出来ない、10年経って罪を一生背負う覚悟も出来ていない。どうしようもない。仕方ないとかそんな言葉ばっかり頭の中にある。こんだけ言っておいてそんな事するくらいならこの日が続く方が良いと思っている。そして人を殺してもその後にはいつもの日々がある。
「ごめん、ごめん楽。ほんとにごめん」
「謝るのはこっちだって、俺が巻き込んじまった」
黙り込む2人を秒針の音が襲う。早いようで短い1時間。僕はいつも通り、ベッドの上に居た。
シーツを握りしめながらずっと泣いていた。親は放っておいてくれた。人を殺すこと。すっかり顔つきの変わった友達。妹を叱る母親の声。枕の中に言葉をいくつも隠した。この日々から逃げださなくちゃ。そうだ。楽に会いに行かなきゃ。一緒に探すって言ったじゃないか。明日は会いに行こう。絶対に見つけるんだ。この日々から抜け出して、楽と一緒にどこかで暮らそう。遠い国とかに行ってでも。考える時間が増えて良い事は無かった。嫌な事しか考えられなかった。いつかは人殺しと化すのだろう。それならば早く、覚悟を決めなくちゃ。その時、母親がノックをして部屋に入ってきた。
「お父さん。今日帰ってこれないんだって。残業があるって。大変なんだね」
こんな会話これまでした事がない。ずっと部屋にこもっていたからだろう。学校に行けと促すつもりなのだろうか。お父さんが頑張っているのだからあなたも頑張りなさいだとか。
「あなたが何に悩んでいるのか。打ち明けて欲しいなんて言わない。1人で考える時間も大事。ただ、私達はどうなっても貴方を尊重する。その気になったら話して欲しい。ごめんね。上手く伝えられなくて」
「ねえ、母さんは自分か他人、どっちの方が大事?」
「他人かな。少なくともそうありたいと思ってる」
「ごめん。ちょっと出かけて来るね」
僕は家を勢い良く飛び出した。
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「もう、もうやめてくれ!金は沢山あるから!誰にも言わないから!」
ナイフをそいつの体に見えなくなるほど沈ませるとやっと黙ってくれた。やっとこの日々が終わると思うと、清々しい気持ちになった。だが、怖くもある。その時、知らない人からメールが届いた。
「次は鳥羽火鶴です」
それだけ書かれていた。親友だ。もしかしてこのループが次火鶴に変わるのだろうか。謝らなければ。不思議なことに頭が全く回らない。急いでキャリーケースに入れた。
ここから先を俺は知らない。とりあえず今夜、深夜バスで函館まで行く。はっきり言ってどうすべきかなんて分からない。でも、とりあえず逃げたかった。コインロッカーにキャリーケースを入れる。手ぶらになって少し安心したのか、お腹が空いた。いつも食べるハンバーガー屋に行った。ゆっくり食べた後、立ち去って服でも買おうと思った時、見覚えのある顔が見えた。
「ごめん火鶴。もう何周もしてるんだろ」
「やめてよ。そんなこと話に来たんじゃないんだ。詐欺師はどこにいるの?」
「なるほど、全部聞いたんだな。何するつもりか知らないがやめてくれ」
「そいつの上で繋がってるヤクザの事務所に行って放火してくる。そこに一緒に置いてくる」
すっかり知らない顔になった友に少しがっかりした。覚悟を決めたんだろう。運命とは残酷だ。
「なぁ、終わった後上野駅で集合しよう。函館までのバス。2席取ったんだ。一緒に来てくれ」
「あぁ。ありがとう」
改札前で待っていた時、連絡をしようとした瞬間。見たくない物を見てしまった。歌舞伎町で火災が起きたと。目撃情報によると、黒っぽい服を来た20代の男だったそうだ。おそらく、火鶴のことだ。まだ何人か中に居るそうだ。成功した、ということだろう。少し嬉しくなってメールを開くと、もうすぐで着くと送られていた。電話がかかってきた。
「ごめん。間に合わないかも。3人につけられている。どうにか撒いてから行く。ちょっと待ってくれ」
「大丈夫なのか?何か、俺に出来ることあるか?」
「先に向かっといてくれ。あとから合流しよう」
「死なんでくれよ。マジで」
「もちろん。楽しみにしてる」
そう言って電話が切れた。とりあえず向かうことにした。不安で仕方がない。手に跡ができるほど握りしめた。
結局あいつは来なかった。隣の空いた深夜バスで1夜を明かした。全然眠れなかった。ループをしてる中で見つけたマイナーなJPOPをずっと聞いていた。
函館に着くと、思っていたより寒くなくて、少し服を着すぎたなと思った。通知音がした。急いで見てみると、明日函館に着けるから待っていてと言われた。手にはこれから先も残りそうなくらい大きな跡ができていた。安堵で少しお腹が減ってラーメンを食べた。少しだけ観光をしてあいつを待った。ホテルで1夜を過ごした。コンビニで買った菓子パンを食べて函館港に行った。
「楽!久しぶりだな!」
見た事ないくらいの笑顔であいつはバスを降りてきた。高校生2人が行方不明となった事件は、ニュースでちょっとだけ流れた。
僕の部屋の中に、嫌な空気が流れている。
「ねえ、何があったの?母さんに教えて。火鶴君は?」
「火鶴ならいるじゃんずっと。後ろにいるよ?」
そう言うと母は振り返った。おかしそうな顔をした。
「火鶴君のお母さん。葬式にも来ずに行方不明だって。妹さんだけ置いてかれて、かわいそうに」
「僕のことはほっといてよ。もう良いから。忘れて?」
「また来るから」
そう言って母は部屋を後にした。この所夢と現実が曖昧になっている。今だってどっちなのかよく分からない。火鶴と函館を歩いていると思えば、汚い部屋の中でうずくまっていることがある。次は誰に感染したのだろう。
「楽?もう朝だぞ」
「ああ、ありがとう。ちょっと変な夢を見ていたみたいだ」
北海道の山の中、僕たちはひっそりとテントの中で暮らしている。どこかのタイミングで海外にでも行かなきゃな。そのためにはお金が必要だ。今日はバイトの面接を受けに行く。2人で160万ぐらいだろうか。そのためには2年ぐらいはバレずにいる必要がありそうだ。ってあれ? さっきまで自分の部屋に居たはずなのに。おかしいな。最近ずっと変な夢を見てる気がする。
部屋に嫌な笑い声が充満した。