開幕#4
トイレの帰り、教室に向かい廊下を歩いていると聞きなれない女子の声に呼びとめられた。
―――誰だろうか。後ろを振り向くと、そこには同じクラスの女子が立っていた。
確か名前は滝真奈子。
「あの、伊形君って部活とか何もしてなかったよね。今日の放課後大丈夫かな……」
「え、あ……大丈夫だけど何か用?」
真奈子とは同じクラスだが、真奈子はとても大人しい子なのであまり喋ったこともなかった。だから裕樹は、驚き同様する。
「うん、話があるの」
真剣な顔つきの真奈子。こんな表情を見るのは初めてだった。
「今じゃダメなの?」
「絶対に他の人に聞かれちゃダメな話なの。それに少し長くなりそうなんだけど……時間あるかな?」
「長いのは別にいいけど……。わかった、放課後でしょ?」
「うん、ありがとう。また放課後でね」
そう言って真奈子は、裕樹の前から立ち去った。
「裕樹」
真奈子と入れ違いで、今度は響子が後ろから声をかける。強気な口調で、怒ってる様子だった。
「今の何よ」
腕を組みながら響子が近づいてくる。響子は、さっきの真奈子との話を聞いていたのだ。
「何って、放課後のお誘い」
裕樹は面倒くさそうに、重たい口を開く。
「何で断らないのよ」
「断る理由なんかないだろ。そもそもお前に関係ない。こっちのことに突っ込んでくんなよ、そういうのまじやめてほしい」
響子は唇をかみ締め、目に涙をためている。
やってしまった。ついカッとなると、この口がベラベラと動いてしまう。それが悪い癖だとも分っていながらも、簡単には治ってはくれない。
「何よ、もう!」
響子は我慢できずに泣き、裕樹の前から走り去ってしまった。
裕樹はそんな響子のことを心配することなく、教室に戻った。
先ほどの、真奈子の話を弘幸にすると、弘幸は面白そうだと笑った。裕樹と響子が喧嘩した隙に告白するんだと、幸弘はない話を勝手に盛り上げた。それはありえないと否定した。
『絶対に他の人に聞かれちゃダメな話』
一体、それはどんな話なんだろう。