事故 【響子】
ヤバイ。どうしよう。いや、落ち着け! こういう時に落ち着きが一番なんだ。歯がガチガチと震える……。そうだ、深呼吸だ。
響子は目をつぶり、深く深呼吸を繰り返す。だが、心拍数はそう簡単には下がってくれない。
そっと目を開け、目の前にある光景を確かめる。やはり夢なんかじゃない。現実だ。
「ど、どうしよう……!」
震える声。足までも小刻みに笑っている。まるで、足が木にでもなったかのようだ。
私は……悪くない。悪いのはあいつ等よ。そうよ、あいつ等! あいつ等が私に……!
響子の目から、涙が零れる。
「響子!」
後ろから呼ぶ声に、ビクリと反応する。心臓がさっきよりも暴れだす。
ゆっくり振り向くと、こちらに向かってくる裕樹の姿があった。
「ゆ、裕樹……」
こっちに来ないで、お願い。どうしよう。裕樹にコレが見つかったら……。
「テニスコートに行ってもいなかったから探したぞ。おい、どうした? 何、泣いてんの? てか、顔色悪いよ。どうし……」
裕樹の言葉と動作が止まる。
見てしまった。いや、見つかってしまった。
倉庫の中いる、滝真奈子。
「なんだよ、これ……」
大変だ、どうしよう。裕樹に見られてしまった。
だが、響子はそこから動くことができない。だが、動けたとしても何をしたらいいのか。そこまで考える冷静さはなくなっていた。
「これ、お前がやったんじゃない……よな」
裕樹は真奈子から視線を逸らすことが出来ない。
「当たり前よ……。部活で使う物を取りにきたら……滝さんが……」
とっさに出た、嘘。本当は違う。
まさかこんなことになるなんて思わなかった。……いや、元々こうしなければならなかったのだ。
これがあいつ等からの絶対の命令だった。
玄関にいた、真奈子を見つけた響子は声をかけた。話があるから場所を移さないかと響子が誘った。真奈子はどこか嫌そうにしていたが、断ることはしなかった。