開幕#5
―――放課後。
真奈子との約束の時間。
裕樹は掃除があるのを思い出し、それを真奈子に伝えようと思ったのだが、真奈子が見当たらない。掃除をサボりたいところだが、それはみんな同じ。後から同じ掃除の人たちにグチグチと言われるのが嫌な裕樹は、仕方なく掃除を続ける。
そのうち自分を探して、教室に真奈子が訪ねてくるだろうと思っていた。だが、真奈子は掃除が終わっても教室に訪ねてくることはなかった。
玄関にいるのかと思い、玄関に向かったが、そこにも真奈子の姿はない。
丁度、部活準備のために廊下を走っていた弘幸に声をかける。
「弘幸、滝みなかった?」
「滝? ああ、さっきのことで?」
随分と走っていたのか、弘幸は額から流れる汗を拭いながら、「そういえば……」と続ける。
「さっき、玄関にいた滝と片岡が話してたのを見たな」
「響子と?」
「そう。まあ、なんとなく話の内容は予想つくけどな」
ニヤっと笑う弘幸。白くて歯並びの綺麗な歯。
裕樹にも予想はついた。きっと、真奈子が裕樹を呼び出したことだ。
「それいつだよ」
「んー、十分か二十分くらい前。でも、二~三分の間に俺がまたここを通った時には、二人はもういなかったけど」
「わかった。サンキュー」
弘幸に礼を言い、その場を後にする裕樹。
ひとまず、響子の所へ行こう。確か響子はテニス部だったはず。
靴を履き、玄関を出るとテニスコートのあるグラウンド方面へ裕樹は向かった。
響子に、またいつものように何か言われるんだろう。そう思うと憂鬱になる裕樹だった。