怪物 【裕樹】
『木町雪穂の亡霊』
『滝真奈子の亡霊』
なんて学校中でささやかれるようになったのは、三日前。
きっと今も二人はこの世を彷徨っているんじゃないかと、見たこともないのに想像を口にするヤツがどんどん増えてきた。
そもそも、こんな噂がささやかれるようになったのは、露木千秋が行方不明になってからだった。
二組は呪われている。同じクラスから、二人もの死者が出ているのだ。そう思われても、裕樹は仕方のないことだと思ったが、周りから避けられる学校生活に少し嫌気がさしてきたところだった。
「裕樹……」
まだ少し気まずそうに話しかけてくるのは響子。
響子と仲を戻したのは、滝真奈子の通夜のとき。
『あのときのことと、今までの態度のこと、ごめんなさい』
先に謝ってきた素直な響子に、裕樹は自分も悪かったと、響子を許した。
「何?」
「あの……」
首をかしげる裕樹。
「どうしたの」
「うん……」
何か言いたげな響子。目が合うだけじゃ、伝わるものも伝わりはしない。
「あのね、裕樹。私、言わなくちゃいけないことがあるの」
真剣な顔つきに、どうやら真面目な話なんだと、裕樹はおしはかる。普段、そういう話はしないので、どんな内容なのか全く検討もつかなかった。
だが、その会話の中を遮るように声が入る。
「話してるところ悪いんだけど、片岡さん。ちょっといい?」
菅原奈都が響子に用事。なんだか凄いコンビだな、と裕樹は珍しがる。
「……う、うん」
ぎこちなく返事をする響子。
助けて。
響子の視線になんとなく気づいていた裕樹だが、まさか助けを求めるものだとは知らず、それには気づいてない振りをした。
「お前らって、いつからそんなに仲良くなったんだ?」
響子に問いかけたつもりだったが、奈都が口を開いた。
「女子はみんなフレンドリーなの。すぐ仲良くなれるんだから。ほら行こう、片岡さん」
奈都は薄く笑うと、響子の腕を引っ張る形で教室を出て行った。
何がフレンドリー? つい最近まで木町雪穂をいじめていたヤツがよく言えるものだ。自分の所為で木町雪穂が死んだと思わないのか。何で笑っていられるんだよ。
二人が出て行った教室の出入り口に目を向けながら、裕樹は怒りに震えた。
裕樹は少し、不安であった。響子が奈都と接すること。何かと面倒だな、と思うときもあるが、やっぱり彼女として心配する。あいつ等がまた繰り返すようなことをしているんじゃないか。さきほど、響子の話そうとしていたこと。もしかしたらそのことに、関係していることだったのかもしれない。